2話 太郎と廃墟
どうやら閉じ込められたようだ
玄関ドアに鍵がかかっているようで開かない。
玄関はすべて壁で塞がれて奥に進むことができない。
スマホの電波も圏外で届かない。
(どうしようか……最悪、ドア蹴破ってでも、脱出しようか?)
などと考えながら、背負っていたリュックを足元におろした。
床に腰をかけ、映像をチェックし始めた。
(やっぱ、ドア締まる音は入っているよな…………本番で取れ高なかったらここの部分…………)
壁に寄りかかろうと体重をかけると壁が倒れた。
一緒になって太郎もひっくり返り頭を打った。
「いてっ! ――なんで壁がぬけんだよ!!」
玄関の壁は、すべて裏側から添え木1本で支えてるだけのものだった。
なんでわざわざそんなことする必要があるのか、理解に追いつかない太郎ではあった。
中を拝見できるとあって、とりえあず、建物内部を見渡してみた。
すでに玄関ドアが開かないことは忘れてしまっている。
ツタで半分以上覆われてるだけあって、館内は光が差し込まず真っ暗だった。
リュックから懐中電灯を取り出し明かりをつける。
一通り建物の中を見て回った。
管理人室は、おそらくオーナーが住み込みで利用していたのであろう、生活感を感じさせるものであふれかえっている。
オーナーは荷物もまとめずに体ひとつで逃げ出したと思わせるくらい、生活に使っていた物がそのまま置いてあった。
それ以外、荒らされた形跡もなく、至って普通の旅館。
各部屋の鍵も管理人室にある程度残っている。
すべて1~42番までしっかりと鍵が並んでいるので、ほとんどの鍵が残っている状態だろう。
玄関ドアの鍵は空だった。
旅館の中は長い間放置されていたと思えないほど綺麗で、簡単に掃除すれば明日からでも旅館として機能しそうな感じだった。
管理人室のおくにあるドアは勝手口と思われる。
太郎は、勝手口から出ようとしたが鍵が掛かっていた。
でも、ここのドアは内側から解錠できるようになっていている。
そのまま解錠し、ドアを開け外に出てみた。
外には花壇があり、花壇はほとんど雑草に占領されていて見る影もない。
その奥には広い駐車場があるが、アスファルトの合間から雑草が生えている。
――外はもう夕暮れだった。
(夕日? 俺、そんなに長いこと見て回ったかな?)
腕時計を確認するが、まだ14:43だった。
(えっ? まだ14時じゃん!!)
再度、空をみるが赤く染まっていて、日の光も上からではなく正面からくるので、状況的には夕暮れだった。
今、自分に置かれた状況が異常であるような気がした。
(玄関に戻らなきゃ………………)
撮影していることを忘れ、急ぎ正面玄関に戻った。
戻ってみると、正面玄関の扉が開いる。
(さっきの撮影チェックだって、ドアはしまってたはず)
また開いているのが、太郎には理解できなかった。
太郎は考える事を放棄して、ただただ、今のこの状況を受け入れることにした。
正面玄関から外にでても、変わらず夕暮れだった。
(まだ14時台だぞ? それで夕方っておかしくないか? 異世界に迷い込んだか? でも、異世界は電車かエレベーターだろう……)
理由をつけようとするが、なかなか自分に言い聞かせられない。
そして、電波が来ているどうかスマホを確認する。
(1本電波来てる! とりあえず、誰かに電話して確認!)
圏内にあるようだ。太郎の予定を知る撮影の仲間に電話を掛ける。
「トゥルルル……トゥルルル…………」
なかなか出ないようだ。さらにコールを続ける。
「ガチャ、ザァー、ザァー…………」
誰かが出たようだがノイズが酷いようだ。
「もしもし、 もしもーし!」
電話の向こうで何かしゃべっているようだが、ノイズが酷くて聞き取れない。
「ツーッ、ツーッ、ツーッ」
電話が切れたようだ。
更に最悪な事に、また圏外になっている。
(ダメだ、電波わりぃわ)
そして、あたりは急に暗くなる。
「日が沈んだか? まだ15時にもなってないぞ? とりあえず、車に戻るか」
手にしている懐中電灯を来た道の方へ向ける。
――と、白い影が動いたように見えた。
太郎は固まった。
だんだんとこちらに近づき、それが何なのか少し見えてきた。
(なにあれ?)
太郎もさすがに恐怖に身を包む。
撮影する余裕さえないこの状況、太郎はパニック状態だった。
そして、その後ろからくるもう一つの影があった。
二人いるように見える。
その二人が揉み合いの喧嘩をしているように見えた。
こちらには気をとめていないようなので、太郎は少し近づいてみる。
近づいたところで、太郎は足を止めた。
太郎がみた白い影は、ガイコツだった。
この場合、モンスターのスケルトンと言った方がしっくりくるだろう。
もう一つの影は、剣を振り回しているようだった。
――次の瞬間、スケルトンはそのまま崩れた。
どうやら、スケルトンを倒したようだ。
太郎は考えを巡らせる。
今のはどう見てもモンスターのスケルトン。
DQとかFFとかでも出てきそうなモンスターだ。
つまり、今、自分が置かれている状況は、他の配信者の撮影!
(それにしても廃墟にアンデットって凝りすぎじゃないか?)
青いターバンに白いマントに体半分くらいの長さの剣を持っている。漫画やゲームでよくみる勇者のような風貌。
そんなことを考える太郎に気付いたのか、太郎を見る。
「大丈夫ですかー?」
と、太郎に声をかけてきた。
「大丈夫です!」
その人は太郎に、駆け寄ってくる。
「僕は、勇者をやっているだクラン・ブルーだ。勇者といってもまだ駆け出しだけどね」
照れ笑いする勇者は太郎に右手を差し出す。
見るからに勇者と言わんばかりの恰好だなと、太郎は思った。
勇者ヨ○ヒコのようにしか見えなくなってきた。
「山田太郎です。ヨシ……その、ありがとうございます。これは撮影か何かですか?」
太郎も勇者クラン・ブルーの手を握り、握手する。
「ん? サツエイとはなんだい?」
勇者は太郎が何を言ってるんだ?といわんばかりの顔をしている。
「いや、そんな恰好しているので、撮影と思ったんですけど……」
あくまでもそのまま進行しようとしている。
(――いや、待て俺。こんな廃墟で勇者の恰好して来るくらいのやつだ。あたまのネジ飛んでる撮影者だろう。でも、他に周りを見てもカメラ回してる気配がないし、自分で撮影している様子もない。この人は何が目的だ?)
怪しさしか感じられないこの勇者は、見れば見るほど怪しい。
先ほどのスケルトンは草むらに沈んでいるのか、形もかけらも見当たらなかった。
どういう仕掛けで動いていたのか気になる。
「タロー、僕にはサツエイが何なのかはわからないけど、ここは危険だ。一緒に町へ戻ろう!」
「いえ、結構です」
撮影でもなさそうだったので、なんかの勧誘かそれに準ずるものと思い、太郎は誘いを断る。
「ダメだ! 一人では危険だ!」
と、ものすごい剣幕で圧をかけてくる。
太郎はそれに恐怖した。逆らうといいことなさそうだ。
「じゃあお願いします。少しだけ、寄りたいところがあるのだけどいいですか?」
勇者もそれで了承してくれた。