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おもちゃ屋さん最高

 魔王さまはその日、わたしをいろんなところに連れて行ってくれた。

 子供っぽいなぁと思いつつも、人間界にはない面白そうなおもちゃが売っているおもちゃ屋さんにも入り浸った。

 いやこれがまた楽しいんだな、一日だっていられちゃう。

 そこでベッドに置く新しいぬいぐるみ(ハム)も買った。


「この子、魔王さまのこどもー?」


 おもちゃ屋さんをうろうろしていると、子どもに絡まれた。


「知り合いの子どもだ。仲良くしてやってくれ」


 魔王さまはさすがにわたしをペットだとは言わなかった。

 子どもの教育に良くないと思ったのかも知れない。

 魔王さまはわたしを子どもたちに押し出した。

 元気いっぱいで懐っこい子どもたちは、わたしをぐいぐい引っ張る。


「ねえ、あそぼうよー!」


 びっくりして、わたしは魔王さまの足にしがみついた。


「ねえ、名前はなんていうの?」


「ぷ、プレセア、だけど……」


「プーちゃん?」


「プープー」


 うわ、すごいあだ名……。


「あっちいこ。ボードゲームしよ!」


「ちがうよ、車遊びするんだよ」


「家族ごっこするの!」


「ちょ、ちょっと!? うわ、ひっぱらないでってばー!」


 子どもの思考はよく読めない。

 天真爛漫で、あっちへこっちへとわたしをぐいぐい引っ張る。


「うへぇ〜」


 よく分からないが、私は子どもたちにモテた。

 こんなにたくさんの純粋な好意を向けられたのは初めてかもしれない。

 もちろん、子どもたちにはくっしゃくしゃにされたけどね。

 子どもの面倒見るのって大変だなって思いつつも、別にそんなに嫌じゃなかった。むしろ楽しかったような……(わ、わたし自身が子どもっぽいから楽しめたとかじゃないからね)。


 子どもたちにくっしゃくしゃにされたあと、魔王さまはそのまま私を服屋さんに連れて行ってくれた。

 服はもういっぱいあるからいいって言ってるのに、魔王さまは容赦なくわたしの新しい服を買っていた。着せ替え人形のようにお店の人にたくさん服を着せられて、それはもう本当に大変だった。

 あ、でも気に入った買い物もあったよ。

 ハート型の小さな赤いポシェット。

 これは小さく見えて、中にたくさんのものが入るから、なかなかいい買い物だと思った。


 ◆


「ねえ……ここ、なに……?」


 魔王さまと手をつないで街をぶらぶらしていたら、魔王さまは突然、わたしを抱っこして、転移魔法を使った。

 行き先は街から少し離れた、山の麓。


 目を開けると、目の前には、白くて長い階段があった。

 上を見上げると、荘厳な石造りの神殿が。

 あまりにも立派で、わたしはポカンと口を開けてしまったのだった。


「エルシュトラ教──魔界の女神を奉る神殿の総本山だ」


「エルシュトラ教……」


「お前たち人間は、確かセフィナタ神を信仰しているんだったな」


 セフィナタとエルシュトラ。

 この二柱の神は、人間界と魔界を生み出した、夫婦神と言われている。

 けれどわたしたち人間は、エルシュトラを決して神として信仰してはいけない。

 なぜならわたしたちは、セフィナタ神を唯一の絶対神として崇めなければならず、エルシュトラは欲望に落ちぶれた女悪魔だと教えられてきたからだ。


「……」


 わたしは神殿を見て、戸惑っていた。

 魔界の人々は、エルシュトラ神を信仰しているのか。

 だったらわたし、なんだかここにいちゃいけないような……。


「神殿の中を見せようと思ったんだが、行きたくないか?」


 魔王さまはわたしを見て、首をかしげた。


「わたし……」


 本来なら敵対する関係にあるはずの宗教の総本山に入るなんて、あまりよくないことなのかもしれない。

 けれど、どうしてだろう。

 わたしはこの場所が、嫌いじゃなかった。


 むしろ、この場の空気は清涼で、とても心地よかった。

 まるであの神殿の中へ呼ばれているみたい。


 わたしは魔王さまに返事もせず、ふらふらと歩き出した。


「こら」


 手を掴まれて、ハッと我にかえる。


「階段は危ない」


 そう言って、魔王さまはわたしを抱っこした。


 ◆


「きれい……」


 神殿の中には、誰もいなかった。

 今日は閉殿の日にあたり、本来なら関係者以外立ち入り禁止なのだという。

 しかし魔王さま特権で特別に祈りの間へ入れてもらったのだ。


 祈りの間は、非常に美しい空間だった。

 天井近くまで嵌め込まれた精緻なステンドグラスから、日の光がこぼれ落ちている。その光を浴びて輝くのは、女神の彫像だった。


 人間界ではセフィナタ神を信仰しているため、エルシュトラは醜く描かれることが多かった。

 しかしここにある女神の彫像は、とても美しくて、崇高なもののように見えた。

 魔界の人々が崇める神とはなんなのだろう。

 わたしたち人間の崇める神とは、何が違うのだろう。

 ふとそんなことを考える。


「珍しいか」


 会衆席に、尊大な態度で腰をかけていた魔王さまが、そう聞いてきた。

 おいおい、いいのか魔王さまよ。

 神様の前なんだぞ。

 態度がでかすぎるんじゃないのよ。


「お前こそ、なぜそんなことをしている?」


「……え?」


 まるでわたしの心を読んだかのように、魔王さまは面倒そうに言った。


「なぜ膝をついているのかと聞いている」


「あっ……」


 ぎょっとして、わたしは慌てて立ち上がった。

 気づかないうちに、つい癖で、膝をついて神に祈る体勢をとろうとしていたのだ。

 十年も祈り続けてきた癖が、染み付いてしまっているのだろう。


「に、人間界では、こうやってみんな祈るから……」


 適当な言い訳をする。

 聖女だってばれたらどうしよう。

 心臓がばくばくしたけれど、結局魔王さまはそれ以上深く追求してはこなかった。

 

「お前たちの世界と魔界とは、どれだけ世界創造の神話が違うのだろうな」


「……魔界には、どんな神話があるの?」


 恐る恐るそう聞くと、魔王さまは目をつぶって、説明してくれた。


 ──いわく。

 その昔、二柱の創生神が、仲良く手を取り合って二つの世界をお創りになった。

 力は弱いが、協力し合うことで絶大な力を生み出す人間の住む『人間界』。

 一人一人が強く、魔力と言われるエネルギーを生まれながらにして持つ魔族の住む『魔界』。


 女神によって創生されたこの魔界は、個々の力を競い合って殺し合いが勃発する、争いの絶えないひどい世界だった。だから力を持たない弱い種族は、人間界に逃げ込むしかなかった。


 けれど人間界では、魔族に対する差別が激しかった。人間は同じ人間同士なら仲良くすることができるが、ひとたび自分たちとは違う種族が現れると、それを脅威として認定し、仲間とは認めなかったのである。

 また、人間は魔力持ちも異質なものとして、決して受け入れなかった。

 

 あるとき、女神は荒れ果てた世界を嘆き、北、南、西、東、合わせて四つの大陸から一人ずつ魔族を選出し、自らの血肉を分け与えた。


 これがいわゆる『魔王』である。


 魔界に住む魔族たちには、自然と創生神を敬う本能が備わっている。

 それゆえ、魔族たちは女神の血とエネルギーを与えられた『魔王』を敬うようになった。そして魔族たちは争い合うのをやめ、それぞれの大陸に君臨する『魔王』に付き従い、尽くすようになったのである。



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