9 初心者迷宮、第2層
日曜日。
今日は朝から昼の間探索、休憩がてらどこかでご飯を食べて迷宮に戻り夕方まで居る予定だ。
とりあえず今日の目標は、【光魔術】の練習と新スキル獲得だ。
残り4個のスキル構成は慎重に考える必要があるだろうが、できれば魔法系で固めたいと思っている。
基礎身体能力が大きく響く近接系のスキルをとる気は無い。
いくつか重ねがけすればマシにはなるだろうが、比較的レベル差の影響が少なく才能と努力が大きい魔力、魔術の方が上を狙えると考えた。
「よしっ、行くか!」
今日は第2層へ行く。
迷宮では下の階層に行けば行くほど敵は強くなり、フィールドの面積は広くなる。
面積が広くなるということは、当然モンスターが増えるということだ。
つまり、深く潜れば潜るほど敵は強く、多くなり、難易度は跳ね上がる。
よって、広い階層では救出作業は困難を極める。
深い階層でなにかあっても、助けは期待できない。
そういう世界に足を踏み入れようとしているんだ。
『初心者迷宮』なら死ぬ事は無いだろうが、探索者活動を続けるならいつか必ず"命の危機"は訪れる。
死なずとも、大怪我をすることもあるかもしれない。
そりゃあ怖いさ。
誰だって怖い。
だけど。
知り合いが目の前で殺され、それをただ震えて見るなんて。そんな事はもう二度とごめんだ、とか。
御伽噺の勇者の様な活躍をする探索者。かっこいい、とか。
あんなふうにできたらどうだろう、とか。
そういう思いが消えないから。
強くなりたい。
憧れる。
楽しそう。
これだけ理由が揃えば十分だろう。
『初心者迷宮』第2層。
一層の数倍の広さを持つと言われるそこは、ただ広い荒野である。
そこかしこに転がる大小様々な岩によって視界はかなり制限され、ただ歩くだけでかなり体力を消耗する。
レベル1の俺にとっては尚更だ。
「いやー……やっぱ戻ろうかなぁ」
持久力はある方だと思ってたのに、予想以上にキツすぎる。
既に息は荒くなっている。
2層におりて5分ほど。
モンスターに遭遇する前からこれでは先行きが不安すぎる。
モンスターに出会っても戦えるかどうか。
この地面で走れば絶対に足首を痛めるし、そもそも走る気力はのこってない。
ついでに言うと、2層で出てくる動物型のモンスターはこの足場の悪さをものともせずに走る為、たとえ体力十分でも逃げられない。
「ガウ……」
迷宮のモンスターは、地球の野生生物がするような、効率化のための不意打ちをしてこないことが多い。
多い、というだけで、してくる種もいるがこの2層に湧くモンスターにそういうタイプのモノはいない。
ガルル、と吠えながらにじり寄ってくるのは2層で最も多い『野犬』。
噛み付き、引っ掻き、体当たりが主な攻撃で、群れを作らず攻撃的な性格…………らしい。
「うわぁー……超怖ぇーーよ……」
Youtuveで見る分にはただのモフモフで、「飛びかかってくる姿もカワイイ」とか言えたけど、冗談じゃねぇ!!
「うわ……怖!マジ怖!」
本気で殺そうとしてくる目。
1層のモンスターは対峙時間がほぼゼロだったから気にならなかったけど、これが殺気ってやつだろう。
「光弾!連射」
毎秒1個くらいの光弾が発射される。
ついでに投石でもできれば上々だけど、魔術を使うには意外と集中力がいるんだ。
飛んだり跳ねたりして光弾を避けながら野犬は徐々に近づいてくる。
10mが5mに。
5mから3mに。
そして、2mをきったあたりで野犬が大きく跳躍した。
大きく口を開けて飛び掛かる野犬を前に、俺は勝利を確信した。
「ありがとう……光矢」
瞬間、三本の光の矢が発生、瞬時に射出され、野犬の上顎から頭を貫いた。
「っしゃ!」
なんの自信もなく2層に飛び込むはずがないだろう。
レベル2の【光魔術】があれば、2層でも気を張ればなんとかなると考えてのことだ。
俺の喉を喰いちぎろうとかかってきた野犬は空に消え、ドロップの牙が────
「……へ?」
頬に一筋の赤い線を刻んで飛んでいった。
「…………」
うへぇ……超怖ぇぇよ……
身体能力向上系は良いとして、絶対に反射速度をあげるスキルだけは取ろう。
もしくは防御系のスキルを。
そう心に誓った。