20 相棒
「おお……」
「『おお……』やあらへんで!心配して待っとったオレをほって帰るとはホンマ信じられへんわ!」
職員さんに抱き抱えられた白い犬……ポメラニアン?の愚痴を聞き流して八坂さんに聞く。
「アイツ、誰かの飼い犬じゃなかったんですか?」
「違うって言ってたぜ?野良じゃねぇの?」
「あんな清潔な感じの野良犬いますかね?」
「確かにそうだが……脱走?」
「はっ!このオレが知性の欠けらも無い野良の同じに見えるんか?」
「じゃあ飼い主探して……」
飼い主探して謝礼でももらおう。
そう言いかけると、突然ポメラニアンに態度が変わった。
「失礼なこと言うてほんますいません、嘘吐きました。自分、野良ですわ」
「じゃあ保健所に……」
「なんでや!?飼うてくれる流れちゃうんか!?」
「でも、ペット飼うのって大変そうじゃない?」
「はっ!オレをそこらの低脳ドッグ共と一緒にせんといて欲しいなぁ。人の言葉を操り、知能もアップしたこのオレをなぁ!」
確かに【人語】スキル持ちの動物は知能も人間レベルまで上がるという。
【人語】じゃなくても会話できたら一緒なのだろうか。
「それなら俺じゃなくても引く手あまただろうに」
「はっ!……それはなぁ……はっ!」
「この子、家に来る?って聞いても恩返しするんやでの一点張りでねぇ。よっぽど懐かれたのね」
「は!?おいおい、そんな訳あるかいな!?って自分なにニヤけとんねん!」
はっ!ふん!を繰り返すポメラニアンの態度を見兼ねたのか、職員さんが替わって答えてくれた。
慌てて否定するワンちゃんだが……なるほど。
そこまで言うなら飼ってやるのもアリよりのナシよりのアリかな……
全く、とんだツンデレ犬だぜ。
「嬉しそうだなぁ。でも実際、喋れる動物ってかなりレアだぜ?狙われることも多い。大事にしろよ」
「別に嬉しくないですよ、世話のことを考えると頭が痛いです。ところで、アイツ自身にレベル上げてもらいたいんですけど大丈夫ですかね?」
「ペットの入場規制はないから大丈夫だろ。知っての通り動物連れてるランカーも居るしよ」
「ああ、あれって特別許可とかじゃないんですね」
八坂さんの言葉に頷く職員さん。
「ちゃんと飼い主の言うことを聞くかだけ審査する必要がありますけど、この子なら大丈夫でしょう」
「よし、じゃあ今から行くか!」
「あら、今から帰るところだったのでは?」
「そうですね、ちょっと疲れたから。でも1層歩くだけなら問題ないです」
「そうですか、お気を付けて」
そう言ってペコりと頭を下げる職員さんから犬を受け取る。
いつまでも犬って呼ぶわけにもいかないし、名前付けないとな。
「なー、名前、どんなのがいい?あ、俺は中川和貴。好きに呼んで」
"なかがわかずたか"ってあんまり語呂良くないな。
ちなみに名前の由来は『和をもって貴しとなす』である。
かずきで良かったのに。下が四文字って名前呼びしにくいかんじがするんだよな……
「名前なぁ。カッコイイので、アポロ以外やったら……」
「前の名前アポロだったんだ?じゃあアポロンにしようか」
「アポロ入ってもうてるやないか!」
「じゃあ……え、あ、オス?だよな?喋り方的にも……」
「当たり前やで!こないなイケメンつかまえて何言うとんねん!」
オスか…じゃあ、白いからシロとか?
さすがに安直すぎるか……
「あ、じゃあハティは?」
「ハティ?聞かん名前やなぁ」
今日から自分の名前になる(予定)なのだから当然である。
聞く名前がいいなら田中とか山田にしてやろうか。
「北欧神話に出てくる狼の怪物フェンリルの子供で月を追いかけて月食を起こしたりするんだけど、昨日からずっと待ってたって言うのが忠犬ハチ公っぽかったっていうのが主な理由かな……って、全然狼っぽくないなお前」
「なるほどな……ええやん」
ええんか。
嬉しそうにハティハティと呟くハティを撫でてやる。
昨日とは違う柔らかくサラサラな毛並みが気持ちいい。
体洗ってもらったのか。
迷宮に入って、ハティを地面に下ろす。
「よし、じゃあいこうか!」
「ワゥッ!行くで!」
最初に現れたのはラットだった。
デカすぎやっぱ無理と騒ぐので仕方なく障壁でラットを抑えてやる。
「ふぃー、やっぱ怖いわ」
「大丈夫だって。俺もいるし、無理せずやっていこう」
「了解や……ただ、ゴブリンはカズに任せるわ」
「OK、ほらまたラットだぞ。障壁いる?」
「頼むわ」
ラットが3体連続で出たあと、初めてゴブリンが出た。
「光矢」
石よりも手軽で確実な光魔術で瞬殺。
おお〜、と歓声を上げるハティと一緒にドロップ品を拾いに行く。
100円か200円程度とはいえ、無駄にするのはもったいない。
「ありゃ、まだ生きとるで」
「ホントだ。トドメいっちゃっていいよ」
「ほな頂くで…………ほいっと」
瀕死のゴブリンの首に爪をたて、トドメを指す。
ドロップの魔石を咥えて歩いてくるハティだったが。
ピタ、と足を止めて信じられないようなことを口にした。
「お。レベル上がったわ」




