隠しきれない嘘
「えぇ、仰る通りです。」
遥は体勢を変えず、表情も変えずに答えた。
「私は彼を愛していましたから、追いかけていたのは事実です。だけど、迷惑がられていたと言うのは外れていますよ。話が戻りますが秀一さんのアパートにお邪魔した日は、まず彼の方から近所のファミレスに…。」
天谷は(しめた!)とばかりに手で遥に待ったをかけた。
「忘れていないか?最初に『嘘は禁物』だと言った事を。」
この時遥の顔に一瞬、焦りが浮かんだのを天谷は見逃さなかった。彼も長年の経験から、星の些細な動きには目ざといのだ。
「…覚えてますよ。初めに言ったでしょう?『一切嘘はありません。』と。」
「あぁ、言ったな。男女の一線を越えたことと、朝霧秀一が既婚だと知っていたことの二点に関してはな。」
「全て事実ですよ!あの日彼の方から呼び出されたって…。」
「だが、場所はファミリーレストランではなかった。」
「え?」
「こっち、と言うより俺の元いた警察の仲間に調べてもらったんだよ。今年の2月終わりに君達二人がそのレストランに本当に来たのかをな。」
「…いつの間に!?もしかして…。」
「しかし、答えはノーだった。しかもその日はドリンクバーで火傷した客などいなかったと。もしそうなれば店側は如何なる経緯でもクリーニング代を立て替えを申し出る事になってるそうだ。君が思うほどお粗末な店ではないようだな。」
天谷は遥に構わず話し続けた。
「どうだ?こんなフツーのおっさんの話がデタラメだと思ってるなら、連絡先調べてそこの電話から店の人に確認しなさい。言っておくがその日はかなり混雑していて、特に昼の時間帯に来店した客には全員名前と席に着いた時間を書いてもらってたそうだ。回転率を上げるためにな。その名簿には『城戸』も『朝霧』もなかった。それとも何だ?まさか偽名を使ってたのか?だとしたら教えてくれないか?理由も添えてな。」
遥は黙っていた。いくら強い男とは言え最初に寺西から聞いた、幼少期の事実を打ち明け、現在の事は嘘を織り交ぜていても変わらず真面目な顔をして動じる事なく話せばこの人を信じ込ませる事が出来るのではないかと期待をしていた。
しかし、もはや宛が外れた。敵は既に遥にとって絶対的な味方である寺西をも調べた気配だった。
(今までどんな警察の調べにだって指先で弾き飛ばしてくれた、いや警察からも恐れられたママから話を聞いたって言うの!? いいえ有り得るわ。さすがのママだって、私が人を殺めたって知ったら、もう嫌になるに決まってる。ううん、さっきの電話からして知ってるわよね…。ママ、ママ!もう一度会いたい!)
秀一との真実の経緯と寺西弁護士の事を思い、遥は喉が突っかえた。彼女の目尻には嘘のない涙が溜まっていた。
「言っておくが公式の取り調べではない分、黙秘は通用しないぞ。そんな事しても寺西弁護士は来ない。」
遥の心を見透かした様に、天谷はピシャリと言った。
「……の…ね。」
「どうした?何か言ったか?」
天谷が身を乗り出し、右手を添えながら耳を遥の方へ向けた。
「寺西先生から全て聞いたんですね。秀一さんと会って、その時私達が何を話して、何をしたのかを。でもあまり他人には話したくなかったんですよ。父親の秀臣さん達にはもちろん、私の実母にも、奥さんにもね。私は…彼の……朝霧家の嫡男としての名誉を守りたかった。秀一さんを…愛する甥を私の大ッ嫌いな『世間』から守ってあげたかったから!」
遥の目から涙が溢れ出ていた。
そこにはもう「残酷無慈悲な魔女」の面影など、どこにもなかった。




