27 新宿迷宮
「オークね。ただのくそデブだ。ただ脂肪の下はムキムキだから注意」
「ワンッ!」
オークとは大氾濫以前に一時期流行ったと言われるファンタジー物語……
── 一般に、『異世界ファンタジー』とか『異世界転生モノ』と呼ばれ敬遠されているジャンルの小説に、頻繁に登場したまさにそのオーク。
『ゴブリン』は作品によって雑魚代表だったりガチムチで知能の高い強敵だったりとさまざまなゴブリン像が描かれているが、オークは基本的にただ一つ。
二足歩行の豚。
10年以上前、異世界ジャンルの物語が若者を中心に人気を博し、多くの作品が書籍化やコミカライズ、アニメ化やゲーム化などで注目を集めていた。
その多くには魔物が登場し、かつての悲劇の元凶たる迷宮モンスターに酷似したものが多かったそれらの作品は人々のトラウマを刺激し、人気は地に落ちた。
特に現代ダンジョンものなんて、以ての外とばかりに拒絶されている。
今では俺を筆頭に異世界モノや現実世界モノの支持者はおり、その勢力も徐々に盛り返しつつあるが、それこそ大氾濫後まもなくはほとんどの作品が絶版になったりするという暗い歴史があった。
"小説家をめざそう"という小説投稿サイトも恋愛モノ一色に染まったりと、あの時代は本当に悪夢だった。
あまりの物量に恋愛面に堕ちかけた事も多々あった。
今は無双系が人気で、『カッコイイ』系の感想以外に『憎いモンスターをサクサク殺すシーンとか心が穏やかになる』系の感想が掲示板上で一大勢力を誇っている。
……趣味の話はおいといて。
目の前のオークは体長2m半、全身に厚く着いた脂肪とその下の強靭な筋肉は生半可な攻撃は通さず、巨体から繰り出される剛腕の一撃は脅威だ。
ここはまだ1層。
だと言うのに、初心者迷宮の3層くらいには強い敵が出る。
「ワウ!」
「光矢」
つまりは、雑魚だ。
ドロップは豚肉。地球原産の高級豚に匹敵するレベルの美味らしい。
ただ、ホテルの部屋に調理設備はないから勿体ないけど売却。
ハティのパワーもオークをよろめかせるほどになっているし、いくら新宿迷宮でも1層では苦戦しない。な
苦戦はしないけど、2層には行かない。
今の俺+ハティなら新宿迷宮でも3層、もしかすると4層クラスの敵も倒せるかもしれない。
でもそれは2人──1人と1匹──が一緒ならの話。
何かの拍子に分断されるかもしれない。
敵が複数出てくるかもしれない。
イレギュラーエンカウントは知らん。
だから、1つ下に潜る条件を定めた。
『二人共が、今いる層の敵を二体同時に倒せるようになる事』
それが俺ら3層に留まっていた理由。
「次、俺が一人でやってみるよ」
「ワウンッ!」
腹を揺らして走ってくるオークに、初手は安定の発光。
ブモッ!?と情けない声を上げて腕を顔の前にかざすオークに光矢を数本。
怯みながらも振り上げた棍棒にオークの頭上で障壁。
腹はガラ空きだけど、1番脂肪が厚いからまずは足に雷槍。
倒れたオークに攻撃魔法を撃ちつつ、起きようと藻掻く手足を障壁で阻害。
「1歩も動かないで殺れたね」
「なぶり殺しやん可哀想」
ハティは美しくない殴り合いで何とか倒すことが出来た。
ハティはオークと相性が悪いな。
新宿の2層はまだまだ遠いか。




