水音とヒソヒソ話
休日、運動公園には俺と香月さんの他に沖田さん&陽祐のカップルも来てくれていた。
相変わらず夏の残滓で気温は高いけれど公園で運動をする人の姿を増えてきた。
「それでは行きます」
「そんなに緊張しないで。リラックスだよ」
沖田さんが微笑みながら香月さんの肩から腕を撫でおろす。
けれど香月さんの表情は固いままだ。
今日まで練習した成果を沖田さんに披露するから力が入りすぎているのだろう。
「大丈夫。これは練習なんだから。上達するためにアドバイスをもらうだけだからむしろ失敗した方がいいんだよ」
「そうですね。ありがとうございます」
俺の言葉で安心してくれたのか香月さんの表情から強張りが消えていた。
「すごい。さすが彼氏。一瞬で香月さんの緊張を解きほぐしてるし!」
「そうなんです。相楽くんは私の緊張を解くのが上手なんです」
「別にそんな大したことはしてないし」
緊張が解けたところで香月さんが改めてスタートの姿勢になる。
「よーい、どん」
沖田さんの合図と共に香月さんが走り出す。
特訓の成果でフォームは以前よりいい。
しかし速度は相変わらず乗っていなかった。
「なるほど。きちっと姿勢は起こしてるね。腕も思い切り降ってるしいいね」
「ありがとうございます」
「ただ大きく開いちゃってるからもう少し脇を締めて腕を振った方がスピードは乗ると思うよ」
「こうですか?」
「そうそう。あとは足がべたっとついてるからもっと爪先で飛ぶように走ってみて」
「飛ぶようにですか?」
「そう。走るというよりは連続で飛ぶようなイメージかな」
沖田さんは軽く走ってやって見せる。
数歩走っただけだが、軽やかに跳ねる姿は速そうだった。
「すごい……私に出来るでしょうか?」
「大丈夫。あんまり変に意識しすぎないで一歩づつ飛ぶような感じでやってみて」
俺と陽祐も一緒にケンケンするように走ってみる。
「おおー! 軽い! なんか速くなった気がする!」
「はい! 自分の足じゃないみたい」
さすがに突然劇的に速くなることはなかったが、前に比べればだいぶよくなった。
香月さんが感覚を掴むまで練習してから休憩のためにみんなで俺の部屋に移動した。
汗をかいたので女子チームからシャワーを浴びにいった。
水音と共に二人の声が聞こえてきた。
「香月さん……変わら……い、おっきいね」
「きゃっ!? 触っちゃダ……」
「いいじゃん女の……士なのに」
「じゃあ私も沖田さんの……触っちゃいま……綺麗な……すよね」
「きゃははっ! ちょ、もう!」
ところどころ聞こえづらい声が聞こえてきて、俺たちはリビングで硬直していた。
「……なあ、相楽。お前、もう香月さんと、その、しちゃったの?」
「す、すすするかよ!」
「マジで!? よくこの部屋で二人きりになるんだろ!?」
「それはそうだけど……タイミングってのが分からなくて」
「あー、それは分かる! どんなタイミングでするもんなんだろう」
「よく言うよ。陽祐は沖田さんと付き合ってすぐにキスしたんだろ」
「な、なんでそれを!?」
陽祐はビクッと震えて目を見開く。
「バレバレだっつーの。俺たちが戻ってきたときすげー焦ってて様子がおかしかったし」
「あれは、あのときの勢いって言うか……あれ一回きりだし」
「一回でもいいだろ! 俺はゼロだぞ!」
興奮しながら話しているとシャワーの水音が消えた。
慌てて会話を止めると服を着た沖田さんと香月さんが戻ってくる。
「なにがゼロなの?」
沖田さんがタオルで頭をガシガシと拭きながら訊ねてくる。
「な、なんでもねーし。ていうかなんだかガサツな髪の拭きかただな。香月さんを見習えよ」
「うざ。陽祐は相楽くん見習ってもう少しデリカシーとか気遣いを覚えたら」
いつも通りの二人のやり取りを見て、香月さんはニッコリと微笑む。
あんな会話していたから、つい視線は香月さんの唇に向いてしまう。
それに沖田さんが言っていた大きなおっぱいにも……
俺の視線に気付いた香月さんは恥ずかしそうに胸を腕で隠して軽く睨まれる。
「……えっち」
「い、いや、違くて……」
俺が触れるまでは、まだ遠い道のりがありそうだ。
ところどころ聞こえづらいところはカクヨムにて聞こえやすくなってます。
まあ大したことは話してませんが。
興味ある方は覗いてみてください!




