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エピローグ 魔王の伴侶になりました。


「そりゃあまあ、無理だよねぇ」


 魔王城の屋根に立って、わたしは街を眺めながら呟いた。

 眼下には、城を中心に円形に発展している広大な街がある。

 そこには多くの魔族たちが行き交っていた。


「まあでも、時間ならたっぷりあるから、今はまだいいのかもね」


 街を眺めながらぼんやりと考えるのは、魔王さまに聞いたひまりちゃんの様子。

 彼女は人間界に残ることを決めたらしい。

 けれど魔王さまは確かにわたしの言葉をひまりちゃんに届けてくれた。

 そしてひまりちゃんの言葉を、わたしに届けてくれた。

 

 今はまだ、無理かもしれないけど。

 この先も生き続けるのなら、いつかきっと、再会できるだろう。

 それまでに、お互い良い大人になっていることを願っておこう。


「それにしても、大きいなぁ」


 目の前に広がるのは、わたしがこれから暮らしていく場所。

 

 ──魔界。

 人間界とは違う世界。


 ここは人間界よりももっと発達していて、わたしの知らない技術や、知識や、おもしろいこと、楽しいことがまだまだたくさんある。

 わたしはこれから勉強していかないといけない。

 魔王さまのとなりに立つものとして。


 びゅう、と風がわたしの長い髪をさらった。

 髪を耳にひっかけていると、ふわりと背後に魔王さまの気配を感じた。

 

「またお前はこんなところに」


 振り返ると、目に式布をあてた魔王さまが立っていた。

 太陽の光を浴びて、式布に縫い込まれた銀糸がキラリと光る。

 魔王さまはわたしを咎めるように、抱き上げた。


「魔王さま」


「こんなところにいて、足を滑らせでもしたらどうするんだ?」


「この羽があるから大丈夫だもん」


 最近のわたしは、この羽でいろんなところをパタパタと飛び回っている。


「まだ力が不安定なんだ。頼むから、俺の心臓を凍らせないでくれ」


「わたし、そんなに魔王さまが不安になること、したっけ?」


「した。この間も、行き先も告げず外に遊びに行っただろう」


 あー、そういえばそんなこともあったっけ……。


「……この首輪があるから、いいじゃん〜」


 ハート型のチャームがついた首輪にふれる。

 わたしは結局、首輪をつけたままにしていた。

 はじめて魔王さまにもらったものだし、結構気に入ってるからさ。

 ちなみに、もう首輪は自分で外すことができる。

 お風呂とか、この首輪に似合わないファッションのときとか、大変だったからね。


「ダメだ。遊びに行くなら、ちゃんと行き先を言え。危ないところには行くんじゃない。首輪があってもだ」


 言っておくが、と魔王さまに釘を刺される。


「お前は危険なことに突っ込んでいく節がある。その点に関しては、信用がないからな」


「えっ、ひどい!」


「本当のことだろうが」


 魔王さまはわたしの首輪に視線を移した。


「それができるなら、その首輪だって、つけていなくてもいいのに」


「……いいよ。これ、大事なものだから」


 魔王さまは少し首をかしげた。


「ペットみたい、と嫌がってたじゃないか」


「魔王さまにもらったものだから、いいの!」


 そう言って、魔王さまを見上げる。


「それに、ペットは家族なんでしょ?」


「……ああ」


 そうだな、と魔王さまは言った。


「じゃあわたし、このままでいいよ。魔王さまのペットのままで」


 だってわたし、今のところ、魔王さまの伴侶ってことにはなってるけど、結婚もできないもんね。

 いや別に、結婚式だってやろうと思えばできるだろうけど、絵面が……。

 魔王さまが犯罪者って言われちゃうから……。


「そうはいかないな」


 魔王さまが、ちょっと笑った。

 そしてわたしの耳元でささやく。


「俺がお前に注ぐ愛は、ペットに向けるものとは別のものだから」


「っ!」


 ほっぺたが真っ赤になった。

 あんまりこういうのに慣れてないせいだろうか。

 なんて返していいのか、分からない……。


「わ、わたし……」


 顔を真っ赤にしていると、魔王さまは真剣な顔で言った。


「腹をだして寝てるのも、風呂のときに湯に浸からずにあがろうとするのも、俺は心配だ」


「……」


「風邪をひかないように、ちゃんとティアナの言うことを聞いておくんだぞ」


「…………」


 ……おい。


 おーーーい!


 魔王さま、それ、完全に父性だよ。

 親子愛だよ!!!


 わたしはガクッとうなだれた。

 ちょっとドキドキしちゃって、バカみたいだ。


「魔王さま……」


「ん?」


 でも、こてん、と首をかしげた魔王さまを見て、何も言えなくなってしまった。本当にこの人、何もわかってないみたい……。

 魔王さまって、意外と鈍感だ。


 でも、なんでかな。

 今はわたしも、この関係が心地よく感じる。


 わたしが呆れたように魔王さまを見つめていると、魔王さまはわたしの頬に触れた。


「プレセア」


「なぁに?」


 魔王さまは少し笑って、わたしの頬に口付けた。


「お前を愛している」


「!」


 びっくりして、心臓が跳ね上がった。

 呆れたり、ドキドキしたり、わたしの感情は目まぐるしく変化していく。

 というか、変化させられていく。

 

「な、なによ急に……」

 

 恥ずかしくなって、魔王さまにしがみついた。

 くつくつと喉で笑う声が聞こえてくる。

 ……やっぱり、わたしが勝手に飛び回ってること、怒ってるな。この人。


「プレセア、こっちを見ろ」


「……」


 ほっぺたを真っ赤にしたまま、そろそろと顔をあげる。


「本当にお前はかわいいな」


「……か、からかわないでよ、ばかっ」


「からかってないさ。本当のことを言っただけだ」


 そう言って、もう一度、今度は額にキス。

 ううう……もう……。


「……聞いてもいいか」


「……なに?」


「今、お前は幸せか?」


 魔王さまはわたしに尋ねた。

 以前、何度も何度も、わたしに問いかけたように。


「……うん、幸せだよ」


「そうか」


 よかった、と魔王さまはつぶやいた。


「きっと、これからもずっと幸せだよ」


 街を見下ろして、そう呟く。


「魔王様のそばにいる限りね」


 わたし、魔王さまやみんなに、大切なこと、たくさん教えてもらった。


 人に愛されること。

 人を愛すること。


 わたしが欲してやまなかったものを、このひとはわたしに与えてくれた。

 呪印のせいで力が暴走しても人間たちを殺さなかったのは、きっと、心の深い場所に魔王さまからもらった大切なものが根を張っていたからだろう。

 

「もう一度、言ってくれないか」


「……え?」


 魔王さまは微笑んで言った。

 式布の向こう側で、黒い瞳が優しく緩められているのが、目に見える気がした。


「神殿で俺に言った言葉を。もう一度聞かせてほしい」


 ……は、恥ずかしいなぁ、もう。


 でもわたし、魔王さまにはたくさんのものをもらったからね。

 だから今度は、わたしも魔王さまに、いっぱい幸せを返したいな。


 わたしは思っきり笑って、魔王さまに抱きついた。

 







「魔王さま、世界中で一番大好きっ!」









 第1章 END.


最後までお読みいただきましてありがとうございました。

ここまで書ききれたのも、応援してくださった皆さまのおかげです。

たくさんコメントをいただきまして、ありがとうございました。返信はできておりませんが、一つ一つ確認させていただいております(あと、誤字脱字報告も! めちゃくちゃ助かってます。ありがとうございます)


二章は、二週間ほどお時間をいただた後、開始したいと思います。

一章よりもさらに溺愛&面白いエピソードをお届けできるよう、頑張ろうと思います(*^▽^*)


それでは、また!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 全体的によかったです! [気になる点] 私は小学校6年でめっちゃ難しい漢字を平仮名にしてください (難しい漢字以外はだいたい雰囲気でわかる) (ただのお願いなのでやらなくていいです)
[一言] 良い終わりだった。 二章も楽しみです
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