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星を見に行こう

「怖がりだな、お前は」


 ティアナからわたしを引き取った魔王さまは、ちょっと笑って、一緒にベッドで横になってくれた。

 魔王さまは雷なんて、怖くないらしい。

 ぴかぴか、ごろごろいってても、何も気にしていないようだった。

 

 眠いのに眠れなくて、ぐずぐずと涙が出てくる。

 雷の音をシャットアウトしようと、わたしは魔王さまにしがみついた。

 魔王さまはそんなわたしを見ながら、背中を撫でてくれた。


 けれどしばらくたっても、わたしはふるえたままだった。


「……()れないな」


 ぐす、と鼻を鳴らして、魔王さまを見上げる。

 魔王さまは起き上がると、わたしを毛布に包んで、抱き上げた。

 ぴかぴかと窓が光って、騒がしい。


「雷が嫌いか」


「……うん」


「じゃあ、星を見に行こう」


 こんな雨の日に何を言ってるんだろう?

 わたしが目を瞬かせると、魔王さまはちょっと笑った。

 

「目をつぶってろ」


「?」


 言われた通り、目をつぶる。

 あ、この感覚。転移魔法だ。





「もういいぞ」


 少し冷たい風が頬をくすぐった。

 雷の音が消えている。

 ゆっくりと目を開けると──。


「う、わぁ……!」


 目の前に広がっていたのは、 宝石箱をひっくり返したような、満点の星空だった。


「魔界の全てが雨に覆われる日なんてないからな」


 魔王さまはわたしを抱っこしてそう言った。

 そこは見渡す限り、障害物のない、丘のような場所だった。

 空がどこまでも続いている。


「どこかはきっと、晴れている」


 魔王さまはそう言って笑った。

 雷鳴が聞こえなくなったおかげか、ちょっとずつ元気が出てきた。


「星、つかめそう!」


 思わず手を伸ばす。

 すると、きらりと流れ星が流れた。

 それに興奮して、ジタバタと魔王さまの手から抜け出そうとする。


「ほら、風邪をひくから、くるまってろ」


 魔王さまはわたしが出て行かないように、ぎゅ、と抱きしめた。

 そのまま丘の上に腰を落ち着けて、わたしを座らせる。


「これだったら、怖くないだろう」


「うん、ありがと」


 魔王さまを見上げて、笑う。

 魔王さまはわたしのほっぺをつついた。


「雷が怖いなんて、お前も子どもだな」


「子どもだもん」


 魔王さまにしがみついて、目をつぶる。

 だんだん眠くなってきた。

 魔王さま、あったかいなぁ。


「……ねえ、明日もここに来ようよ。そしたら、雷うるさくないよ」


「明日になったら、やんでいるだろう」


「そうかなぁ」


「ああ」


 魔王さまに背中を撫でられ、こっくりこっくりとわたしは船をこいだ。


「まおうさま」


「ん」


「もしもね、わたしが、魔王さまにとってよくない人だったら、どうする?」


 眠すぎて、無意識のうちにそんなことを尋ねていた。


「……よくない人、とはなんだ?」


「魔王さまの、敵とか……」


 魔王さまは少し考えた後、言った。


「お前がお前である時点で、俺にとっては悪い人じゃない」


「……?」


「お前が、本当はどんな立場にいようと、関係ないと言っている」


「わたし……」


「なんでもいい。前にも言っただろう。お前はただ、俺に愛されていろ、と」


 なんだか分からないけど、また涙が出てきた。

 泣いているのを気づかれないように、魔王さまにしがみつく。


 なんで魔王さまはわたしを無条件に愛してくれるんだろう?


 わたしは、ほんとは聖女だった。

 子どもでもなんでもないし。

 

 それを知っても、魔王さまは同じことを言ってくれる?

 

 オルラシオンの人たちは、わたしが聖女だったから、あの場所に置いてくれた。

 じゃあ魔王さまは? 

 魔王さまはどうなの?


 無価値なわたしを、それどころかあなたの敵であるわたしを、あなたは……。


 優しい魔王さまに、何もかもを吐き出してしまいたくなった。

 それでも、このぬくもりが遠ざかってしまうのが怖くて、わたしは言えない。

 

 やっと手に入れたのに。

 無くしてしまうなんて、やだ。



 やっと、やっと。


 それがどんな形であれ──愛してくれる人を見つけたのに。





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