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滅ぼしの醸成  作者: 藤野彩月
第一部
3/62

続きは彼から

「どうやら興味を持たせてしまったようですね。いいですよ。私も楽しくなってきましたから。お酒が欲しくなったぐらい。でも残念ながらキスの後はそこで別れました。私から申し出て。あら失礼、がっかりしましたか?だけど私も大人の女なので。そこから一気に果てまで行ってしまったらその日限りになるかもしれないでしょう?そんなことしたくありませんでした。最初の方でちょっとしたインパクトは与えるけれど、そこで出し切ることはしません。また元の日常へさっと戻り、少し経ってから頃合を見て次の段階へと誘うのです。今までだってそうして来ました。…告発?別に気になりません。そんなの気にしていたら永遠に踏みとどまる事しか出来ないじゃありませんか。もし仮にそうなって本当に辞める事態になっても、また別の仕事を見つければ良いだけのこと。…あの、すみません、クーラーの風量弱めても良いですか?あぁ、ありがとうございます。では、あなたのお待ちかねの話題へ参りましょうか。次にAさんと二人きりになったのは2月最後の日曜日でした。また私が呼び出したのではありません。彼の方からでした。初めて彼の私服姿を見ました。あまりデートに向いてるコーデではありませんでしたが、かと言ってだらしない、気の抜けた感じではありませんでした。あの日は確かボーダーのニットに黒いデニム…え?装いの説明は別にいいと?せっかちですね。私はこういう事は気になる方ですけど。では場所は?…そこは気になりますか、彼の住むアパートの近くのファミリーレストランです。日曜の正午過ぎだったものですから家族連れや学生のグループが多かったのと有線から耳障りなうるさい流行歌が流れていて同じテーブルに座っていてもお互いの声が聞こえにくいような状況で辟易しました。私としては早くここから出たかったのですけどここを指定したのはAさんですし、表には一切出さずにサンドイッチの様な軽食を注文しました。

この時点でAさんと私は最初の挨拶以外は言葉を交わしていませんでした。私は向かい合っている彼の顔を見ようと目線をあげると、ばっちり目が合いました。あの茶色の潤んだ瞳です。その瞬間あたたかいものに包まれた気がしました。あぁ、よかった。彼は怒ってなんかいないのね、と。もっとも、あの日の出来事が彼にとって不快なものであったならそもそもこうして呼び出して顔を合わせることはなかったでしょうが。

『…あれかⅹⅹⅹⅹですか?× × × ますか?』

『えっ、何か言った?』

テーブル越しだと周りの雑音で会話が成立しない。Aさんもそう悟ったのでしょう。席を立って私の側へ来ると…耳元で伝えられました。変な解釈しないでくださいね。彼はただあの日以来私の仕事上の悩みはどうなったと言う意味の『あれから大丈夫ですか?』と『先にドリンク取りに行きますか?』を尋ねたまでですから。でも急な仕草だったのでドキリとしたことだけは認めます。

彼の厚意を受けて、私は先にドリンクバーへ行きました。

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