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君のすべてを

 俺と香月さんはそのまましばらく抱き締めあっていた。

 もちろん離れるタイミングを見失ったのではなく、離れたくないという気持ちで。


 とはいえいつまでもこのままではいられない。

 名残惜しいけど俺は腕を緩める。


「そういえばあれも忘れてるなんてことないですよね?」

「あれ?」

「テストが終わったらマッサージをしてくれるって約束です」

「ああ、もちろん忘れてないよ。今からしよう」

「はい。ありがとうございます」


 汗をかいたからということで香月さんはシャワーを浴びてからマッサージをする。

 少し湿った髪を結った姿はなんだかセクシーさがある。


「じゃあマットに寝転がって」

「なんか緊張しますね」

「え? なんで?」

「だ、だって……ちゃんと恋人になってはじめてのマッサージですから」

「やることは変わらないって」


 付き合いはじめてから急にふざけて余計なところを触ったりはしない。

 マッサージは医療行為だ。


「それにしても考えてみればマッサージがなかったら、こうして付き合うことはなかったかもしれないね」

「えっ!? それはどういう意味でしょうか?」

「だって香月とはじめて会話したのはマッサージがきっかけだったから。俺が人の怪我とかマッサージに詳しくなかったら話しかけることもなかったかもしれない。マッサージのおかげだよ」

「ま、マママッサージだけじゃないですよ! そんなはしたない人間じゃないですから!」

「?」


 よく分からないが、香月さんはずいぶんと強い口調で否定していた。

 はしたないじゃなくて図々しいの間違いだろうか?


「肩と腰だったよね」

「そうです。座りっぱなしがよくなかったみたいで」


 首と肩の境目に親指を当て、軽く押してみる。

 確かに筋が固くなっているようだ。

 まずはゆっくりと揉んで解していくことにしよう。


「ああっ……ひゃうっ……」

「どうしたの?」

「なんかいつもより、その……感度がいいというか……相楽くんが彼氏になったからかな?」

「ははは。まさか。関係ないよ」


 香月さんは時おり面白いことを言う。

 天然ってやつだろうか。


 ちょっとオーバーリアクションな香月さんを無視してモミュモミュと解していった。


「だいぶ解れてきたね」

「ふぁ……あい……んんっ!」

「次は肩甲骨周りだよ」

「や、休みなしで?」

「これくらい圧したくらいで疲れてないから心配しないで」

「そ、そぉじゃなくて……んっ……わた、しが……あうっ……」


 身体が弱いのが香月さんの弱点だ。

 でもマッサージが役に立つので俺としてもありがたい。


 肩甲骨をコリコリと指圧すると香月さんは涙声で細い声を上げていた。


「あっ……しあわせです……」

「そう? よかったよ」

「ねぇ、相楽くん……私のこと、好きですか?」

「えっ?」

「だめ。指は止めないで答えて」

「あ、ごめん。もちろん好きだよ」


 なんだか気恥ずかしくて指に力が籠ってしまう。


「んぅーっ! あ、あた、しも……好きです……だいすき……ぴゃうっ……すきっ……」


 香月さんってこんなに甘えん坊だったのか?

 恋人になるとこれまで知らなかった面も見えてくる。


 肩甲骨から背骨を伝い、ゆっくりと腰へと指を下ろしていく。

 ピアノの鍵盤のように、圧す位置によって香月さんの声色は変化していくのが面白い。


「腰とお尻の境目辺りは強く圧すからね」

「はぁはぁ……お願っ……します……ううっ! だめ、変な声出ちゃう」

「我慢しなくていいよ」

「は、恥ずかしいしっ……」


 香月さんは口許を手で押さえて、健気に声を殺していた。

 そんな努力をされると余計いじめたくなるのが男の子だ。


「やっ!? ああっ! そんな強くされたらっ」

「無理しないで、ゆっくり呼吸して。声が出たっていいんだよ」

「はい……ううっ……す、好きですっ……相楽くん……好き……」

「俺も。大好きだよ」

「ほんと? ずっとですよ。ずっと好きでいてくださいね」

「もちろん。死ぬまでずっと」

「うれしい……私も約束します……ずっと、一生っ……い、いっ……はぁっ……私の全部、もらってください」

「いいの?」

「はい……だから、私も相楽くんの全部を……」


 愛を伝えながらマッサージするなんて前代未聞だ。

 他人に見られたら恥ずかしくて死んでしまう。

 だけどこんな恥ずかしいやり取りで、余計香月さんへの想いが強くなる。


「もちろん。俺の全ては香月さんのものだ」

「ッッ! う、うれしすぎて……あぁ……ごめんね。ごめんなさい……」

「え? なにが?」


 なぜ謝られたのかは分からないが、香月さんは身体をピンッと硬直させる。


「ほら、また悪い癖。マッサージ中に力んじゃだめだって」

「だ、だって……ああ、またっ!」

「また?」


 ビクビクっ……


 香月さんの身体が痙攣するような震え、慌てて指を止める。

 さすがにやりすぎてしまったようだ。


「ごめん。余計身体が痛くなっちゃった?」

「んーん……そんなことない……ありがとうございます……」


 香月さんはとろんと潤んだ目で笑い、弱々しく俺の手を握ってきた。。

 口がぽーっと開いており、少しよだれが糸を引いてしまっている。

 弛緩しきった顔はどこか背徳的だ。


「お疲れ様。今日はここまで」

「まだして欲しいのに……」

「やりすぎはかえってよくないよ」


 香月さんの頭を撫でると、胸がトキドキと高鳴った。


 でも今はまだここまで。

 穢れを知らない香月さんは大切にしてあげなければ。

 一時の感情で軽々しいことをしてはいけない。

 煮えたぎりそうな欲望を何とか心のなかで押さえ込んでいた。


リアルタイムで読んでくださってる方は大晦日ですね!

いつもありがとうございます!


今年は誰もが経験してない未知の一年となりました。

大変なことも、新たな発見も、嬉しいことも悲しいこともあったかと思います

年が明けて何もかもリセットされるわけではないですが、気持ちを新たに頑張っていきましょうね!


来年もよろしくお願い致します!

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― 新着の感想 ―
[一言] 穢れを知らない香月さん/w 年をまたいでしまいましたので。 今年も楽しいお話を届けていただけたら、と思います。今年はみんなにとって良い年となりますように。
[良い点] 下手なエロ小説より、なんかエロいような感じですかね。主人公さんは、神の手をお持ちのようで。でも、ヒロイン特効ですかね。
[良い点] ホント、来年もよろしくです!
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