18 面白い
「学園……ですか?」
「ああ。知ってんだろ?日本唯一の探索者学科を擁する慶凌大学だ」
探索者学科。
迷宮1つを含む広い敷地、最新鋭の施設。
国を代表するような探索者を養成する慶凌の探索者学科は、他学科とのあまりにかけはなれた授業や設備から通称『探索者学園』と呼ばれる。
一学年1クラス30名の超エリートだ。
「行ってみろよって……まだ高二ですが」
もちろん行くつもりだった。
入試は学力試験と実技試験。その学力試験と滑り止め用の勉強を今までしてきたわけだ。
本当は、中3くらいから探索者になっても良かった。
実際なろうとしたが、どうしても足がすくんで、決心までに多大な時間を要してしまった。
だから、学力試験はともかく実技試験は不安だった。
「ああ、知らねぇだろうな。あそこは次年度から下にひとつ学年ができる。浪人すれば別だが高3生を対象とした……」
「マジですか!?」
思わず叫んでしまった。
三年制ではなく四年制になると。
そして、来年からそこに行ける?……まぁ、試験に受かれば。
「……って、もう3ヶ月後じゃないですか!探索者なって3ヶ月であそこの実技受かる気しないんですけど!?」
「2日でキラータイガー倒せるんだからいけるって」
だからなんで知ってるんだ……
ここの支部長と仲がいいのか?
「あれは……いや、でも……あそこの試験、どうせレベルも審査基準でしょう?」
「ああ。もちろんな」
「……そっかぁ」
レベル1じゃあ流石に、なぁ……
そうか、レベルアップしないことのデメリットにはこういうのもあるのか。
レベル1に対する周りの評価。
「どうした、今レベルなんぼだ?2までに何体倒した?」
言っていいのか?
この人に。
俺のレベルは一生1だと。
言いたくないな。こんな事。
誰もレベル1の探索者に期待などしない。
……でも、考えようによればこれはプロの意見を聞くチャンスだ。
──言おう。
「……1、です」
「ん?……すまん、聞いてなかった。何十1だ?」
「ゼロ十1です。1桁の、ただの1です」
その瞬間の『氷漬けの探索者』八坂草太の表情は見ものだった。
驚愕の表情を顔いっぱいに貼り付けて、氷漬けになる。
数秒後、ようやく動き出した。
「マジで?えっと、レベルの話だよな?」
「もちろん。ところで八坂さん。ベテラン探索者のあなたに尋ねたいことがあるんですが」
「お、おう……なんだ」
まさか最初に相談するのが『氷漬けの探索者』とは。
ポカーンとした表情の八坂さんが我に返るまで待って、続ける。
「レベル102で3つのスキルを使う探索者と、レベル1で6つのスキルを使う探索者……どっちが強いですか?」
「……レベル1で……おい、まさか?」
「【レベル1道】。レベルを1に固定する代わりにスキルスロットが3つ増えるスキルです。で、どっちですか?」
別にこの問の答えでこれからのことを決める気は無い。
自分が納得するまでは、探索者を続ける。
それでも、もし……ここでいい返事が帰って来れば、今後の探索者活動において、それはきっと自信になる。
眉を寄せて腕を組み、真剣な表情で考え込む事10数秒。
「……分からん。前代未聞だ。かたや身体能力とスキル、かたやスキルとスキル……組み合わせがより重要にはなるだろうが……どちらが強いとは言えねぇ」
「そうですか」
「ただ……面白いな、それ」
レベル1でも世界とってみろよ、と。
冗談交じりにそう言われた。
▽
「面白い、かぁ……」
弱いとは言われなかった。それは気遣いか、はたまた本心からか。
「学園ねー……」
"学園"は教員、設備共に最高峰の楽園である。
故に、学費がバカ高い。
確か……年1千万とかだったと思う。
学年が上がる事に学費は上がる上、生徒個人からの振込以外は受け付けないという。
ただ、学園生は生徒とは言ってもかなり優秀な若手探索者の集まりなので、探索者としてのその収入から考えると決して不可能な数字ではない。
実際、学費の滞納が理由で退学になる生徒は非常に少ないようだ。
「そのためには、実技だよなぁ……」
試験はもう3ヶ月後に迫っている。
この時期に高2生の受験者を募ってどの程度集まるかは分からないが、出来ることは全てやらないと。
レベル1が評価を大きく落とすことも考慮なければいけないからな。
「障壁、障壁…………」
例えば、魔力操作の練習なら、障壁を使えば歩きながらでも出来る。
流石にこれ以上魔力回復薬代がかさむのは嫌なので、消費魔力には気を使う。
「なんか忘れてる気が………あ!犬!!」
まあ、いいか。
いいのか?
待ってくれてたらしいけど……




