7 報告
「ただいま」
俺は一人暮らしなので、当然返事はかえってこない。
高校は徒歩圏内、学校から禁止されてる訳でもないし塾漬けでもないからしようと思えばバイトもできる。
迷宮産素材に研究魂に火をつけられて「東京行くわ」と移住していった両親からの仕送りも無駄遣いはしていないからそこそこ金はある。
お前ももう中学生だから割となんとかなるだろとか言って出ていった訳だが、実際割となんとかなっている。
食事は出来合いのものを食べるだけで、洗濯物も一人分なら大した負担でもない。
何が大変かって、掃除だよ……。
数年前まで両親と暮らしてた家に住み続けているから、一人暮らしには広すぎる。
とはいえ広さの恩恵はデカいし、使うなら清潔に保ちたい。
掃除って普段使わない筋肉使ったりするから家中となると割と重労働なんだ。
あ゛ーー。明日日曜日だから大掃除の日か……
【レベル1道】マジふざけんな。
身体能力ぅ……
特に冬場は結露もウザイし。
「家政婦さんでも雇う??…………いや、無いな」
荷物を放り出して、ドサッ、とベッドに倒れ込んだ。
「うーん……一応連絡するか……」
もちろん、親にだ。
ないとは思うが、探索者とか危険だからやめなさい等と言われるかもしれない。
経験則から言うと、こういうのは早めに報告して許可を貰うのが一番いい。
『探索者なった笑』
まずは軽い感じで様子を見よう。
送信すると、ものの数秒で既読がついた。
大方ゲームでもやっててバナーから飛んできたんだろう。
『マ?』
どうやら父のようだ。
『( ´ ▽ ` )ノイェア』
『大丈夫なの?』
遅れること30秒ほどで、既読が2にふえる。
『なんか珍しい素材落ちたらウチに回して』
『お小遣い増やすから』
『いや、珍しい素材なら売ればお小遣いどころじゃない金額になるでしょ』
『そりゃそうか笑笑』
『相場に色つけて払うからヨロシク』
『どうせ経費だもんな』
『笑笑』
『ピンハネしてない?大丈夫?』
『するわけないだろ』
『当たり前でしょ?たとえば取引相手がワガママな息子で「このラットの尻尾は2億以下では売らない」なんて言ってても経費で2億払って後日お寿司奢ってもらったりとかしないんだから』
『タイピング早杉』
『全力の3割よ』
『草』
『それはそうと、ちゃんと学校行ってるの?』
『探索者なるんなら中卒でもワンチャン』
『舐められるからちゃんと卒業しなさい』
『しかしお前が探索者か……( -ω- `)フッ』
『怪我しないようにね』
『気をつけろよ』
『うん』
『ときに息子よそろそろ彼女を作ってはどうか?』
『時期尚早』
『気になる子とかいないのかしら?』
どんどん話が逸れていくが、何とか探索者になる許可はおりた。
なんなら最初の1分で下りてた。
ピコンピコンうるさいので通知をオフにしてスマホを置く。
「疲れたし、寝るか……いや、明日は日曜だし寝坊しても……でも明日も迷宮行きたいしな」
疲れはあるけど、眠気はない。
なら、眠くなるまで宿題でもやっておくか。
「たしか、第7週の宿題…………あれ?やってる」
宿題ノートのNo.7と書かれたページはびっしり埋まり、丸つけもしてある。
チェックはされていないのでNo.7が今週の宿題で間違いない。
「ん?……今日、土曜じゃねぇか!!!」
明日日曜だから今日は土曜日、当たり前。
俺の銅青会のスケジュールは月曜日英語土曜日数学である。
特急にのれば4、50分で着く。
今5時半、授業が始まるのは6時なので完全に遅刻だ。
「……休むか?」
数秒間本気で思案した後、流石に無理なので遅刻で行くことにした。
「ご飯食べたらちょうどテストが終わる頃につくな」
塾はあくまで探索者として大成しなさそうな時の保険。
俺の本命は探索者になることだ。