魔王って四人いたの!?
「え、待って待って、ちょっと、ストップ」
今まで聞いたことがなかった壮大な話をいきなり聞かされて、わたしは混乱してしまった。
「なんだ」
混乱するわたしを見て、魔王さまは首をかしげる。
「魔王さまって四人もいるの?」
「ああ、そうだ」
「一人じゃなかったの!?」
魔王さまはため息を吐いた。
「世界をたった一人で管理できるわけないだろう。俺は西の大陸を管理する魔王だ」
え、ええ〜!?
わたしゃてっきり、魔界を治めるのはあなただけなのかと……。
「じゃああと三人、魔王がいるの?」
魔王は頷いた。
「北と南は男の王が、東は女の王が治めている」
「そうだったの!? 四人で仲良く世界を管理してたってこと?」
「……別に仲がいいわけじゃない。南のやつは気に食わん」
な、なんか喧嘩でもしたんかな。
南、と言った時だけ、魔王さまは不機嫌そうな顔になった。
「それぞれの大陸ごとに風土と文化も違う。俺は東が気に入っている。面白いものが多いからな」
「面白いもの……?」
「今度連れて行ってやろうか」
魔王さまは笑って言った。
「! ほんと?」
「ああ」
わたしは子供のようにぴょんぴょん跳ねた(いや子供なんだけどさ……)。
なんだか一気に、世界が広がったような気がする。
ほんとにわたし、魔界のこと、なんにも知らなかったんだなぁ。
「魔王さまって、女神さまの血を受け継いでたんだね」
「そうだが」
そうだがって……。
なんか軽……。
「その、女神さまの血が入っているから、みんなは魔王さまに従うの?」
「そういうことになってはいる」
「?」
「……昔は、ここまで平和じゃなかった」
魔王さまは考え込むように口をつぐんだ。
それから私をちらと見て、迷うように話す。
「初代の魔王が生まれてから、ここまで大陸の治安を安定させるのに、随分と長い時間を要した」
「なんで?」
「……魔王の治世に反対するものがいたからだ」
反対するもの……。
「その、反対していた人たちは、今はもういないんだよね?」
「……さァ、どうだろうな」
なんか怖い話だなぁ。
やっぱ、人間界も魔界も、同じような不安はあるんだね。
「魔王さまって、なんかすごいね。ますます遠い存在に感じるよ」
わたしが関心しきってそう言うと、魔王さまは呆れた顔をした。
「お前、俺のことを魔王、魔王と呼ぶがな」
「?」
「俺は魔王という生き物じゃない」
ぷい、と魔王さまはそっぽを向いて言った。
「俺にも名前がある」
「そ、そういえば!」
今まで一回も、聞いたことなかった……。
「俺に興味がないんだな」
「そ、そんなことないよ」
わたしを助けてくれた魔王さまだもん。
そりゃあわたしだって興味津々ですよ。
「名前、教えて?」
「教えない」
「なんでよ」
「ごくごく普通の、ありふれた名前だから。どうせお前は興味ないんだろう」
あれ、なんだろう。
魔王さま拗ねてる……?
初めて見る魔王さまの態度が、ちょっとおもしろかった。
そのあとはいくら問いただしても、結局名前は教えてくれなかった。
いいもーんだ、あとでティアナに聞くからさ。
「でもやっぱり、人間界で教えられてきた歴史とは、全然違うよ」
わたしは会衆席にぽん、と腰をかけてそう言った。
「わたしの世界ではさ……」
そう言って、ふと言葉が詰まった。
「わたしの、世界では……魔族は、魔王さまは、残酷で……」
「……」
「それで、わたしたちが……」
聖女がずっと結界を張ってなきゃいけないって。
そうじゃないと、魔族たちが攻めてくるから。
瘴気が、人間界に侵食してくるから。
「……魔王さまは、人間界が、欲しいの?」
おそるおそるそう聞いた。
「お前たちの世界では、そうなっているのか」
「……違うの?」
魔王さまは言葉を選んでいるようだった。
なぜ、そんな風に濁しているの?
それ以上聞くのが怖くなってきた。
──魔王さまは、冷酷で、残酷なはずで。
人間にとっては、悪い生き物のはずだった。
けれど、実際に私の目の前にいる魔王さまは、わたしにひどいことなんて、何一つしなかった。
むしろ……むしろ、人間界でわたしの周りにいた人たちのほうが、なんだか、冷酷だったような……そんな気がする。
「もう行くか」
魔王さまは話をぶった切って、いきなり立ち上がった。
わたしもこくんとうなずいて、そのあとに続く。
魔王さまはわたしと、しっかり手をつないだ。
その手はとても、あったかかった。
わたしはその手にすがるようにして、魔王さまのあとを歩く。
考えることが、少し怖い。
もしも、もしもの話だけど。
わたしが十年間教えられてきたことが、全部間違いだったのだとしたら。
わたしは。
わたしはなんのために。
わたしの十年間は、一体──。




