28 鍛冶屋
「すいませーん。誰かいます?」
「いますー」
「あ、はいー」
魔法使いの俺に武器は要らない。
発動補助体が組み込まれたものなら使うけど……
正直、発動補助ナイフとかならナイフと杖の方が良い。
そういう事で、鍛治屋に用があるのはハティの装備だけ。
本職の前衛が使うような武器も重い鎧も要らないし。
「…………」
「…………」
「あの、いるなら出てきて貰えますかね!?」
「あ、出ていったほうが良かったですか?」
「当たり前だろバカじゃねぇのか…」
思わず敬語に翼が生えて大空を羽ばたいていったがしょうがないと思う。
声量を抑えただけで褒め称えられるべき。
奥から出てきたのは、意外な事に女性だった。
まあこのご時世、性差よりレベル差と所持スキルなんだけど。
「はーい、なにかごようですか〜」
協会でオススメされた店の1つで、武器職人と防具職人の兄弟でがいると聞いていたが、兄弟ではなく兄妹か。
のろのろと歩いてきた彼女は少し困ったように頬をかいて、言った。
「ううーむ。お客さん……こういってはアレですけど、いきなり強い装備を使うというのはですね、おすすめできないと言いますか、やはり実力にあったものをと言いますか、ホラ、うちにあるのはこれでもかなり上級者向けと言いますかですね」
「あの、買うのは俺じゃないです。まあ買うかもまだ決めてないんですけど。今日はとりあえずオーダーメイドした時の値段とかかかる時間とかをきこうと」
オブラートで厳重に封印されていたが、君弱そうだからおすすめ出来ないよ、という事だろう。
レベル1だから見逃して欲しい。
あとハティはいつまで俺の後ろに隠れているんだ。
仕方が無いので俺がハティの後ろに回り込む。
「コイツが……ッ!?障壁ッ!?」
困った様な表情を浮かべていた店員さんが、突然消えた。
そう思える程のスピードで動いた、というのが正しいか。
見えたのは初動のほんの最初だけ。
咄嗟に貼ったシールドは──
「えぇ……」
────突然目の前に現れた彼女の無造作に振った腕に、シャボン玉かってくらい簡単に破られた。
「可愛いッ!何この子可愛いッ!」
「わ、ワン!?キャウ、キャン!キャウゥ……」
1分ほど撫でたり抱き上げられたりされたハティ。
【強筋】も使って全力でもがいたようで、少しぐったりしている。
……この人、すごい強い!?
「あっ、ゴメンなさいね、いきなり」
「全くです」
「それで、この子の装備だっけ?全力で作るわ」
「あの、実力とか身の丈的なナニカにあったものがおすすめなのでは?」
「あー、あれはね、人間とかの場合だから」
「そんなんあるんですか。でも高すぎるのは遠慮します。そもそも今日はですね、まず犬用装備ってどんなものを付ければどんなメリットとデメリットがあるかとかを伺いたかったんですが」
犬用の靴を履かせたら足が地面から離れない変な感触がして歩き方がおかしくなるとかいうし。
本人に聞こうにも本人が鎧や武器を使ったことは無いし、試着しようにも試着するものが無いしでやはり店でちゃんと聞こう、ということになったのだ。
「うーん、そうですね。まず犬を連れて探索される方が少ないのでなんとも言えませんが……この子はどういった戦闘スタイルを?」
「急に仕事モードですね」
「あと、【人語】を取られていない場合はどうしても鎧着用時の違和感ですとか、あとは武器の取り回しですね、そういったものに慣れるのが難しいようで簡単な武器、装甲面積の小さな鎧や布や革でできた軽いものをおすすめしております」
ぐでっとしながらこちらをじっと見つめるハティに、小さく頷いておしゃべり解禁の合図を出す。
協会に勧められた店だから大丈夫だろう、と思うのは楽観的すぎるだろうか?
「あー、おほん。オレは……」
「喋った!?可愛い!喋るワンちゃんだ!可愛い!」
「小百合!なんの騒ぎだ?なに!喋る犬だと!?可愛いな!」
「誰だ!?」
奥から出てきた男が一緒になって、やめれ!と騒ぐハティをもみくちゃにする。
男の方瞬間移動と見紛うほどのスピードで突進してきたし、レベル1の俺は混ざる勇気も引き剥がす勇気もない。
落ち着いた2人にと俺、ハティで話し合った結果、3つのことを決まった。
1、ハティはあげない。
2、ハティを連れて来店した場合強指割引に加えて10%割引価格での商品提供。
3、ハティの装備はとりあえず全身鎧にする事に。
武器防具専門店・春宮を出て、今度はおれの装備を買いに行く。
「すいません、発動補助体と重くない防具系のナニカはありますか?」
「ございますよ、どうぞこちらへ。……わ、ワンちゃん可愛いですね。ふふ」
普通の店員だ……と、目から汗が流れた。




