3 スキルスクロール
レベルはスキル以上に重要な要素である。
強いスキルを育て上げた所で、レベルが低くその身体能力が一般人並なら──スキルレベル上げはモンスター討伐が主なので低レベル高スキルは有り得ないだろうけど──当然、強いモンスター敵う道理はない。
逆も然りで、身体能力だけで強いモンスターは倒せない。
強いスキルだけでもダメだし、高いレベルだけでも足りない。
皆が憧れる強い探索者とは、高いレベルを保持し強いスキルを使いこなす存在である。
超一流の探索者の戦闘映像など、まさに御伽噺の一幕としか言い様がない。
ただし、どこまでいっても探索者とは現代日本にあるまじき"命を賭けて"モンスターと戦い、金銭を得るという原始的かつ暴力的な職業である。
迷宮産素材による技術革新の恩恵のおかげでかつての惨劇による迷宮への盲目的な恐怖も薄れつつある現在も、憧れの対象にはなっても敬遠されがちな仕事となっている。
そりゃそうだ。
この現代日本で、誰が命懸けの仕事に就きたがる?
まぁ実際、稼げるし憧れから探索者デビューする人も意外と多いんだけど。
とはいえ、世間が思う『探索者像』は実際のところ雑誌のジャンル別探索者ランキングとかに載る様な上位層であり、その域に達するものはほんのひと握りしかいない。
探索者にだって才能が求められる。
戦闘の才能。
戦闘を回避する才能。
スキル運用の才能。
レベルアップの才能。
その他、索敵、支援、指揮、連携、情報収集、迷宮内に自生する薬草の目利きetc.
当たり前だ。
現実にソシャゲのような作りモノの公平性はない。
必要経験値も上昇能力値も、何もかもに個人差があり、それも才能。
そして、これまた常識だが、一般に探索者業とは戦闘に次ぐ戦闘、戦いの連続だ。
モンスターを倒して強くなり、さらなる強さのモンスターに挑む。
そういう職業だ。
だからこそ、探索者が大成するのに必要な才能は、主に戦いに関連する。
才能がない…………例えば、レベルが上がる速度が遅いとか。
そういった人は、大成しない。
それが現実だ。
「……10体えぇぇぇ……」
レベル上がんねぇ!!
倒しても倒しても、レベルアップの感触が訪れない。
もしかして俺って才能ないのか?
「……あと10体倒してもレベルアップしなかったら……一旦、帰るか」
そう呟いて沈んだ心を奮い立たせる。
……と、いうより、終わりが見えない現状にタイムリミットを設定することで何とかやる気を保っているといったところか。
「ギィ」
「ギギィ」
ラットが2匹。
2匹同時には蹴れないので何とか時間差をつけたい所だが……さて、どうしよう。
当たるかは分からないが、取り敢えず石を投げよう。
ラットはすばしっこく、もうすぐそこまで迫っている。
石を取り出す時間を稼ぐため、とりあえず距離を取ろうと後ろを向いて走り出した時。
なんと、曲がり角の向こうからゴブリンが出てきた。
グギャ?とか言いながら。
「おわっ!」
予想外の事態に驚きつつも、足を止めずにゴブリンに向かっていく。
こちらも直ぐに戦闘体勢に入ったゴブリンの棍棒振り下ろし攻撃を鉄棒で受けて足を払う。
そこそこ冷静対処出来ているあたり、俺も少しずつ戦いに慣れてきているということだろう。
「よっしゃ!どっちか止まれ!頼む!」
俺の祈りが通じたのか、倒れ込んだゴブリンが見事にラットを分断した。
こうなってしまえばあとは容易い。
ジャンピング噛みつきに合わせて……
「1匹目!」
からの!
「せいっ!」
立ち上がりかけたゴブリンに投石をお見舞し、次いでやってきた最後のラットに渾身の蹴りを叩き込んだ。
「ふぅ……なんとかなったか…………」
何とかなった。
が、バカか俺は……
先程の教訓をいかさず全力で振り抜いた右足は、ちょっと立ってるのがしんどいくらいの鈍い痛みを発している。
興奮が抜け、徐々に痛みが浸透していく。
全く、自分はこういう時もっと冷静な方だと思っていたけど。
戦闘経験の無さ、油断、見事に苦境(?)を切り抜けた達成感等々……
思わず冷静さを欠いていたようだ。
痛む足に今日はこれで切り上げようか等と考えつつ、トドメを指すため1匹目のラットへ歩みよる。
「……レベルアップは、なし……か」
12体目。
今上がったとしても平均より遅い訳だが……
それでも、これで上がってくれと強く念じながら鉄棒を振り下ろした。
「………………」
が。
レベルアップの感触はまるで無く。
「……ダメかぁ。はァ……今日はもう帰るか」
今までの12体分のドロップだけでは1500円程度にしかならないだろうが。
足元では、ちょうど息絶えたラットが消えていくところだった。
「さてさて、初日最後のドロップは……と」
その時、幸運の女神が俺に微笑んだ。
もちろん比喩だが、そうとしか言い表せない程の感慨深さだったんだ。
ソレを生で見るのは初めてだ。
様々な感情が1度に押し寄せ、しばし、思考が停止する。
視線の先。
300グラム程の肉塊の上に、リレーのバトン程の大きさの巻物が浮いていた。
「スキルスクロール……!!!」




