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練習の成果

 八月下旬でもまだ日差しは強い。

 しかし川辺のキャンプ場は涼しい風も吹いてさほど暑さは感じなかった。


「うわぁ。きれいなところだねー!」


 沖田さんは眼前の景色に歓声をあげる。

 辺りの森林の緑が溶け込んだような深緑の水面、奥に見える山々、川原で立ち上がる焚き火の煙。

 確かにのどかで美しい景色だ。


「来てよかったな」

「うん!」


 陽祐の言葉に沖田さんが満面の笑みで頷く。

 既にコクるのを意識してしまっているのか、陽祐の表情が固い。

 そんな二人を見て俺と香月さんは目を見合わせて笑った。


「泊まりでキャンプなんて大丈夫だった?」

「はい。父が出張の日を見計らいましたから」

「お父さんは大丈夫でもお母さんがいるだろ?」

「母は、まあ、沖田さんもいるし、それに相楽くんなら安心だろうって」

「へ、へぇ……」


 お母さんは俺と香月さんが付き合い始めたことを知っている。

 その上で信頼して外泊を許してくれたのであれば、俺も変なことをして信頼を裏切ることはできない。



 キャンプ場はレンガで出来たバーベキューコンロがあちこちに設置されていた。

 そのうちのひとつの前にテントを二つ設営する。

 もちろん男性用と女性用だ。

 本当は俺と香月さん、陽祐と沖田さんに分けたいが、そういうわけにもいかない。


「なんか難しそう」


 組み立て前のテントを見て沖田さんは顔をしかめる。

 テントというものは部品だけ見てもこんなもので本当に組み立てられるのだろうかと訝しくなるものだ。


「沖田、そこ持って」

「え、うん」


 作戦通り陽祐は手際よく設営を開始する。

 事前に数回組み立てる練習をしているから手際がいい。


「おー、すごい。陽祐上手じゃん」

「まぁな」


 誉められて陽祐は嬉しそうにしている。

 出だしはまずまずのようだ。

 香月さんも安心した様子で微笑みながら頷いた。


 テント設営後、四人で近くを散歩する。


「それにしても相楽くんと香月さんが付き合うとはねー」

「意外だった?」

「いや、まあ、なんかいい感じだったし、あり得るかなとは思ってたけど。でもあの香月さんと付き合うなんて、相楽くんもやるよねー」


 沖田さんはパンパンと俺の背中を軽く叩いた。

 香月さんは不思議そうに首を傾げていた。


「『あの香月さん』って、どういうことでしょうか?」

「そりゃ学校一の美少女と呼ばれ、性格は穏やかで、成績もぶっちぎりのトップという『高嶺の花』を越えて『天空の花』と呼ばれる香月さんだもん。しかも男子にまったく興味がないと噂されているのに、まさか相楽くんと付き合うとはねー」

「て、て天空の花!? 私、そんないいものじゃないですから!」


 香月さんはあせあせと手を振り否定する。

 みんなから噂される香月さんだが、まるで自覚がない。


「むしろ私みたいなつまらない女の子に相楽くんが興味を持ってくれたことが奇跡です」

「どう考えても逆だから。俺みたいな地味で取り柄のない奴が香月さんと付き合えるなんて普通あり得ないからな?」

「ううん。そんなことない。相楽くんは優しいしかっこいいし、すごく素敵です」

「ちょっと。いきなりいちゃつかないでくれる?」


 沖田さんは白けた顔でツッコむ。

 なんだか恥ずかしくなってしまい、俺も香月さんも俯いた。


「あー、いいなー。私も彼氏欲しいなー」

「そ、そそれなら……」


 陽祐がガチガチに緊張しながら手を上げる。


「なになに?誰かいい人いたら紹介して!」


 沖田さんは邪気のない笑顔で陽祐を見る。

 凹む彼の顔を見てられなくて俺は目を逸らした。

 確かにこれは陽祐が言う通り、道のりは険しそうだ。



 キャンプの夕飯といえばもちろん焚き火を囲んでバーベキューだ。

 食材を切るのは女子二人で俺たちはその他の準備を担当する。


 炭で火熾しをするのは結構難しい。

 しかしこれも予習をしていたので陽祐がそつなくこなした。


「よし、火が着いたぞ」

「え、もうですか? 陽祐さん上手ですね!」


 香月さんは演技ではなく本気で驚いていた。

 しかし料理に悪戦苦闘している沖田さんはそれどころじゃない様子だ。


「ほら、見ろよ、沖田。火の準備は万端だぞ」

「おつかれー。って陽祐、顔に炭がついてるし。真っ黒だよ。洗ってきなよ」

「違くて、火。ほら、ちゃんとついてるだろ」

「ちょ、もう! 炭だらけの手で触らないでよね!」


 汚いもののようにあしらわれ、陽祐は意気消沈だ。

 香月さんも複雑な笑みを浮かべて二人を見詰めていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 陽祐、そこは自薦しないと! って、あんな感じで言われたら無理か(^_^;)
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