6 報酬
ゴブリン……だと……
なら先程俺がぶつかった壁はゴブリンだった、と……
そして、手をかけた場所は、高さ的に……
これ以上考えては行けない気がする。
……脳震盪もだいぶ納まってきたので鉄棒で応戦。
顔めがけて振り下ろされた棍棒を避け、後ろ回りの動きで華麗に立ち上がる。
そのまま鉄棒を振るが、棍棒に止められる。
が、今回は周りに敵がいないことを確認しているので、すぐさま鉄棒から手を離す。
つられて前に出てきたゴブリンに、軍手越しの右手で顔を殴りつける。
鉄棒で止めを指すと、ゴブリンは小汚い角をドロップした。
「回復、よし……もう大丈夫そうか」
爪先で地面を二、三度小突いて調子を確認する。
痛みも無視できるレベルまで引き、脳震盪も治まった。
迷宮探索、続けるか!
▽
とりあえず、今使えるもう1つの魔術、〈光弾〉の性能を確かめたい。
いきなり実戦投入するわけにもいかないから、壁に向かって放つ。
具体的には、大きさと速度、できれば威力を測る為だ。
「光弾」
大きさ的には拳大という表現が1番しっくり来るだろうか。
速度はそこまで早くない。
威力の方は分からないが、少なくとも投石位の威力はありそうだ。
というか、それも無ければ存在意義が疑われる。
個人的な意見としては、着弾と同時に小規模の爆発が起こるようだから石より強いと思う。
まずは大きくて動きが遅いゴブリンで試してみよう。
「ゴブ?」
数分後、ようやく見つけたゴブリンに、俺は嬉々として魔術を行使した。
「光弾!!」
ドッチボールよりちょっと早いくらいの速度で飛んだ光の玉は狙いを少しズレて脇腹に着弾する。
痛みと衝撃に武器を取り落としたゴブリンに再度、魔術を放つ。
「光弾!」
今度は顔面に当たり、ゴブリンは後ろに大きくのけぞった。
なるほど。このくらいの威力か。
爆発は肉を抉るほどのものでもないし体の内部まで傷をつけるようなものでもない。
はっきり言って弱い。
今のままでは、だけどな。
魔法が上達すれば弾速や威力、貫通力を調整することもできるようになる。
それに、沢山使ってレベルを上げればもっと強い魔法が……
「……ん?ちょっと待て。【レベル1道】って…………まさか、スキルレベルまで固定しないよな?」
いやいや……流石にない、よな?
あると困る。
「……よし、今日は【光魔術】がレベル2になるまでだな」
その後、魔力回復の為に休憩を入れつつ数時間、迷宮を探索した。
【光魔術】も無事レベル2にあがったし、帰ろうか。
「えーと、ラットの尻尾が17本、毛皮が5枚、肉が3つ。ゴブリンの魔石が26個ですね。6400円になります」
(17+5+3)×100+26×150=6400。
指紋認証センサーに指をかざして今日の戦果6400円を受け取る。
Web通帳を開くと、確かに6400円の入金が確認出来た。
時給にすれば1000円前後なので、そこらのバイトより効率がいいな。
たかが6400円、直接受け取れないものかと思うところだが、『日本探索者協会』は一律キャッシュレスと定めている以上、たとえそれが100円でも50円でも現金では受け取れない。
これが探索者になる条件の1つ、"自分の口座の所持"として地味に響いてくる。
実際高校生くらいなら、自分の口座を持っていないヤツも結構多い。
小中学生になるとほとんどが持っていないのではないだろうか。
「うーん、何食べよ」
そこそこの臨時収入。豪華な夕食に思いを馳せるが、探索者業は儲けもでかいが出費もでかい。
具体的には装備の更新やアイテムの購入等、初心者であればある程頭を悩ますのが資金問題だ。
ビギナー探索者の俺が、金が入ったからと高いモノを食べるのは間違いだろう。
探索者になれましたやったね、とお祝いしたいのは山々だが今日のところはスーパーの惣菜で我慢しよう。
我慢って言っても、結構美味しいから文句はないんだけどさ。
とにかく、そんなこんなで俺の探索者初日は終わったのだった。