17 氷漬け
なんだろう。集中しすぎていたのか、途中の記憶が無い。
いや、あるにはあるが妙に短く感じられる。
それこそ、1分も経っていないかのように。
動く気力もないので、岩によりかかって勝利を噛み締める。
勝った。生き残った。
ポーションは無くなった。魔力も底を突いている。
本当にギリギリだったが、それでも勝った。
おっしゃぁぁぁぁ!と叫びたい。
が、ここはまだ迷宮な訳で。
叫べば魔物が寄ってくるし体力を消耗する。
まずは帰ろう。喜ぶのはその後だ。
協会の建物に戻るまでが探索だから、気を引き締めて。
「帰ろ……さっさと帰って家で寝たい」
キラータイガーのドロップは毛皮とスキルスクロールだった。
「スキルは……と。会話?聞いた事ないけど、とにかく要らんなぁ……ハズレか」
スキルスクロールを見つけても、1度目の時のように狂喜乱舞はしなかった。
まあ、体力が残っていないというのが主な理由だが。
スクロールに触れないように毛皮を回収し、バックに詰める。
野犬居ないよね?と、恐る恐る岩の向こうを覗き込むと。
「……」
「……!」
犬が居た。
いや、まぁ殺意満々だったりはしない。
全身白いふわふわの毛の塊みたいなやつが、頭を抱えて蹲っている。
ちら、と目が合った。
ビクーンとと震えるほど驚いた様子で慌てて頭を隠す。
数秒すると、またちらっとこちらを見て、慌てて目を背ける。
うん。流石にコレが『野犬』な訳が無いな。
モンスターでも無さそうだしら迷い込んだ地球の在来種だろう。
迷宮に居るのはモンスターだけでは無い。
10年前はそうではなかったが、どこから忍び込んだか、今ではそれぞれの階層の特徴にあった虫や小動物が数多く存在する。
極寒の階層の下で爬虫類が見つかるなど、外から入ったとするには有り得ないモノもいるが、ここは2層。
迷い込んだ犬と見るのが妥当だろう。
見ると、後脚から血を流している。
「はぁあ……仕方ないか……治癒」
魔力が流れ出る感触とともに、頭痛と眠気が襲ってくる。
「はぁ、はぁ……これでよしと。……あ、そうだ」
【会話】
会話ができる
「何だこのクソみたいな……ホレ、お前がとれ。俺は要らんし」
完治した犬をスクロールの上にポイっと投げ捨てる。
そんなスキル、万が一にも取りたくないからな。
「ワウッ……なにすんねんオラァ!」
「おおお。喋った!」
喋る動物。
通常は【人語】というスキルによって人間の言語を習得した動物をさすが、【会話】も似たようなものだろう。
「なー、悪いけどさ、助け呼んできてくれね?もう動けない……し」
あー、力が入らない。眠いぃ……
「起きるまで……守ってくれるでも…可」
「えっ?おーい、大丈夫かいな?」
薄れゆく意識の中、やれやれビックリだぜとか呟きながら、男が近寄ってきた所まで覚えている。
▽
「わっ!?」
まず目に入ってきたのは、知らない天井だった。
あとおっさん。
「おう。起きたか。荷物はあるぜ。お前の命もな」
「そりゃ今確認しましたよ……で、ここは?」
「探索者協会の救護室だ。動物禁止だからワンコは外な」
「あっはい。ところで、あなたはもしかして『氷漬けの探索者』ですか?」
「おう。わかる?」
「トップ50名は年齢星座身長体重生年月日性別趣味本拠地装備レベルスキル所属チーム名とそのメンバー好きな食べ物参加防衛作戦まで言えますよ。あくまで公開されてる情報は、ですが」
「10年で1番人の事怖いと思ったかもしれない……爽やかな笑顔でそんなこと言うのやめて」
「大丈夫、女性探索者には言いませんから」
憧れのトップランカーに引かれると嫌だからな。
男は別にいい。いくら憧れても男は男。
「あ、うん。ところで話は戻るけど……キラータイガーを倒したろ?見てたぜ?」
「見てたって……どっからです?」
「障壁使って空走ってるあたりからか?」
「一番大変だったところですね分かります、というか助けてくれてもよかったじゃないですか!?」
「いや、死ぬ前に助けるつもりだったが……なかなか見所があると思って」
「おかげで回復薬代が……赤字ですよ……」
「そっちか……まあ探索者続ければそんなこともある。それよりお前、今17だろ?『学園』行ってみろよ」
おっさんは、ニヤリと笑ってそんなことを言ったのだった。
なぜ17って知ってるんだ。
そっちの方がよっぽど怖いわ。




