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第1話 主はすべてを良しとされた

お楽しみいただければ幸いです。

 第1話 主はすべてを良しとされた

 

 大聖堂の窓から差し込む午前の陽の光だけが、薄暗い大礼拝堂の中を照らし、室内に響いていた聖歌の声がピタリと止むと、その静寂に礼拝堂正面の一番高い位置、つまりは祭壇の説教台に立つアルノルト(すう)()(きよう)は頷いた。


 叙任式は滞りなく進んでおり、そのことに満足しているかのようにさえ見える。

 

 今日、この場で、(じよ)(さい)の任命を受けることになっていたローレンスはそのように感じていた。ローレンスだけではない、この場に集った新たな地位と使命を受ける数十人もの聖職者たちも同じように感じていることだろう。


 枢機卿は高みから一同を見渡すと、笑みを浮かべ口を開く。

「ロベルト・オリエンス司祭。前へ」

「かしこまりまして」

 それに応えるのは、皆のうちでも最も高い叙任をうけるオリエンス司祭であった。地方の教区での功績や華々しく、ローレンスですらその活躍は同僚の侍祭(アコライト)たちだけではなく父達からも噂で耳にしたほどだ。

 

「創造神の名の下、高司祭へ任じる。大聖堂にてフランシス・ダンジェロ枢機卿に仕えるように」

「主の御心のままに」

 

 祭壇の前、膝をつき両手を組み合わせ、軽く項垂れると承知の旨を簡潔に告げるが、その言葉に乗る歓喜の調子は隠しようもない。


 そうして次々に司祭に叙せられるもの達が呼ばれ、司祭への任命と各教区への異動を告げられる枢機卿の言葉とそれに返す宣誓が続き、助祭の任命の番がまわってくることとなった。


 ローレンスが呼ばれることになるのは一番最後である。

 それは当然のことであった。聖職者としての経歴でいえば一番短いのだから。

 成人に達していない者の叙勲は、まれだとはいえ、名門中の名門でしかも治癒術で名高いエントラス伯爵家のような出自であれば決して珍しいとはいえない。

 だが、ローレンスは違った。

 

 彼は未だに十歳であり、前代未聞といっても良い出来事(ねんれい)であったのだから。


「ローレンス・レンテ・エントラス侍祭、前へ」

「かしこまりまして」

 そう返し祭壇へと向かうローレンスへ、興味と好奇とあるいは嫉妬が入り交じった視線がいやおうなしに突き刺さる。――あれが、エントラス家の次男坊か。あの幼い少年が、エントラス伯の秘蔵っ子か、と。


 だが、ローレンスはその視線を一身に受けつつも、心躍ることを抑え切れずにいることを自覚していた。父からの期待に応え、長兄よりも一足早くの叙勲。それはエントランス家の名を今自分が背負っているのであるという自負(プライド)でもあったからだ。


 新たな門出の喜びを隠しきれずに、祭壇の前で(ひざまず)くとまっすぐにアルノルト枢機卿の顔を見上げた。そうして彼の言葉を待つ。


「ローレンス・レンテ・エントラス侍祭、助祭に任じる。そして――」


 だが、ローレンスは戸惑いの表情を受かべることとなった


「――大聖堂治療院にて、マーガレット・サリバン司祭に仕えるように」

 

 その枢機卿の言葉によって。


 一瞬の間を置き、抑えられた嘆息とざわめきが聖堂に満ちた。

 

 それはそうだろう。よりによってエントラス伯爵家の寵児が「あのマーガレット・サリバン司祭」の下へと送り込まれるとは、誰にとっても想像の埒外だったからだ。




設定を考えながら書いておりますので、書き上がり次第随時アップしていきます。

本日も次話投稿予定です。


※フランコ・ダンジェロ枢機卿→フランシス・ダンジェロ枢機卿 に変更 2022/03/09

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