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予選

 沖田さんがストレッチをしてスタート位置へと向かっていく。


「まずは予選からだな」

「ああ。三組走ってタイムを競う。恐らく上位二位以内に入れば決勝に出られる」

「なかなか厳しいんだな」


 見ると八人一組で走るようだ。

 沖田さん以外もみんなすらりと引き締まった脚で見るからに速そうだった。


「1500m走は短距離と長距離の中間で一番キツいんだ」

「へぇ。そうなんだ」

「短距離に必要な瞬発力、そして長距離に必要な持久力。その両方がなくてはいけない。だからもっとも過酷とされている。ほぼ全力で走り抜けなきゃならないからな」

「さすが詳しいんだな。沖田さんがやってるから勉強したのか?」


 少しからかい気味で訊ねると陽祐は顔を赤くする。


「バッ……違うし! あいつがいつも同じことを繰り返し言うから覚えただけだ!」

「はいはい。それは失礼しました」

「うるせぇ。黙って見ろ」


 全員が位置につき、スタートの号令を待つ。

 空気が張り積めた緊張を感じる。

 スタートの合図と共にみんなが走り出した。

 短距離走なのかと勘違いするほど、みんな全力で走っていた。


「うわっ、こんな速度で走るのか?」

「スタート直後は大切だ。みんないいポジションにつけるためスタートダッシュしてるんだ」

「へぇ。あ、沖田さん出遅れてるのか?」

「いや、あれはわざと中段前方につけてるんだ。前の選手で風避け出来るからな。むしろ最もいいポジションだ」


 もう解説者じゃん。というツッコミは心の中に納めておく。

 しばらく大きく順位は動かずにレースは進む。


 そして残り一周半というところでレースが動き始める。

 後方の選手が仕掛け、抜かせまいと付近の選手もスパートをかけた。

 でも沖田さんはまだ仕掛けない。

 先頭争いが激しくなりかけたところで沖田さんが選手の間隙を衝く。


「よし、行け! 行け、沖田っ!」


 陽祐は立ち上がって拳を握りしめて叫ぶ。

 沖田さんはするするっと集団から抜け出し、そのまま一位でゴールした。

 もちろん全力疾走しているのだろうが、あまりの鮮やかさに余裕さえ感じさせられた。


「やった! よくやったぞ! さすが沖田!」


 陽祐は大声ではしゃいで手を振る。

 その声に気付いた沖田さんはふらふらになりながらも手を振って応えていた。


「よし、決めた。沖田が優勝したらコクる」

「は? なにその人任せな決断」

「いいだろ。いま決めたんだ。やっぱ俺、あいつが好きだ」

「でもそれじゃ沖田さんが優勝しなかったらコクれないだろ」

「あ、そうか。じゃあ決勝終わったらコクる!」


 そんな決め方があるかと呆れたが、こういうことは勢いも大切だ。

 俺もあのとき岩見さえ現れなかったらコクっていた。



 お昼の休憩となり、俺たちも買ってきた弁当を食べる。

 日陰とはいえさすがに暑く、食欲はさほどない。


「応援にきてくれてありがと」


 ユニホームを着たままの沖田さんが僕らのところまでやってきた。


「おー! 沖田、いい走りだったな!」

「決勝進出おめでとう」

「陽祐、声でか過ぎ。恥ずかしいからもう少し静かに応援してよね」


 沖田さんは恥ずかしそうに口を尖らせる。

でもどこか嬉しそうだ。


「なんでだよ? 応援なんて賑やかな方がいいだろ」

「目立ちすぎなの、もう!」


 相変わらずのやり取りだけど以前より沖田さんの声には険がない。


「それにしても速かったね。決勝も優勝なんじゃない?」

「ううん。あの組は一番遅かったからそう見えただけ。実際あの組で決勝進出したの私だけだし」

「それでもすごいよ。一年で決勝行けたのは沖田さんだけでしょ?」

「まあそうだけど……あー、不安だなぁ」


 沖田さんは落ち着かなそうにふくらはぎや太ももを擦っていた。


「バカ。そんなに気負いすんな」

「はあ? 無理だって。勝てるとは思ってないけど、でも決勝だよ? 緊張するってば」

「そんなこと関係ない。楽しめばいいだろ」


 陽祐はニカッと笑って沖田さんの背中を軽く叩く。


「沖田は走るのが好きなんだろ? 勝ち負けとかじゃなく楽しめよ。俺は楽しそうに走るお前が好きだ」

「陽祐……うん。ありがと」


 沖田さんは日焼けしてても分かるくらい顔を赤くして、モジッとしながらリストバンドをした手首をぎゅっと掴む。


「俺がここから大声で応援してやるから沖田は全力で走ってこい」

「はあ!? それがいらないって言ってるの! もう、話聞いてた?」


 リラックスできた様子の沖田さんは笑顔でチームメイトのもとへと戻っていった。


「ったく。運命が決まる大会じゃあるまいし、緊張しすぎだっての。沖田はああ見えて昔から小心者だからな」

「さすがよく知ってるんだな」

「そりゃまあ、子どもの頃から一緒だからな」


 陽祐はちょっといい加減でお調子者だけど優しい、本当にいいヤツだ。

 二人には本当にうまくいってもらいたいと願わずにはいられなかった。




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― 新着の感想 ―
[一言] これは、あれですね、はい!足がつって痛くなって、マッサージをしたら嫉妬されて仲が進むっていうあれですねっ!
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