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お城を大冒険!

 人気のない場所を選んで、トタトタとお城の中を走りまわる。

 人が来たらささっと隠れ、どうしても人が多いところを通らなければいけないときは、天井近くまで飛んで移動した。

 みんな、意外に天井には気を配っていないみたい。まあ、天井もめちゃくちゃ高いしね。


 空を飛ぶ魔法って、実はあまり使わないのだろうか。わたし、これ、好きなんだけどな。というか、これ以外の魔法は危なっかしくて、あまり得意じゃない。


「すごい……」


 お城の中を一人見て回る。

 魔王さまと一緒に廊下を歩いたときにも思ったけれど、やっぱり広い。城の尖塔なんて、首が痛くなるくらいに見上げなくちゃ、全体が見られない。

 わたしは感心しつつ、いろんな部屋を覗いてみた。

 音楽の間に、晩餐室、舞踏室、謁見室、王座の間。

 数え切れないくらい部屋があって、全部見て回るのにどれくらいかかるだろうと、冷や汗をかいてしまった。


「あれ、なんだかいい匂いがする……」


 ふと、しばらく城の中を見て回ったところで、料理のいい香りが漂ってきた。

 こ、これはたまらない。

 わたしは犬のごとく、鼻をくんくんさせて、匂いの元をたどってみた。


 ◆


「うわぁ、すごーい!!」


 たくさんの機材が並んだ部屋で、白い服にコック帽をかぶった料理人たちが、せわしなく働いている。

 わたしはドアの隙間からそーっと、厨房を覗いていた。

 魔界式の料理道具はすごく面白い。何かスイッチのようなものを回すと、火がボウっと出ていた。あれ、どういう仕組みなんだろう?


「おいおい、なんだ? どこから入ってきたんだ」


 料理に見とれていると、後ろから野太い声が聞こえてきた。

 ぎくっとして振り返れば、コック帽をかぶった髭もじゃおじさんが、わたしをまじまじと見ていた。

 し、しまった。

 夢中になって、背後に気づかなかった……。


 な、なんか言わなきゃ……と思って、とっさに口を開く。


「えと……お腹へっちゃった」


 とんでもない言い訳が出てきてしまった。

 なんだよお腹減っちゃったて。

 さっき食べたばっかじゃんかよぉ。


「腹が減っただ?」


 髭もじゃおじさんは、わたしをまじまじと見つめる。

 何か考えるように顎をさすった後、にっこりと笑った。


「それなら嬢ちゃん、なんか食べてくか?」


「! いいの?」


 ぱあっと笑顔になるわたしに、髭もじゃおじさんは頷いた。


「ちょうど、感想を聞きたいもんがあったんだ」


「?」


「ほら、入りな」


 髭もじゃおじさんに促され、わたしは厨房にいれてもらうことになった。

 もちろん料理人さんたちがせわしなくしているところじゃなくって、端っこにあるテーブルと椅子に座らされる。

 ちょっと待ってろよ、と言われ、わたしは足をぶらぶらさせながら、頬づえをついて、厨房を眺めた。


 火を生み出す魔道具に、水が出てくる不思議なひねり。

 人間界にないものばかりで、見ているだけでワクワクした。

 わたしもあれ、使えるのかな……。


「ほい、お待たせ」


「!」


 いたずらしたくてワクワクしていると、髭もじゃおじさんが帰ってきた。

 マグカップを一つ、わたしの前にデンとおく。


「うわぁあ! なにこれ!」


 マグカップの中に淹れられていたのは、ただの飲み物じゃなかった。


「ネコちゃんがいる!!」


 おそらく、マグカップの中身はココアなのだろう。

 けれどすごいのはそこじゃなくて、ココアの上に、ネコの形をしたもこもこクリームがのっていたことだ。

 本物のネコみたいで、かわいい!


「これ、おじさんが作ったの?」


 キラキラした目でそう聞くと、髭もじゃおじさんは照れたように鼻をすすった。


「おうよ。最近、都で流行ってるからな。一度魔王城でも出してみたかったんだ」


 へえ〜。

 こんなのが流行ってるんだ。

 魔界っておもしろいなぁ!


「遠慮せず飲みな。まずかったら意味がないからな」


「うん!」


 飲むのがもったない。

 でもわたしは飲むぞー。


 五歳児には少し大きいマグカップを、両手で包んで持ち上げる。

 それから、ネコちゃんのクリームとキスをするように、こくこくとココアを飲んだ。

 う〜ん。味もちゃんと美味しい。

 最高だよ! と笑ってみせると、髭もじゃおじさんはわたしの口周りにひっついていたらしい泡を拭って、嬉しそうな顔をした。


「おお、よかった。それなら一度、魔王さまにもお出ししてみるか」


 ココアを吹きそうになってしまった。

 このネコちゃんココアを魔王さまに出すのか……。

 あの怖い感じの魔王さまに……。

 このプリチーなネコちゃんココアを……。


「よし、嬢ちゃん、さっき美味しいクッキーも焼いたから、ちょっと待ってな」


「ありがとー!」


 髭もじゃおじさんは、くしゃりとわたしの頭を撫でて、また厨房の方に戻っていった。

 彼の姿が見えなくなった後、わたしはそーっと椅子から飛び降りる。

 そして近くにあった大きな木の箱の影に隠れた。

 そうしたら案の定、おじさんが女性を連れてやってくる。


「ほれ、そこでココアを飲んで……っておろ?」


 髭もじゃおじさんは目を丸くした。


「い、いないじゃないですかぁ!」


 ティアナの声が厨房に響く。

 おじさんは頭を叩いて、笑った。


「こりゃあ、一本取られたなぁ」


 思わず笑いが漏れる。

 ふふ、これでも中身は大人なもんでね。

 まだまだ探検しなくちゃいけないもの。


 笑うおじさんに、べー、と舌を出しておいた。



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