33 センター
期末。
冬休み。
クリスマスも正月もあっという間にすぎて今日はセンター試験の日だ。
センターは問題が簡単だから9割は取れると思う。
問題はプレッシャーとか緊張感に負けないか、だな。
センター試験で足切りされる事はまず無い。
慶凌はセンター1に対して2次試験の比率が3。
大きくコケても2次で取り返せる可能性は高い。それになんと言っても2次には実技がある。
それでもこれが合否を決める一因となるのは確かだし、良い点を取れれば2次が楽になる。
それが緊張の原因だ。
ちなみに、【透視】や【思考共有】対策として、厳正なテストの会場では高精度の魔力波感知式スキル警報機の設置が義務付けられている。
これは入試会場に限らず、銀行やレジ等お金のやり取りをする場所やテロを警戒すべき飛行機内等にも設置されており、スキル感知器の目を誤魔化すスキル発動は不可能とされているがそれはあくまで感知し警告を放つだけで実際に銀行強盗やハイジャックを抑止する事は出来ない。
つまり、こそ泥や通り魔程度の小悪党に対しては役立つものの、その程度のことならスキルなしでやっても大した手間の差ではなくその存在意義はちょっはよく分からないという事である。
警報機があると言うのに毎年1人は必ずスキル使用疑惑で受験権利を喪失するらしい。馬鹿か。
それはともかく、ここまで緊張する試験はいつぶりだろう。
中学入試はどうせ受かるだろうという気持ちで受け、実際算数2日目の大問1つ大やらかしでまるっと飛んだにも関わらず点数的には余裕で合格。
中高一貫だったため高校入試はなし。
つまり人生がかかってるような重要な、それでいて確実に通ると断言できない様なテストは初めてだ。
緊張さえなければ、センターは9割5部として2次は合格者平均は取れるだろうし、不安な実技も2次までに残り2つスキルを手に入れてよく練れば問題ない……はず。
探索者活動は順調だ。
順調に、少しづつ強い敵を相手にしているが、決して安全圏の外のモノとは戦わない。
モンスターを倒して強くなり少し強めの敵を倒してまた強く。
お決まりで教本通り、安全でどこか退屈な。
刺激がない分達成感が薄い。
あと魔法スキルのドロ率が低すぎてイライラする。
スキルスクロール自体、2、3日に1本程度のペースでしか出ないのに。
それでもまあ、順調と言えば順調だ。
絵に書いた様な理想の道程と言っていいだろう。
語る必要も無いほど完璧で型通りな、しかしその分どこか退屈な日々だった。
格下だけに狙いを定めて危なげなく勝利する。
劇的な強化は望めないが、安全で確実な強化が約束される、一般的な探索だ。
そのおかげで【光魔術】は現在レベル6。意外に強かった【気弾】もレベル4まで上がった。
つい先日獲得した【水魔法】は未だレベル3だが、今月の水道料金は先月の半分を切るだろう。
結構楽しくやってるし、強くなってきてる感じもある。
でも、多分これじゃ間に合わない。
臆病でスタートをおくらせた俺が、慎重に行って間に合うはずがない。
本当はあと1年あったから間に合うと思ってたんだけど。
だから、ここから少し乱暴に行きたい。
できることなら一気に10階層くらい降りたいものだ。
何故ここまで焦っているかと言うと、覚えたつもりになっていた世界史Bが全然記憶にない人名の選択肢ばかりで山も完全に外れたからだ。
誰だよヴィットーリオ・エマヌエーレ2世って。
長い名前は覚えれない。ラブレーの『ガルガンチュアとパンタグリュエルの物語』は読んだら覚えれたから、なんたら2世も会って話せば記憶に定着するかもしれない。
他はいけたのに、世界史の時間だけが虚無だった。3教科型だったらよかったのに。
「ハティーっ!」
「おお、なんや元気そうやん。手応えバッチリか」
「嫌味かコノヤロウ。この悲壮な顔を見ればわかるだろうに……さ、迷宮行くぞ」
「おっしゃ、今日も7層か?」
「いやもう10層ボスくらい行っちゃおうかなと」
「行けてもまだ8やろ。どないしたんや……さてはセンターでコケたから2次で取り返そ思て自暴自棄になっとんな?あかんで、ちゃんと身の丈にあった階層に行かな。迷宮で焦りと油断は禁物や」
この犬、どんどん賢くなってやがる!多分テレビの知識だろうけど、上手いことも言うじゃねぇかこの野郎。
まあ10層は冗談として、とりあえず8だか今日は……いや、明日だな。
今日はもう遅い。
ハティが言ったように、焦りと油断を迷宮に持ち込むのは不味い。
それに、実力的に釣り合っていたとしても、あるいは余裕があっても階層をおりる時は万全の状態で、というのが常識。
いきなりの環境変化や初見の攻撃は、どれだけ備えていても備えすぎということは無い。
今日はもう寝よう。
センターの正確な設定とかはうろ覚えだけど3と5と7があってなんか色々違うみたい




