第六話
数年前に書いたけどメインヒロインの登場もないのに書くのやめてたのマジで申し訳ない。
流石に登場させます。
「ほへえ、これがトウヤのお家なんだね?にしては質素だね」
「いやいや、お前俺の何を知っているってんだよ。」
「全部」
「せめて疑問符ぐらいついてくれ...」
「私、普通にトウヤを墜とそうと思うの。」
「墜とすな俺は飛行機じゃない」
「応援してね」
「...」
美樹は家の場所をわざわざ隣にしている。そのまま俺の家に住んでいないのはなぜなのかが不思議だ。前科持ちは信用ならない。
春の、これから夏になっていこうという風は部屋を吹き抜けていく。
少し心変わりでもあったのか。
「これから毎日来るね。トウヤが誰といても何をしていても私を第一に優先してね」
「なんか、少し柔らかくなったな、美樹」
「なんで、私はずっと柔らか~な女の子だよ」
艶やかな黒髪を揺らしながら振り向いた美樹は、確かに美しかった。
それでも、俺にしたことを忘却できるわけではない。
きっと償おうとしているのだ、彼女は彼女なりに。
「まあ、よろしくな」
「!!!えへへへへへじゃあ早速なんだけどベッドに向かおっかほらその汚い足で踏んd」
「うるさい!せっかくのいい雰囲気だったのにてめえっ!この小説は全年齢だぞ!」
「一応R15だった気がするよ?」
「ええい作者の言い訳は知らんわ!帰れ!」
「いやでーす」
結局自分の家から逃げ出すという意味のわからない行動をしてしまった。
安息地は奪われてしまった。キリストに面目ない。
ただ監禁されたりするよりは(なんでも)いい。とりあえずコンビニに向かおう。
今日はバンビーズの新刊の発売日なんだ。
歩道は学生が歩くことを知っているのか、少し凸凹気味である。カマキリがどこかの家から飛び出してきたかのように塀の上におり、その下には獲物を狙い定めるアライグマがいる。
特定外来生物だが鳥獣法にも引っ掛かりそうな熊。本当に熊なのか、風貌は完全に狸のそれだ。
歩き進めると、なにやら喧噪が聞こえる。
ここら辺で奥さん方が井戸端会議中なのか。
「だから、てめぇが先に手ぇ出したんだろ!」
「そ、そんな、わたしはただ歩いていただけで」
「うるせえ聞き飽きたよそんな言葉ぁ!」
耳を澄ませる必要はなかった。
女性には申し訳ないが、路地裏でヤンキーに勝ったり逃げたりできるほど運動が得意とか、正義感があるわけじゃない。
何とかして自分で助かってくれ、と。
思いつつ路地裏をのぞき込んでみる。
「お兄さん、こっちへおいで♪」
「ぐわぁっ」
女性から、急に腕を引っ張られる。凄い力である。
気づけばさっきのヤンキーたちはボコボコだ。なんとゴミ箱に突っ込まれているやつまでいる。
女性は、外国人だろうか、銀髪のボブカットのこれまた美しいこと。ピンピンしている。
なんという凄惨な状況だ。ヤンキーらはこの女性に負けまくったのか。
「ね、お兄さん、お名前何て言うの?」
「か、川瀬です。」
「下は?」
「トウヤです。」
「いい子だね、よく答えられました。パチパチ」
「あの、俺の事子犬だと思ってます?」
「いえいえ、とんでもない!気を悪くした?ごめんね?」
「あ、いや別に、じゃ、俺は行きますんで」
「こら、ボクみたいな可憐な少女が話しかけているのに、君はボクに目向きをしないね。ひょっとしてもう彼女さんがいるとか?それは困っちゃうなぁ」
「あー、まぁそうっすね。彼女待たせてるんで」
「嘘言わないで。昨日確認したんだ。君のこれからの予定はコンビニに行くんだ。そこでバンビースの新刊を買っておうちで自分で焙煎したコーヒーとミルクで作ったカフェオレと駅前のチョコチップクッキーを堪能しながらリクライニングシートでくつろぐんだ。夜8時頃になるとさすがに君のおなかも本格的に空くから、今日は冷蔵庫の中身的にパスタだね。トマトクリームパスタ!あれ美味しいよね、ねね、それならこれからお茶しようよ!ボク、おいしいパスタ屋さんを知っているからさ!あ、でも君は昨日ラーメンを食べていたね、ひょっとするとラーメンとパスタで麺類が続くからご飯がよかったりするかな、それなら君は成長期だ、五穀米で栄養を取らないとね!じゃあおいしいロコモコがあるんだ!数駅離れてるけど別にこれから迎えばちょうど夜ご飯のタイミングだもん大丈夫ボクは君に生活リズムを合わせてるからね!夜ご飯は完全に同時のタイミングで食べるし食べきってあげる!」
終わった。
完全にヤンデレだ。
この銀髪ボブさんは一体いつからヤンデレなのか、そもそもいつの間に家に盗聴器やカメラを仕掛けたのか。
「あ、僕が自己紹介してなかったね。僕はライラ!苗字は妃!でもライラって呼んでほしいな」
「あの、どこかでお会いしましたっけ」
「えー覚えてないの?」
彼女、ライラいわく。
俺が引っ越してきた際に特に必要もなくトラックからの荷下ろしを手伝っていた時のこと。
一人でベンチに座っていた女の子、と言っても幼稚園くらいの子供だった。その子を狙って今にもさらわんとする奇妙な風貌の男がいたのだ。
さすがにこの衆人環視の街中ではと思っていたが犯罪者の行動力は異常だ。
万が一のことを考えてみていると、やはり男はベンチの後ろに立とうとした。
「ねえお姉ちゃん、一人?」
「?おにいさんだあれ?」
「おにいさんはね、迷子になってないか心配で来た人さ。お母さんやお父さんはどうしたの?」
「んーとね、おトイレしてる!」
男はいなくなっていた。あたりを見渡すと、警察らしき人が男に職務質問をしている。
さらに保護者らしき女性も公園のトイレから走ってきた。
「あ、ありがとうございます!なんとお礼を申し上げましたら!」
「いえいえ、気にしないで下さい。むしろこちらこそ見知らぬ男性が話しかけてしまい申し訳ありません。おっと。」
女性は腕にけがをしていた。せっかくだし絆創膏を、と思ったが。
財布は家、絆創膏のある救急キットは荷下ろし中。
仕方がないので、ハンカチを渡すことにした。
「どうぞ、腕に付けますね」
「っいいんですか?ありがとうございます!」
「いえいえ、ではこれで」
いいことをした、と、勝手にいい気分になって誇らしげに帰る。
今夜はおいしい夜ご飯が食べられそうだ。
あー、あの時の。
あの女性、ライラだったんだーへー。
「そうだよ、それで気になってね、調べたら同じ高校の人じゃないかぁ!って、運命だよねこれは!」
「あの違います」
「そんなことないよぉ運命だよぉさぁボクと!一緒に!デートをしよう!」
ハンカチは、ポケットの中に入れていただけだったというのに。
まぁ空気感染みたいなのもするみたいだしもはやハンカチを傷口につけたらこうなるか。
診断より俺のフェロモンって効果強くないですか。
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