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滅ぼしの醸成  作者: 藤野彩月
第六部
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その夜の出来事③

目を開けると、同じ部屋にいました。秀一さんはおらず、私一人だけになっていました。目の前には彼がお茶を運ぶのに使っていた小さな丸型のお盆が一つあって、その上にメモが残っていました。それが…これなんです。

遥は財布を取り出すと、クシャクシャになった小さな紙切れを出してテーブルの上に置いた。

「075-XXX-〇〇〇〇 タクシーの電話番号です。起きられましたらこの家の勝手口から出て、少し離れた所で連絡して乗って帰ってください。くれぐれも正門からは出ないでください!防犯カメラがありますから。いつまでもお元気で。 朝霧秀一」

これを読んではっきり気付きました。彼が私に飲ませたのは毒ではなく睡眠薬だったのだと。

悪寒がしました。こんな書き置きをわざわざ残したと言う事は嫌でも最悪の結果が待っているのではと確信しました。

何も持たずに部屋を出て、秀一さんを探しました。初めに元の応接間へ行きましたが、いませんでした。これに限らずどの部屋も明かりが消えていて、すっかり暗くなっていたのですぐに見つける事が出来ませんでした。名前を呼んでも返事はなく、無我夢中で探し回っているうちに今、自分がどこにいるのかさえ見当が着かなくなりました。まるで迷宮そのものでした。

ふと気が付くと、向こうの方に地下へと続く木造の階段を見つけました。地上ですら暗くなっていたと言うのにその階段はさらなる闇へと続いていて、不気味さはひとしおでした。普段の私なら背を向けて引き返した事でしょう。ですがその時の私は暗闇に対する怖さなどなく、元気な秀一さんに会いたい一心で階段へ降りて行きました。」

今になって恐怖が思い出されて来たのか、遥は身震いした。

「電灯か何か持って行かなかったのか?」

天谷からの問いに、遥は答えた。

「階段の傍に懐中電灯を備え付けるケースがありましたが、肝心の本体がなかったのです。急な階段を降りた先には、床に毛氈(もうせん)が敷かれていて、その二、三十メートルほど先の突き当たりに…部屋がありました。そこから部屋の明かりが漏れていたのです。……。」

遥の目には、もはや天谷ではなくつい一週間前に京都の別邸の地下室で見た光景が映っていた。

「そこで、仏になった秀一を見つけたんだな。」

天谷の指摘に、遥は黙って頷いた。

「本気で…最初はふざけて寝ているだけなのかと…思いましたよ。そう思い込もうとしましたでも…枕元には空になったグラス、そしてお線香が一本立っていて、手には数珠が組まれていました。そこは六畳ほどの和室でした。寝袋の上に秀一さんが仰向けになっていて、安らかな顔で眠っていました。服装は着ていた半袖のカッターシャツではなく、どこで調達したのか、白基調の浴衣に着替えていたのです。

信じられますか?天谷さん。私、そこでは一滴の涙も流さなかったのですよ。愕然としましたがね。だけどそこで行った事を今でもはっきりと覚えています。まず彼の首の脈をとって本当に死んでいる事を確認してから合掌しました。そして、捜査的にはタブーな事をしました。」

「それは…。」

天谷は老眼鏡を掛け、スマホを見た。

「秀一の遺体の傍らにあった別邸の鍵を取った。」

「えぇ。」

「『はい』か『いいえ』で答えるんだ。」

「…はい。」

「そうだ、続けるぞ。同じくその部屋にあったクーラーボックスに触れた。中にあった大量の冷却パックを取り出した。」

「はい。」

「そしてそれらを遺体の入った寝袋に詰め込んだ。」

「仰る通りです。」

「なぜそんな事をした?警察や救急に通報しようとは思わなかったのか?君は秀一の死を望んでいなかったのだろう?」

「そんな事をすれば、あの人達の思う壷です!寺西先生に連絡しようとは思いましたが既に帝人を退いた後ですし、新しい黒霧の顧問弁護士が私の味方になってくれるとも限りません。それにこれ以上寺西先生の手を煩わせる事はしたくなかった。秀一さんも本当は私に安全な場所へ逃げて欲しかったのでしょうが、それは私の気が進まなかったし、かと言って山垣教授や朝霧家の望み通りに私が殺人犯に仕立てあげられて過度な罰を受けるのはどうしても嫌でした。」

(過度な罰を受けるのは嫌?よくも言えたもんだ。)

相模原悦子の事を思いながら、天谷は憤慨した。

「で、それからどうしたんだ?」

怒りを抑えつつ天谷は尋ねた。

「私は一晩中寝ずに秀一さんの元にいようとしました。死んでいるとは思えないほど綺麗な顔をしていたので、思わず愛撫してしまいました。医療従事者でありながら明朝になれば何らかのきっかけで蘇生するのではないかと言う淡い期待を抱いて。そう決めた私は一旦地上階に戻って荷物を取りに行きました。その頃にはもう暗闇に目が慣れていました。

時間がかかったものの、どうにかして唯一電気のついたままの自分の寝ていた部屋に到着して、秀一さんの遺したメモをポケットに隠しました。すると、縁側に誰かが懐中電灯を灯しながら近付いて来るのが見えました。どなた?と思って外に出てよく目を凝らして見ると、作業着姿の二人組の男でした。二人は私の姿を見つけるや否や早足でこちらに向かい、到着すると挨拶も無しにこう聞いたのです。

()()()()()()()()()()()

『はぁ?』

京都ですから当然なのでしょうが、いきなり関西弁で話し掛けられた事と何の前触れもなく『例の物』の在処を聞かれたために全く訳が分かりませんでした。

『失礼ですが、あなた方はどちら様ですの?こんな時間に何の御用?』

すると相手のうちの一人がムッとした表情で作業着の胸元を指さしました。そこには『修羅馬(しゅらば)造園』と言う刺繍がありました。

『それは分かるのですが、どうして今の時間にここへ来たのか知りたいのです。』

私もバカにされたと思ってカチンと来てしまいました。

すると二人はハァーと大きなため息を吐いて小声で言いました。恐ろしい事をあっさりとね。

『とぼけんとってくださいよ。頼んだのはそっちでしょ?お宅の一族の厄介者を()めるから死体を庭に埋めてくれって。ウチは先々代からずっとお宅のご贔屓に預かっとりますのや。だから警察に言わんさかい早う案内してくださいよ。ところであんた誰ですのん?』

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