おびき寄せ
(以下、相模原氏の姉の音声)
「姪はその後も城戸のマンションに遊びに行っていたそうです。なぜか母親には『友人の家へ行く』と言っていました。ですが遂に姪は偽名をはじめ城戸の正体を疑う事はありませんでした。その裏で城戸は追い討ちをかけるように姪を騙したのです!」
「それが、明日香さんが再び城戸の自宅に泊まりに行った夜、城戸が見せたと言うこの写真ですね?」
「そうです。ですがその前に姪は、妹夫婦に大事に育てられた18歳のあどけない娘にはあまりにもショッキングな画像を自分のスマホに送り付けられてしまったのです。送り主は全く知らない人からでした。それは義弟が女と性行為している画像―相手の顔は全く分かりません―でした。母親はともかく、父親のそういう生々しい痴態を見た姪は気持ちが悪くなったそうです。そしてすぐに城戸と連絡をとり、その日の夜に泊まりに行きました。『もう誰も信じられない。今のところ頼れるのは織田さんだけ。』と縋る思いで。私はその当時、ドイツにいました。仕事の関係だったので仕方なかったのですが、でも、あぁ、あの時日本にいれば…胡散臭い他人に頼ることなく私が義弟の不貞を調べあげたのに。そうすれば妹はあんな事をせずに済んだでしょうし、姪も深く傷付く事はなかったでしょう。まさにその夜、哀れな母娘は悪魔の仕掛けた落とし穴に嵌ってしまったのです。
以前から妹は姪の言う『友達』が具体的にどんな人なのか気になっていました。もちろん家庭での状況が状況なので、普通に考えれば同じ年頃の友人の家へ身を寄せてもらっているものだと最初は考えていたようです。ですが妹が神田からデタラメな結果報告を受けた日の翌日、姪は母親の手をしっかり握ってこう言っていました。
『ママ、もう大丈夫。パパの会社の知り合いの織田さんに浮気相手を突き止めてもらうから。ママが辛いのは私もよく分かってる。でももうすぐ織田さんがこの状況を終わらせて私達を救ってくれるから。だからママがそんなに気に病む必要ないよ。』と。苦しむ母親に少しでも希望をと思ったのでしょう…大学生になって、今まで育ててもらった分少しでも自分のしたことが両親にとって良い方向に傾いてくれればと、明日香ちゃんなりに考えてくれていたに違いありません。私は明日香ちゃんを小さい時から知っています。あの子は何も悪くないんです!(すすり泣く声)…あ、ごめんなさい。ダメね、私がしっかりしないと。
その時、妹は第六感と言うのか…嫌な予感がしたそうです。もちろんこれと言った具体的な根拠はなかったのですが、神田の件もあった後ですし疑心暗鬼気味になっていたので、娘が同世代の友人ではなく大人の女の人だったことに加え『パパの知り合い』と言う点が引っかかったのでしょう。
妹は問いました。『その人から社員証などを見せてもらったのか、本当に織田と言う名前なのか。』とね。姪は少し考えた後、見せてもらってない事に気付きました。
『じゃ、あの人の所へ行くのはやめときなさい。』と母親として自然な事を言いました。しかし姪は首を縦に振りませんでした。今まで何度か織田さんの家へ行ったけど、何にも変な事をされなかった。むしろあの人はいつも私の事を気遣ってくれて、信頼はもちろん憧れの存在でもある。美人なのに加えて薬剤師の資格も持っている才色兼備で、私の大学生活の悩みを聞いてアドバイスをもらった事もあるし、父親とあの人が働く医療機器メーカーの事について、その頃流行った医療ドラマの話も交えてわかりやすく教えてくれる、一緒にいて楽しい人だと。もはや姪にとって、城戸は半分心の拠り所のような存在になっていたのです。
母と娘の間で、他所の大人が信用できるできないの議論をしているうちに、姪の部屋にあるスマホが鳴りました。それがあの父親の破廉恥な画像だったのです。部屋に戻った姪はショックで声もあげられず、しばらく出てきませんでした。そして再び部屋から出ると、母親には何も告げるどころか存在すらも忘れたように黙って家を出て行きました。その時、出かける際にいつも提げていたポシェットに加え、荷物を詰めたことで膨らんだ大きなトートバッグを持って行きました。
ここからは姪から聞いた話になります。起こった事の衝撃により少し記憶が曖昧なところがあるみたいでお役に立ちますかどうか…。」
「心配いりません。そこも神田から話を聞いています。今やあの2人は共謀関係を断ち切っていますから全て虚偽である事はないでしょう。」
「わかりました。その日の夕方頃、姪は城戸のマンションに行きました。城戸は突然の訪問に驚くどころか、手厚く迎えてくれたと言います。むしろ顔を青くしていた姪を見てとても心配していた様子でした。優しくいたわってくれる城戸に姪はホッとした気持ちからか、涙が出てしまったと言います。私に言わせればあの女は内心、獲物が自らこちらに来たと笑っていたのでしょう。城戸は泣きじゃくる姪から父親の話を聞くとリビングに姪を招き入れ、『気分が良くなるから』とハーブティーを入れました。今までも城戸からお茶菓子をご馳走になっていた姪はこの時も何も疑わず、喜んで礼を言ってお茶を飲んでしまったのです。そして…あの女は新たな手を出してきました。姪に『城戸遥の顔写真を手に入れた。あなたはもちろんお母様にも覚えておいて頂きたい』とね!姪はすぐに食い付きました。早く見たいと、その写真を持って帰ってママにも見せたいと。
城戸はせがむ姪をなだめて、『まぁ落ち着きなさい。あなたに無理に刺激を与えたくないから。』とまずは出されたハーブティーを飲んでしまうように言いました。姪が言われた通りにすると、ようやく城戸は写真を…見せたのです。
この時の姪の反応が手に取るように想像出来ます。どういう経緯か分かりませんが、父親をたぶらかし、その父親に母親を傷つけさせ、その母親は救いを求めたものの、結果的にさらに悪い方向へと向かってしまった、その諸悪の根源たる女の顔を見せられた時、ましてや自分の幼い頃から触れ合って来た人だと知った時の衝撃は未成年の少女には計り知れません。姪は飛び上がるくらい驚いたようです。そのままじっとその顔写真を見つめた後、喉から絞り出すようにして、城戸に言いました。
『お……だ…さん、この……ひと…。』
『分かるわ。明日香ちゃん、憎いわよね、最低よね、うんと懲らしめてやりたいわね、この悪魔の女。』
『やめて!』
『え?なぜ?あなたのご家庭を壊そうとしてるのよ。』
『この人…私の…私の伯母です!母の姉…』




