21 ハティのスキル
「は？」
「おおお、力が漲ってくる……！」
ハティのレベルが上がった？
まだ4体目だし全部手助け有りだぞ？
はや過ぎないか？
さて、一応解説しておくと、迷宮探索にファンタジー小説あるあるの"パーティ登録"はない。
パーティ登録はないけど、経験値分配はある。
トドメは刺さなくても共闘した者なら経験値は入る。
そして、トドメだけを指したとしても経験値は僅かしか入らない。
経験値システムの数値化はされてはいないが、10年間様々な人間が検証した結果である。
「一応聞くけど……今までになにかモンスター倒したことは？」
「あらへんあらへん」
そうだとしたらもの凄い才能の塊だ。
4体未満だぞ？人間と動物ではレベルの上がり方が違うのかもしれないが……
「ちなみに、スキルスロットはあと幾つ？」
「あと2やな」
「マジか。すごいなお前」
凄い！
凄い悔しい！
いずれはペットに喧嘩で負けるようになってしまうのだろうか。
もしくはもう負けているのだろうか。
早くスキルを取らなければ……
いや、ペット用品を買いに行くのが先だな。
そういえば、スキル枠3つを全て戦闘用に使った動物と1つを【人語】に割いた動物はどっちが強いだろうか。
知能上昇の補助効果もかなり強いとは思うけど。
「ハティ、とりあえず今日は帰るぞ。買い物行かないとだし」
「あと一体だけ！この力を試したいんや！頼むわ、いや、お願いします！」
「標準語喋れるのか」
「当たり前や」
「まあ帰り道で何かしら出るだろうし、いいよ。何も出なかったら5分だけ探そうか。5分だけね？5分経ったら帰るよ？」
「おっしゃ！」
【人語】スキル持ちの動物は人間と同じものを食べるけど【人語】じゃ無いからそこは要検証だな。
あとは首輪とトイレ、ベッド、犬用のお皿とか、シャンプー、衛生用品、消臭剤と……
リードとケージは要らないかなぁ。
あと、外で……いや、犬とはいえ人間並みの知能だぞ？外でう〇ことかしないよな？
のハティ心に羞恥心的なナニカは生えているのだろうか……
「お、早速でたな」
「おっしゃ、やったるで！あ、障壁要らへんからな！漢の闘いに水さすんちゃうで？」
意気込んで走っていくハティ。
いや、大丈夫か？正面衝突は多分不味いッ……！
「とぉ！」
「おおっ！」
ぶつかるかと思われたその瞬間！
半歩左に寄り、右前脚でラットを押すようにして横に飛ばした。
「これで……終いやぁ！」
追い掛けて……噛み付いた！
「凄い！凄いぞハティ！」
「ふっ、そないに褒めんなや」
「しかもスキルスクロール落ちてるぞ！凄いぞハティ！」
「このオレ様にかかりゃスキルスクロールの100本200本は当然やろ」
「1本だけどな！確認しようぜ！」
レベルアップによる身体能力上昇とはこんなに変わるものか。
『ラットデカい！無理！』とビビり倒していたハティがレベルがひとつ上がっただけで『これは漢の闘いやァ』だもんなぁ。
いいなぁ。俺もレベルアップしたいなぁ。
【レベル1道】
そのスキルはデメリットも破格、メリットも破格。
ただし長い目で見れば、という言葉がつく。
スタートダッシュは遅い。加速は分からない。最終到達ラインも分からない。
スキルスロットが3つ増えるというが、実質増えるのは2つ。
しかも良い方の効果が現れるまでは、レベルが1なだけの普通の探索者だ。
「【強筋】……筋肉が強くなって体力、筋力、防御力とかが上がる、らしいで」
「肉体強化系のスキルみたいだね。俺は要らないから、取りたかったらとってもいいよ」
「ほな、お言葉に甘えて」
強筋。筋肉が強くなる。
要はムキムキになるのだろうか。
それは……ポメラニアンがムキムキは普通に嫌だな。
「ほら、ほら、使ってみせてよ」
「ん？ええんか？5分で帰るんやないんか？お？」
「いいじゃんちょっとぐらい。早く使ってよ。ゴブリンか何か連れてくるからさ」
「んー、しかしなぁ……5分や言うた訳やからなぁ……ん？どうなんや？ん？」
どうやら新しい力を手に入れ、全能感に酔いしいれているようだ。
ん？お？どうなんや？と呟きながらの顔芸が小憎らしい。
言葉を喋れるから躾はいらないかと思ったがやはり1度力関係を理解させる必要があるな。
……今のうちに。そう、コイツが俺より強くなる前に。
「これ以上言ったら『迷子の犬のお知らせ！犬名：アポロ、体長25cm程度の白いポメラニアン。神戸の初心者迷宮で発見、人語を話します』って書いたビラをヘリでまくよ」
「ヘリなんぞ持っとらへんやろが……まあええ、使うたるわ」
「じゃあ2層行く？野犬ボコしてさ。動画撮っていい？」
「……いや2層はちょっと」
2層はトラウマらしい。
怪我もしてたし、何かあったのだろうか。
後で聞いておこう。
「よっしゃ、ゴブリン見っけ」
「ワウッ！」
