31 帰宅
後半ハティ視点
「はー、疲れた……ハティ、洗い物洗濯機に入れて洗剤入れて回しといて。ついでにトイレ掃除とお風呂掃除もよろしく」
「そんな器用なことできへんねんけど」
トイレ掃除はともかくお風呂掃除はできるんじゃないだろうか。
風呂用洗剤をちょっと付けて水を出して浴槽の中を転げ回れば……
いやでも排水溝が毛で詰まりそうだな。
結局、おれの1週間の成果は【気弾】だけだった。
ハティは脚の部分にナイフが着いた鎧を【双剣術】で使いこなして俺より強くなってしまった。
というか魔法系スキルが全然出なかった。
ふざけんな!
「できなかったらご飯抜きね」
「いつまで拗ねとんねん……ほら、オレはもうスキルスロットいっぱいでこれ以上飛躍的な強化は望めんけどカズはまだスキルスロット3つも余っとんねんで?あー、これはアレやな、大器晩成型っていうか。未完の大器っていうか。恐ろしいなー、光魔法と気弾だけでオレの成長限界に勝るとも劣らないほどの力を……これには伝説の探索者、シーク・カッタリーヤもビックリやなー、ほんま恐ろしい才能やで」
適当なお世辞を並べてやるとちょっとずつ機嫌が治っていく。
「え?なんて?もっかい言って?」とか「どんな所が凄い?」みたいな具合に何回も何回も言わせられるのはイラッとしたけど。
ようやく立ち直ったカズは学校の新宿行事予定表を見て「期末今週!?」と目を丸くし、今は机に向かって勉強している。
邪魔をする訳にも行かないのでリビングでテレビを眺めているのだが……
この家、娯楽が少ない!
正確には犬用の娯楽が。
スマホゲームもパソコンのゲームもテレビゲームも人間の器用な指があってこそだし、漫画はページがめくれないし今のレベルの身体能力ではちょっとした運動で家を壊してしまう。
オレのベッドは恐ろしく寝心地が良いから寝るのもいいかもしれない。
退屈だろうからと渡されたテレビのリモコンはオレでもボタンを押せるのでチャンネルを変えたり音量を変えたり自由自在に操れるけど、テレビばかり見ていては目が悪くなるらしい。
やっぱりオレが自由に身体を動かせる場所は、迷宮しかないな!
でも期末テストってのは結構大事なものの様で。
今も一心不乱に勉強しているし、テストが終わるまでは迷宮にいく頻度を下げると言われてしまった。
入試まで2ヶ月ちょっとだし今更学校の評価を気にする必要があるとは思えないけどなぁ。
それより実技試験の方を気にした方がいいと思う。
合格ラインがどのくらいかは知らないが、カズはレベル1として見れば身体能力は低くはないし、魔力操作に秀で敵の動きも良く見えており、攻撃と防御のタイミングも上手い。
ただ、スキルを育てる時間はどうしても必要だから早めにスキルを取った方がいい。
新宿では魔法系のがほぼ出なかったのは残念だが……
物欲センサーってやつだろうな。
まあ、無理なら無理で浪人して入ればいいだろうし。
そんなことを考えながらCMを眺めていると、いつの間にか寝てしまっていた。
飼い主は優しかったり厳しかったり、たまにめんどくさいけど基本的にこの家は快適だ。
「おーい、テレビつけたままねんな」
気持ちよく寝ていた所だったので無視して体を丸めると、頭の上でやれやれと肩をすくめるような気配。
そのままテレビと電気を消してゆっくり扉を閉めて出ていった。
前の飼い主のクソババアは臭い香水の匂いをプンプンさせながらやたらとスキンシップを図ってきたりそのくせ散歩も餌もトイレ掃除も忘れっぽいし適当な奴だったのに。
ここが天国か。
いい飼い主には犬的忠誠本能が疼き出す。
世界一の探索者になりたいなら、このオレがサポートしてやるぜ!
「ヘーイ!迷宮行こうや!」
「…あさ5時だよ!?俺何時に寝たと思ってるんだよ…4時半だよ!?」
「行きたいかなと思って」
「寝たい…………」




