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山田太郎の異世界戦記  作者: 来遊塚 帝
一章 始まり
9/39

9話 太郎のマヨネーズ作り

 太郎の召喚に成功してから、数日経過した。

 召喚の呼び方や戻し方はある程度把握した。現状はアスラしか召喚できない。


 朝、日が昇り始めようとする時間。

 太郎はいつもの時間より1時間ほど早く起床する。

 この世界のサイクルは大体22~23時間くらい。

 太郎の時計が1日で1時間程ずれる。


 こちらの世界の時計があるのだが、魔道具は簡単に手に入らないので、腕時計で脳内変換する太郎であった。


 いまだにクランとは同室だ。

 何かあったらすぐにクランが対処できるいうことで、同室で暮らしている。

 太郎が来てる服も、刀を買ったその日に、この世界の人たちと併せて、ローブ主体の服に着替えている。


 クランは、新参者の太郎に変なちょっかいをかけさせないため、クランと一緒にいるのだ。


「クランって、いつも起きるの早いよな。ちゃんと寝てるのか?」


 太郎は朝の身支度を終え、ギルドの受付に向かう。


 ギルドの受付はシフト制で交代して、いつも誰かしらいる状態となっている。

 緊急招集がいつ入ってきてもすぐギルド号令をかけられるようにするためだ。

 ギルド施設には多くの冒険者が宿泊している。ギルド側から一声かけたらつわもの達がすぐに出撃可能な環境がここにある。


「ギッシュさん、おはようございます。この前、お願いしていた酒崩れありますか?」


 今、受付カウンターにいるのは、ギッシュという元戦士で過去に大怪我し、それが原因で引退を余儀なくされた。

 稼ぎは良かったので、一人でならやっていけるくらいは稼げているが、やっぱりギルドには恩があるのでギルドの運営側でもよいから関わりたいということで、今現在ここで務めている。

 義理堅い人である。


「ああ、ヤマダか。おはよう。酒崩れならあるぜ。ほらよ!」


 と、一升瓶を指しだす。酒崩れとはお酢の事だ。

 こっちでは酢は全く使わない。

 醸造酒の失敗作で、捨てる以外の選択肢はないのだという。


「いやー、助かります!」


「でも、また、そんな酒崩れなんて欲しがるんだ? みんな捨てちまうのに」


「マヨネーズっす!」


 異世界転生や転移でこっちに飛んでくる人達がいるのになぜ後世にマヨネーズを残さなかったのか?

 太郎は不思議でならなかった。


 そして、やっとこれでマヨネーズが手に入る!


 こっちの世界では調味料が少なく、基本、塩しかない。


 最初は太郎もそれでよかったのだが、同じ味にちょっと飽きがきて、調味料が自分で作れないかとドレッシングを作成した。

 塩+油×とにかく混ぜる=簡易フレンチドレッシング


 次に、マヨネーズ作りを試みようとするが、マヨネーズに欠かせない『酢』が存在しなかった。

 マヨネーズ作りは断念していた。


 最近になって、ようやく知ったのだが、時々、醸造で失敗作し、超酸っぱい酒ができる存在を知った。

 こっちの世界ではそれを酒崩れとして捨てていたそうだ。


 太郎は、それこそ添加物なしの天然の酢じゃねーかっ!と、捨てるならくれとお願いしていた。

 今日もらえるとあって朝から張り切って居た太郎だった。


 ギルド内での飲み食い放題が保証されている制度がある。

 そのため、飲み物の確保はギルド内独自でゆるされており、酒造も自由が認められている。

 どこの国も酒税を取りたいらしく王国が認めた店でなければ、販売すら駄目という。


 ギルド内で賄ってくれた方が、みんなに利点が生まれるということでギルド内では積極的に醸造行われている。

 ただし、あくまでギルド内のみギルドの外に出しすのは禁止らしい。

 罰則はかなり重いらしい。

 最悪、ギルドが潰される。そして、魔物から身を護る手段がなくなるため、それは事実上の廃村という意味もある。


 飲食は一般にも開放しているので冒険者でなくても、金さえ払えば安く酒が飲める。

 ということで、一般の人たちも毎晩、ギルドに通いお酒を浴びるように飲む人たちが多いそう。

 そのため、ギルド=酒場というイメージが定着している。


 前置きが長くなったが、マヨネーズ作りに戻る。

 あらかじめ用意しておいた卵に油、そしてさっきもらった酢! 

 これを併せ、とにかく混ぜる!


 なかなか混ざらないので、ヘビータイトの刀を装備した太郎が、マヨネーズの素を振り始める。

 できる限り力を入れないようにそろりそろりと振るが、本当にパワーだけは半端ない。

 1分も立たずにマヨネーズが完成した。


 刀を置き、マヨネーズを味見する。


「うまっ! やっぱり素材が良いからだな。うんうん。クランもいればなぁ――」


「――ドン!」と音をたててドアを勢いよく入ってくるクラン。


 いつも静かに上品に行動するクランが珍しい。


「クラン、おかえり! 丁度良いところに! 前に話していた『マヨネーズ』が完成したよ!」


 太郎が、マヨネーズをクランに差し出す。

 それをみて、人差し指でマヨネーズをすくって無言でマヨネーズを味見する。


「すっぱっ! どうも、この味は僕には合わないようだ」


 それどころじゃないと、服を着替えて足早に部屋を出ていく。


 太郎はクランの反応を見て思った。

 こっちの世界の人の味覚は酸っぱいのは苦手なんだな。そういえば、柑橘系のフルーツも見たことない。フルーツは、必ず完熟で甘いのものが出てくる。

 だからマヨネーズを後世に残せなかったのか。と、太郎は理解した。


 太郎はマヨラーなので、ようやくの再会に感激する。

 そして、今日の朝飯はたらふく食べた。


 一方、クランの方はというと――

 例の木々なぎ倒し事件の調査をすべく、王国近衛隊とベルンのギルド調査団が明日出動する予定で、ベルンの町の教会に、各パーティーリーダーが集まっている。


 クランはまだまだ駆け出しの勇者である。


 総数、近衛隊50名、ギルド調査団が99名+勇者1名の出動を予定しており、近衛隊はすでに一部、ベルンの街に待機している。

 ギルドマスターからの要請もあって、クランは別途ギルドの側の取りまとめとして白羽の矢が立った。


 くどいようだが、クランはまだまだ駆け出しの勇者である。

 それでも勇者の肩書は伊達ではない。

 

 今回、大所帯になった調査だが、クランと太郎は原因を知っている。

 それは、太郎のチートスキルによるもの。

 何の気なしに放った太郎の全力投球の結果である。


 そのため、新しい魔物が出現する可能性はほとんど低い。

 総勢150名の錚々たる面々が出陣するような事柄ではない。


 正直に報告してもお咎めはないが、現状、クランの活動や太郎の存在や関係がややこしくなってしまうため、今は黙って事の成り行きに任せている。


 クランに白羽の矢が立ってもさしたる問題は起こらないのである。

 予行練習だと思って従うまでだ。


 そして、クランの口の中はまだ酸っぱかった。

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