3話 太郎と勇者の行先
寄り道したいという場所についた太郎は動揺していた。
あるはずの車がないのだ。いや、車だけではなく『道路』も見当たらない。
アスファルトで作らている道さえないのだ。
戻ってきた道もほとんど同じはず。
たとえ間違えていたとしても、すくなくとも方向はあっているはずなのに道路にさえ見当たらない。
かわりと言ってはなんだが、竹林が広がっているが、ここら辺の地域に竹林はない。
「タロー、どうした? 大丈夫か?」
太郎からは動揺の色を隠せない。
色々考えをめぐらす太郎に対して勇者は太郎の事を心配そうに見守っている。
辺りがかなり暗くなったので、勇者は腰にぶら下げていた、コンパクトなランタンに光を灯す。
ややしばらく考えていた太郎が、明かりに気づき、口を開く。
「やっぱり、俺の用事はまた今度にするよ。その、町まで、案内してくれないか?」
「そうか。では、町に向かおう! 町につくのに日が暮れそうなのでこいつを使わせてもらう」
【ウォーク】と勇者が唱える。
今、勇者が光ったように見えた。
光ったようにも見えたが、ランタンの明かりが強くて、はっきりそう思えなかった。
太郎が、クラン・ブルーという勇者についていく決心に至ったのは、タイムスリップしたかのようなあの夕日が、どうしても、別世界か異世界に飛んだように思えてならない。
更に車や道路がない事実。だったら、人と一緒にいた方がよいと考えたからだ。
太郎は勇者の後を歩く。
歩きながらスマホを確認するが、ずっと圏外のままだ。
それから少し歩くと獣道があり、二人は獣道に沿って歩いた。
太郎は腑に落ちない箇所を思うおかしな点を整理する。
1.14:40くらいなのになぜか夕日だったこと。そしてすぐに暗くなる。
2.ガイコツらしきものが動いていたという事実。
3.目の前に勇者の肩書をもつクラン・ブルーの存在で、
腰には上半身程の刃をもつ剣を所持している。
そもそも日本では銃刀法違反に抵触し、でかい刃をもつ剣の所持はありえない。
こんな恰好していたら絶対に捕まる。
4.車、道路がない。絶対に道は間違えてないはず。
5.今現在、歩く速度がやたら早いし、全然疲れない。
勇者が魔法使ったようにも思える。
(ドアが買ってにしまった時点で、俺はもしかして別世界にいた? でも、一応、電話かけたらつながったよな? あれはなんだったんだろう……)
「ねぇ、勇者」
黙々と歩いていく勇者に声をかける太郎。
「タロー。僕のことは、クランでもブルーとでも呼んでくれ。勇者の肩書はできるだけ伏せておきたい」
勇者に諭された太郎は質問を続ける。
「そうか。すまない。じゃぁクランと呼ばせてもらう」
「ところで、タロー。なんであんな危険な場所に居たんだ? さっき言っていたサツエイが何か関係しているのかい?」
「……そう。撮影の下見であの場所に行ってたんだ――」
一瞬、言葉に詰まるが太郎はさらに続けて――
「――クラン。俺はどうも別の世界からこの世界に来てしまったようだ」
勇者は足を止めて、太郎を見る。合わせて太郎も止まる。
太郎は自分とは違う別の世界に来ているようだ。
そう考える方が受け入れやすい事が多い。
「そうか! タローは転移者か?」
勇者が食い気味に太郎に質問する。勇者も、転移者の認識はあるようだ。
(この勇者の反応を見ると、やっぱり俺は異世界に来たのかもしれない……仮にドッキリ系だったとしても、それならそれでいい。だまされてもいいさ)
太郎の心に確信めいたものが生まれ始める。
「残念ながら、魔法陣やら、召喚者とかは、見なかったな。気が付いたらこちら側に居たみたい」
「そっか、魔法陣も召喚師も見当たらないなら、それは僕にもわからないな」
会話のキャッチボールが成立してる。太郎はやっぱり本当の事を打ち明けてよかったと思う。それが「勇者」に相談できるんだから本当に心強い。
「タロー、アンデットモンスターにはだいぶヤラれたようだね。ズボンが破けてるよ」
「なっ? クランは、これを破れてるっていうんだな」
勇者が言っているのはダメージジーンズの破れた事で、太郎にはオシャレのつもりなんだが、勇者には破けてるように見えるのかと太郎は言う。
「でわ、このズボンは、やられたものではないのか? ふむ……」
(やっぱり俺は異世界にきてしまったんだな……)
基準はそこか?と突っ込まれそうだが、やっぱりこれを破れているっていう基準は、おじいちゃんか異世界人じゃなきゃ言わない。と、太郎は本気で確信した。
「そうか、俺は本当に異世界に来てしまってたんだ!」
「そしたら、そのタローが持っている明かりの『魔道具』は、タローの世界の物なのかい?」
「そうだ。これはLEDライトといって、電気で光るんだ……」
今更感満載だが、車への戻り道、太郎が使っていた懐中電灯が、クランは新しい魔道具だと思っていた。
そして、勇者が持っていたランタンは、それこそ魔道具だった。
ランタンはマナを流せば、光るものらしい。
そして太郎は小一時間ほど、街が見えるまで勇者に質問攻めにした。
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文化の違いについて
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1.言語の違い
言語は日本語で通じる。和製英語まで通じるが文化にない単語は通じないっぽい。
英語文化にないようだ。
2.文化的な違い
文明は魔法科学が発達しているということ。
主に魔道具といわれる魔力をエネルギー源に動くもの。
太郎としては電気的なものだろうと安易に考える。
3.冒険者ギルド
腕っぷし、戦闘向きはみんな冒険ギルドに登録するという。稼ぎが全然違うようだ。
更に活動するには冒険者ギルドに登録が必要で、登録した者は魔物討伐義務が発生する。
冒険者の不足や一定数の魔物の討伐がない場合、別の街から依頼・派遣が強要される。
冒険者や王国騎士以外の者や緊急時以外で魔物討伐すると、重い刑を科せられる場合がある。
4.冒険者のメリット
冒険者はいろいろ優遇されていて、メインは宿屋は泊まり放題。
ギルド内では好きなだけ飲み食い放題が可能。ただし細かい条件があるらしい。
職業は、以下から自分で選択可能だがギルド運営側から最適な職業を選ぶことも可能。
ギルド以外の職人は、竹細工の工芸品でそれぞれ、部門があるとのこと。
5.社会制度(階級)
階級:王族を筆頭に爵位がある。(公、候、伯、子、男)
日本でも一応、爵位が存在した時代があったが当時と同じ爵位となっている。
それとは別に、別枠に職業の勇者というものがあるらしい。
6.ステータスについて
ステータスの開示は教会に頼むと、特定の人が鑑定し、開示してくれる。
開示許可、教会へのステータス開示権限がないと、基本的に値段が高くつく。
レベルや適性職業、ランクなどが鑑定されるらしい。
基本的には機密情報の1つであるのだろうと太郎は思う。
7.勇者について。
勇者とは、貴族・王族とは別に勇者という別枠で血筋で決められていて勇者一族の嫡男を対象に代々引き継ぐ。
対象の勇者は生まれた時にギルドに登録、申請しなければならない。
仮に申請しなかった場合、本家の取り潰しとなる。
勇者となる者には決まって勇者特定の魔法が使えるようになるという。
その魔法までは教えてくれなかった。
話によると今の勇者はクラン家。まだ魔法がたまにしか成功しない。
失敗することがほとんどだという。
たぶんそれは、父親から家督を受け継いでいないからとのこと。
勇者が所持している剣は、鉄の剣。家宝の剣とかではなかった。
刀も存在するがサムライという技術を持った者が扱える特殊な武器で、剣が主流となっている。剣は刀より技術が要らないそうだ。