19 3層
「おはよー」
「もはよう」
「寒くね……最近さぁ……」
上手く行けば、というのもおかしい気がするが、彼等とももう3、4ヶ月しかない。
「なぁ、俺さ……昨日、あ、一昨日か、探索者なったわ」
3、4ヶ月なら、変な風に言われても大丈夫かな。
そう思って、彼等がどんな反応をするか気になって打ち明けた。
「マジで?なんで?」
「金欠?」
「いや、金欠ではなくてね」
友人が探索者になった時の反応。
俺ならまず理由を聞くだろう。
その理由が"勉強がダルいから"とかだったり、実際その人の成績が悪ければ心のどこかで見下してしまうかもしれない。
それでも、探索者として大成すれば尊敬するだろう。
憧れもするかもしれない。
しかし、探索者として燻っているようなら、やはり良くは思わないだろう。
人生半分以上を迷宮のある日本で過ごした俺でも、だ。
突如現れた、需要は高いが危険が多く派手で目立つが知的でない探索者について、大人はどう思っているだろうか。
まぁ、学園にいくなら近いうちに担任に相談することになるだろうが。
「『大氾濫』って覚えてる?」
それは、割と禁句な話。
その言葉に、友人達の表情が凍る。
多くの人が親兄弟、知人友人を無くした『大氾濫』、人口半減の大災厄について語る事はタブー視されることが多い。
2人に1人。
つまり、今生きている人は10年前に家族がいたなら──統計的にだが──少なくとも1人の家族を亡くしていると言える。
「あれは……まぁ、二度と見たくないよねぇ」
「思い出したくもない」
「まーそれはそうだけど。誰かが戦わないとみんな死ぬ。あの時は戦える『誰か』が居なくて……でも今は違う。戦う方法、力を得る方法は分かってる。『誰か』に頼らなくても、自分でいい。世界は守れなくても家族とか友人を守るだけなら自分でいい…………自分がいい」
最も、そんな高尚な考えだけでは俺は探索者になる勇気は湧かなかっただろう。
楽しそうとかカッコイイとか、そういう俗っぽい何かが無いと楽しめないし、怠惰な俺は楽しさがなければ長続きしないだろう。
昨日死にかけた事で引退を決意したかもしれない。
「それにさ、楽しそうじゃん?」
いつものようにおどけてそう言うと、彼等もいつも通りに戻る。
「いや、楽しそうでも俺は恐怖が勝ったぞ」
「おれは体弱めだからゴブ狩りでレベラゲだけしたけど。正直バイトより効率いいよな」
「五分刈り?すんの?」
「ばっか、五分刈りのベースが居るかよ」
「野球のベース?」
「ギターですぅー」
ロン毛軽音野郎が俺よりレベル高かったとは、地味にショック。
「まぁ何だ……死ぬなよ?」
「もち」
出願締切とか諸々を考慮しても、年内くらいまでには自分の才能を見極めたい。
あの後色々調べたが学園が4年制になるという情報はなかった。
嘘をつかれたとは考えにくいから、まだ公表前なのだろうが……
公表して3ヶ月も無いうちに試験?急ぎすぎではないだろうか。
受験生には入試対策もあると言うのに。
「しーるど、しーるど……小さくすればまだいけるか?しーるど……」
授業には全く集中できなかった。
▽
放課後。第3層。
第3層の敵は総じて防御力が高い。
『メタルリザード』『ロックタートル』『シールドクラブ』等々。
ただ……なんというか。
「障壁」
動きを止めて、ナイフを甲羅の隙間に突き入れる。
いくら硬くても、攻撃力が弱い。機動力も大したことは無い。
1枚を破ることはあっても二枚重ねの障壁を破られたことは無い。
既に10体ほど討伐したけれど、安定した戦いだったとおもう。
「キラータイガーに比べると…ねぇ。覚醒しないし」
覚醒前で3層レベルなら覚醒後は4層くらいあったんじゃ無いだろうか。
2日目でそれを倒すとは天才か……
自分の才能が恐ろしい。学園行こう。
学校があったからか、疲れが溜まってきたので今日は早めに上がろうか。
「こんにち……なんで八坂さんまだいるんですか?本拠地は上野でしょう?奥さんと娘さんが待ってますよー」
「まぁそう言うな、全国の若い……17くらいの探索者見て回ってるんだよ。今日は神戸の日」
「昨日もいませんでした?」
「1泊ずつな」
「日本一周旅行ですか?」
「仕事だ仕事……来年度から俺は学園の教官だからな」
「え?……あ、じゃあ魔法担当ですよね?よろしくお願いします。俺も魔法メインなんで」
「は?お前、昨日のあれは……いや、キラータイガーと殴りあってたよな?いや、まぁ……そうか。そうだよな」
言葉にはしなかったが、レベル1で前衛はキツいか、と納得したのだろう。
「まぁ、なんでそんな自信満々かは知らんが……来るなら待ってるぜ」
「もちろ……」
「おうおう!こないなとこにおったんかいな自分!」
若干聞き覚えのある関西弁(?)が耳を打った。




