5 【光魔術】
「レベル1固定って…………そんなのないだろ…いやいやいやいや……」
ここが自宅ならふざけるな!と喚き散らしてただろうな。
俺はお遊びや健康意識で探索者になったんじゃない!
少なくとも、トップレベルの探索者を目指しているんだ!と。
俺が強い探索者を目指す理由はただ一つ。
生きる為だ。
日々の生活の為、金の為といった意味での『生きる為』じゃない。
そりゃ多少はあるけど、本題はこっち。
未だ忘れることは出来ない『大氾濫』。
日本において、5000万以上の死者を出したその災害はなんとも恐ろしいことに『再発の可能性が高い』のだ。
怖いじゃないか。そんなの。
誰だって死にたくないさ。
だから戦うんだ。
死なない為に自ら死地へ飛び込むんだ。
再び『大氾濫』が起きたとしても。
自分だけは確実に、そしてできることなら家族や友人、恋人と共に生き残る為に。
再発の可能性が高いというのに、多くの人は「自分が生きてる間はきっと大丈夫」だとか「日本人は優秀だからきっとそれまでに対応できる」とか考えている。
それはきっと、現実から目を逸らしているだけだ。
誰かがきっと助けてくれる、なんて不確実すぎて命を賭ける気にならない。
だったら自分が強くなればいい!お金も稼げるし!
「……って、思ってたんだけどなぁ……」
レベル1じゃなぁ……
レベルの差は、ある意味スキルの差よりも大きい。
レベルアップで上昇する体力や魔力等の基礎値はスキルで増幅される。
1の差は10の差に。
10の差は100の差に。
元の差が大きければ大きいほど、そしてレベルを上げれば上げるほどその違いは顕著に現れる。
「……いや、待てよ?6個あれば埋まる差か……?」
確かに大きすぎるデメリット。
しかしその分、スキルが3つ増えるという巨大なアドバンテージがある。
──どっちがデカい??
デメリットとメリット、どっちが勝る??
分からない。
けど……考え方を変えれば、これだけのデメリットを課すスキルの強みに少しくらい期待してしまってもいいのではないだろうか。
少なくとも、ハズレと断定されるまでは。
をこのスキル信じて戦うしかない。
この謎スキルが、吉と出るか凶と出るか……そればっかりは、やってみないと分からないよな。
「よぉっしゃ!続けるぞ!」
まずは【光魔術】の練習からだ!
調子を取り戻した俺は再び獲物を求めて歩き始めた。
「ッッ痛ォヮぅ!!??」
そして、右足を踏み出した途端転倒してしまったとさ。
それはもう、漫画のように大袈裟に、受け身とかも一切取れずに転んだ。
ヘルメットのおかげで頭は無事だが衝撃はモロに伝わり、視界がぐにゃぐにゃする。
……やばい。今ラットやゴブリンが来たら対処できる自信が無い……!
多分死ぬことは無いだろうが、無抵抗で攻撃を受けるのは精神衛生上宜しくない。
うん、取り敢えず気配でも消すか。
ラットもゴブリンも気配という謎エネルギーを感知するほどの手練なはずがないので、音と振動と存在感と視覚情報を誤魔化せば大丈夫だろう。
光魔術レベル1では光学迷彩は使えないが、見えていても意識されなければ良いだけの話。
家中探しても見つからない掃除機のように、風景の1部に溶け込むことで敵の眼を欺いてやる。
俺は地を這うただの蟻です。気にしないでください。
「ゴブ?」
バッチリ目が合った。
「……灯火!」
「ゴブッ!?」
魔術は、不思議なほど自然に使えた。これがスキルの力か。
身体を左に捻り、灯火の眩しさに目が眩んでいるであろうゴブリンから離れるように転がっていく。
傍から見たら巫山戯ているようだけど1番早く距離を取れそうなのがコレだったんだよ……
リュックに入った石で背中が痛い……
10秒ほど転がっていただろうか。
ドン、と、なにかにぶつかった。
くそ、壁際に追い詰められたか……
「回復、回復」
頭と足に、回復を行使する。
よし、痛みが引いてきた。壁を支えに立ち上がって……
と、手をかけた壁から奇妙な柔らかさが伝わってくる。
「ゴブ?」