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滅ぼしの醸成  作者: 藤野彩月
第六部
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再び天谷のスマートフォンが鳴った。

彼は即座に確認すると、また新たに大和からの添付付きの転送メールがあった。ソファにいる遥に背を向けて、添付ファイルの中身を黙読していくうちに、いつもは冷静沈着で個人的な感情には浸らない天谷も切なさを拒みきれなかった。

(…もっと他にやり方があったはずだ。城戸も賢いとは言い難いが、人に恵まれていたこいつはさらにバカだ。だがそれは所詮外部にいる者の感想なんだろうな。ある意味因果応報ってやつか。)

途中で読むのを切り上げて、天谷は振り向いてソファで咽び泣く遥を見た。何かを問いたかったが、止めておいた。

「天谷さん…信じてください。秀一さんはもちろん私もマイタキシンを入手していませんし…しようとも思いませんでした…でも…K大の薬品倉庫からそれがなくなっていたのは事実です。」

気丈にも、促された訳でもないのにハンカチを顔に当てて遥は言った。

「あぁ、知ってるさ。盗ったのは君じゃない事ぐらい分かってる。」

同情するかのような穏やかな口調で天谷は応えた。

「そうでしょう!」

当然よと言うように遥は言った。

「正確に言うと君は決してマイタキシンの入った瓶を()()()()()()()()()()()()()()()。そのラベルには『マイタキシン』とは書いていなかったからな。正しくは()()()()()()()()()()()()。それを指示したのは山田と言う君も仕事で関わった人物だな?」

「そうです。K大医療開発センターの山田(やまだ)主任、山垣昌司(やまがきまさし)教授の側近の方です。その山垣教授は…秀一さんの義理の父、つまり…瞳さんの実の父親です。おかしいとは思っていましたが、でも…あの人がそんな事企んでいたなんて思いもよりませんでした。」

遥は顔面蒼白の面持ちで震えていた。

「そうだろうな。」

再び天谷は遥の向かいの席に座った。

山垣(やつ)は君を亡き者にしようとしていたんだからな。自殺に見せかけて。」

遥は黙ってこくりと頷いた。

「ただし、予めラベルを替えてあった。上から無害な薬品のラベルを貼ったんだ。最初に貼り替えるためにマイタキシンを取り出したのは山垣本人だった。あれは危険な薬のため、本来薬品倉庫から取り出せる人物は限られていたからな。ただし、ラベルを替えたのは山垣ではなく…。」

またも二人の声が重なった。

「秀一さんです。」

「朝霧秀一だった。」

しばらく辺りに沈黙が漂った。

天谷は向かいにいる相手の心まで見通すような目で相手を観察した。遥はそれから逃れるように、しかし一切取り乱す事はせずにテーブルに視線を落としていた。

「バカな秀ちゃん、どうしてそのままにしておいてくれなかったの…。」

あまりにも衝撃が大き過ぎたのか、遥は天谷とは目を合わさず、虚空を見ながら呟いた。

「もう少しだ。その時の話を聞かせてくれたら君を…ここから解放してやる。あのドアを開けてな。」

この時、天谷は内から微かな異変を感じていた。彼はそれを自覚していたが、何も無い風を装った。もし、こうした状況でなければ遥はすぐに感じ取れたのだが、不運な事に彼女は彼女で下を向いていたのと秀一の最期の事で頭がいっぱいだったため、何も見えていなかった。

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