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話し合い

 十一月下旬のある日、突如寒波が俺たちの街にやって来た。

 まだ早いかと思ったけど俺は香月さんと買ったコートに袖を通してマンションを出る。


 さすがにこの寒さだと痩せ我慢も出来ないらしく、道行く人もコートを着ている人の姿が目立った。


「おはようございます、相楽くん」

「香月さんもコート着てきたんだ」

「はい。早めに買っておいて正解でしたね」


 顔半分をマフラーに隠した香月さんがやって来る。

 お揃いのコートを着て登校するというのはちょっと気恥ずかしいけど、嬉しい気持ちもあった。


 学校が近くなってくると道を歩くのは当然ながらうちの学校の生徒ばかりになる。

 寒さを呪うようなことを言いながらも、みんななんだか楽しそうだ。


 校門が見えてきた辺りで別ルートから歩いてきたグループと合流する。

 そのなかに個性的なナポレオンジャケット風のピーコートを着ている清家先輩を見つけた。


「あ、清家先輩」

「おお、悠華。おはよう」

「おはようございます」

「さ、相楽くんも一緒なのか。朝から仲がいいね」


 少し気まずそうにした先輩は俺たちの服装を見てハッとした顔になる。


「どうされました?」

「お揃いのコート着てるんだ?」

「はい。この前二人で買いにいったんです」

「そうか。二人ともよく似合ってるよ。じゃあ!」

「あ、先輩……」


 清家先輩はそそくさと逃げるように立ち去っていった。


「せっかくだから一緒に学校まで行けばいいのにね」


 同意を求めるように香月さんを見ると、なぜか痛そうな目をして清家先輩の背中を見詰めていた。




「すいませんけど今日は清家先輩と帰ります」


 放課後、香月さんはそう伝えてきた。


「いいけど」

「今日は料理を作りにいけません。ごめんなさい」

「了解。たまには自分で作ってみるよ」


 なにやらずいぶんと思い詰めた様子だ。

 いったいどうしたのだろう。


 家に帰り料理を作っているとインターフォンがなった。


「はい?」


 ドアを開けると香月さんと清家先輩が立っていた。


「あれ? どうしたの?」

「二人で話し合いまして、相楽くんにもお伝えしようかなって」

「え? なにを?」


 なんか妙に深刻な空気で、なんにも後ろめたいこともないのに背筋が冷たくなる。


 ひとまず上がって貰い、二人にコーヒーを淹れた。


「まず最初に断っておくと、ボクは悠華と相楽くんの邪魔をしたくないってこと」

「はぁ……別に邪魔されたなんて思ってないですけど?」


 いきなり意味不明な説明から始まり首を傾げる。


「邪魔とか迷惑とかそういう問題じゃないと思うんです。先輩の気持ちだってありますし」

「だからボクはそんな気持ちないから! そりゃ悠華の彼氏と知る前はなかなか面白い子だとは思ったけど」

「ちょ、ちょっと待って。さっきからなんの話してるの? さっぱり意味が分からないんですけど?」


 訳が分からず話の腰を折って訊ねた。

 すると二人ともぽかんとした顔になる。


「ね、だから言ったでしょ。相楽くんは悠華のことしか見えてないって」


 清家先輩はなにか吹っ切れたように笑う。


「でも」

「悠華も少し不安だったんでしょ? でも大丈夫。相楽くんはこういう奴なんだよ」

「はい。実を言えば少し不安はありました」

「悠華はもっと自分に自信をもって」


 説明を求めたのに、二人はなんだか更に分からない会話を始めてしまった。


「でもあれだけは伝えますから」

「い、いや、いいってば」

「ううん。そうはいきません」


 香月さんは意を決したように俺を見る。


「な、なに? どうした?」

「相楽くん。これからも先輩のマッサージはお願いします」

「……は?」

「先輩はこの前のマッサージが忘れられなくて悶々としているようなんです」

「ちょ、ちょっと悠華っ」


 なぜか先輩は所在なさげに肩を竦めてもじもじとしている。


「そんなに気に入ってもらえたなんて光栄です」

「先輩ったら癖になっちゃったみたいで自分でマッサージまでしちゃったらしいです」

「もう、悠華! 言わないで!」

「自分でするのって難しいですよね。ふくらはぎくらいなら出来ますけど」

「そうなんです。自分でやってもあんな感じにはならないんです」


 マッサージ師の悩みは腰痛だなんていう皮肉があるほど、自分自身のマッサージは出来ないものだ。


「色んなことが手につかなくて困ってるんですよね、先輩?」

「う、うん。なんか勉強してても集中できないというか……」

「そんなに!? あ、集中力高めるツボとかもあるんですよ」

「そんなわけでこれからも先輩にマッサージしてもらいたいんです」

「お安いご用だよ。俺も勉強になるし」


 清家先輩はキャラにもなくもじもじしている。


「でも悪くない? 悠華の彼氏なんだし……」

「浮気じゃありません。医療行為ですから」

「ははは。マッサージが浮気のわけないじゃない。香月さんも面白いこと言うね」

「じゃ、じゃあ……お願いします」


 ずいぶんと深刻な顔をしていたので何事かと思ったけど、大したことない話でよかった。

 後輩の彼氏にマッサージをされることに罪悪感を感じるなんて、清家先輩も意外と遠慮深い人だ。


「もちろん私にもマッサージしてくださいよ!」

「当たり前だよ。二人いっぺんは無理だけどね」

「二人同時に……」


 香月さんと清家先輩は目を見合わせて顔を赤らめる。


「そ、それもいいかもしれません」

「もう、悠華! いつからそんな変態になっちゃったの!」

「変態? ていうか無理だからね」


 よく分からないが香月さんと清家先輩が仲睦まじい姿は見ていて癒される。




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― 新着の感想 ―
[一言] も、もういっそ直球で言ってあげて! 全く気づかれてもいないのがつらい……!
[一言] 二人は判りあっているが、当人はよく判っていない。 まあこの二人以外は何も感じないようだから、判りあっている方がおかしいのかも/w とりあえず、マッサージだけの関係で済めば良いのだけれど。先輩…
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