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プロローグ、物語はハッピーエンドから

気が付くと秋晴れの空が広がっていた。手が届きそうな低く厚い雲も晴れ、澄んだ薄青色の爽やかな風と空がいつもより広く感じられて胸を熱くする。


右腕には刃渡り約60cmのやや短い私の愛刀が慣れた重さを伝えており、そのまま足蹴にしていた男の喉元に愛刀の切っ先を振り下ろし鋭い目付きで見下ろす。

軍隊長ともあろう50半ばの男は狼狽え、言葉も出ずに怯えた目を向ける。

(これが軍隊長では、部下はなんと報われないことか…)

呆れ果てあんぐりと口を開けたくなる思いをぐっと引き締め、大きく息を吸い込んだ。


「ここがシロム帝国と知っての狼藉か!!」

大気を震わせ怒声はこだましていく。畳み掛けるよう矢継ぎ早に言葉を放つ。

「我が国を侵略せしめんとする軍隊がありと報告を受けたが、貴様らのことか?」

ギロリと目を見開き見下ろすと、泡を吹きそうな顔で首を横に振る軍隊長。

「お許しください、私はただ…そう、国王から仰せつかったまで!!我が国王の命令とあり、致し方なく!!逆らえなかったのです!!」

すっかり涙目になり訴える男に、傍に控えた私の信頼する部下が書状を広げ突き出す。

「これはタリオン王国からの早馬より先ほど届いた書状だ。部下が裏切り、軍を率いてシロム帝国に攻め入ると。」


「デタラメです!!私は嵌められたのです!!」

動揺を更に深め、ガクガクと震え涙ながらに訴える男はきっと知らなかったのだろう。遂に先王を討ちタリオン王国を治め始める事となった若き王は、シロム帝国女王と古き縁ある人物であると。

「タリオン王国はこれからより繁栄していくだろう。現国王はまだ若いが王たる器を持つ男。傾いた治世も廃れた街もまた直に活気を取り戻し、かつてのタリオン王国以上となるだろう。見誤ったな、サクト総司令官。」

「なぜ、私の名前を…!!」

その名と呼ばれると男は途端に飛び上がりそうになり、私はまた強く踏み鳴らすように男を足蹴にする。


「俺がここにいるからだよ」

完全に包囲され身動きの取れない兵士達の間を悠々と歩いてくる男がいる。

「よくもやってくれたな、サクト総司令官。」

そう告げながらゆっくりと近付く男の瞳はこの秋晴れの空より深くけれどどこか爽やかな群青色だ。黒い髪をなびかせながらゆっくりとサクトに歩み寄る。

「な…なぜ…貴様がここに…!!」

「まるで化け物でも見るかのような目付きじゃないか…。まさか国王戴冠式という隙を狙い、国王の許可もなく帝国に攻め入らんとするどこかの裏切り者でも見付けたような顔だなあ?」

歪んだ口元はまるで悪役のようだが、こちらが本物の現タリオン王国の国王タリオン・アレドニアだ。

「古き友の国を荒さんとする大罪人ありと直接伝えるために自ら早馬に乗ってくるような国王なんて、王の器じゃないもんなぁ?猛反対するお前の気持ちもよーくわかるよ。」

タリオンの国王は肩をすくめわざとらしく人の良さそうな首肯と共に言って退けるが

「しかし、残念ながら俺が今の王だ。我が国の王兵を勝手に率いて帝国に仇なした罪、その命だけでは足りぬ程の愚行と理解しろ。」

すっと真顔に戻り凛とした表情で告げる。

(まるで本物の王様のようだ…。)

そんな本音が思わず漏れたりしないようしっかり口を閉じたまま頼もしい旧友の顔を見ていた。この日はきっと後々にまで語られることになるだろう。

シロム帝国歴代初の女王の友人、タリオン王国歴代最高の国王誕生だと。


ーーーーーーーーーー


「久しいな、ハル!」

「ああ、久しぶりだな!アレン!」

3年ぶりの再会となるタリオン国王アレドニアは、どうやら面倒事をテキパキと片付け報告のためにシロム帝国執務室へとやってきたようだった。

「帝国もすっかり見違えたな!」

嬉しそうに私の肩を何度も叩き、労いの言葉をかけてくれる。

「アレンもすっかり見違えたな、まるで本物の王様みたいだったぞ!」

先ほど渦中において口から漏らさず飲み込めた言葉は、するりと今言葉として放たれてしまったようだ。 決して断じてわざとなどではないのだ。

「ひ、酷いぞハル…!俺だってもう25だ。ここまでの道程はお前が一番知ってるはずだろ!」

アレドニアの怯んだような顔はやはり昔の面影を思い起こさせるもので、あの日々を懐かしく感じさせた。その気持ちを指先で弄ぶように机の豪華な装飾を撫でる。

「すまない、そうだった。本当にここまで来たんだな。」

顔を上げ苦笑いを堪えながら、かつての道程が嘘のような今日という日を私も誇らしく思う。


ーーーアレンと私は、かつて凶作と戦争で疲弊しきったタリオン王国で出会ったのだ。私が転生しこの世界に生まれてからのことだ。

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