みんな過保護になっちゃった!
魔王さまの伴侶があらわれたということ。
その報せはすぐに大陸全土に知らされた。
というかもう、すでに噂になっていたのだろう。
魔王さまのそばに小さな女の子がいつもいるって。
その子は人間界で育てられ、こちらへやってくる際、時空の歪みで小さくなってしまったということになっている。
けど、本当はそうじゃない。
わたしが小さくなっちゃったのは、わたしが運命を変える代償を払ったからだ。それは十年という歳月だった。わたしは再び、ここから十年かけて、十五才という体に戻っていかなければいけない。
魔王さまが目が見えなくなったという事実は、いったんはふせられている。
目の病気で、一時的に式布を使っているということになった。
大陸民を不安にさせるわけにもいかないから、という理由だった。
「ティアナ、ごはんおかわり!」
「プレセアさま、ほらもう、お口についてますよ」
ティアナにごしごしと口元を拭われる。
わたしはといえば、いつもと変わらない生活を送っていた。
いっぱいご飯を食べて、お昼寝をして、あとはお城を走り回って遊んでいる。
やることないんだもんね。
しばらくは体を回復させるために、自由にしていろと魔王さまに言われている。
と言っても、最初は大変だった。
みんなわたしに護衛をわんさかつけようとするわ、部屋に縛りつけようとするわ……。
わたしが脱走した事件を知っているので、みんな警戒しちゃってるんだろう。
幼い魔王の伴侶というのは、城で大切に大切に、守り育てられるらしい。
魔王からの愛情だけでなく、育て親と言われる存在や、世話をしてくれる人たちに、溢れんばかりの愛情を注がれて、幸福で満たされた大人になる。
そうして魔王を支える立派な伴侶となるのが、伝統らしい。
そのせいか、とにかくみんな、わたしを気にかける。
もともとお城の人たちは優しかったけれど、さらに輪をかけて、わたしにかまうようになった。みんな、わたしの本当の年齢を知っているはずなのに、それでもまだわたしが五歳児であるかのように扱うのだ。
この間なんて、両手を侍女たちに繋がれて階段を降りたし(わたしが階段から転がり落ちて怪我をするのが怖かったらしい)。
朝から晩まで、ティアナを筆頭に、姫さま、姫さまと侍女たちに世話をされる。
みんな好きでやってるらしいのが、本当に驚きだ。
そうそう。困ったことといえばそれだけじゃなくて。
最近は、名前も顔も知らない、見たこともない人たちから大量にプレゼントが届く。わたしが戻ってきたお祝いに、ということらしい。でもあんまり大量にとどくものだから、お城の人たちも困っていた。新しく宝物庫を増設したほうがいいのでは、といった話がでるほどに。
プレゼントだけでなく、ぜひ領地へ来てほしいというお誘いも届く。けれどこれには、魔王さまが頑としてうなずかないので(しばらくわたしを遠くへ連れて行く気はないらしい)、対応しなくてもよくなった。ティアナもこのお誘いには大反対してたっけ。子供に無理をさせるのはよくないってさ。もう子供じゃないってわかってるはずなのに、ティアナもわたしを子供扱いするのだ(わたしって、そんなに子供っぽく見えるのかなぁ?)
とにかく、十五年ぶりに戻ってきた魔王の伴侶を、二度と手放すまいと、みんな必死だった。それだけわたしがまたどこかへ行ってしまうのではないか、という不信感もあるということなのだろう。
またわたしが誰かに攫われるんじゃないかとか。
でも大丈夫だ。
むしろ逆に不安。
誘拐犯とか来たら、逆に殺してしまいそう。
魔法の力を持て余してる感じがするんだもん。
……ということで、たくさんの護衛は、わたしには必要ない。
わたしがそういうのが嫌いだからというのもあるけど、飛び回って城を飛び出したりして、結局誰もわたしについてこれないので、実質、わたしにはあまり護衛が引っ付いていないのと同じかな。
普通、魔法の力を持ってしても、飛ぶのは難しいことなんだって。
わたしはどうやら、はじめっからおかしかったらしい。
「姫さまーーー!!!」
といつもわたしを追いかけてくる近衛兵の人を振り回して、最近は遊んでいるのだった。
◆
そして、しばらくたったある日。
ついにその日はやってきた。
「……かなり痛むと思うが、覚悟はいいか?」
「うん、大丈夫だよ」
ベッドで横になるわたしの服の胸元を、魔王さまがくつろげる。
そして胸に手をかざした。
──解呪。
わたしの中に埋め込まれた呪印を、解くのだ。
それには健やかな体と精神が必要で、魔王さまはもう、わたしがそれを手にしていると判断した。
だからいよいよ、それを行うことになった。
「負けるなよ、プレセア」
「うん」
魔王さまの手から光が溢れ出す。
「……っ」
心臓を握りつぶされたみたいに、胸が苦しくなって、息がしづらくなった。
「あ、あ……!」
体が痛い。
サークレットをつけたときみたい。
「まおうさま、いたい……!」
魔王さまの手を握る。
「くるしい、よ……」
「すまないプレセア……俺がそばにいる。どうか耐えてくれ」
魔王さまも苦しそうだった。
わたしの意識は、すっと闇に落ちていく。




