16 キラータイガー⑥ 決着
「ふぅ……」
まずは状況を確認しよう。
敵は覚醒キラータイガー。他のモンスターが寄ってこないのはキラータイガーを恐れているからだろうか。
味方、無し。増援は期待出来ず。
魔力回復薬が3本と回復薬が2本。どちらもそこそこ効果が高くてお高いやつだ。
数cm~数十mの石や岩がゴロゴロしているが、逆に言えば石以外に何も無い。
武器は予備のナイフと石、光魔術。
キラータイガーの首には鞄の紐がかかっており、ナイフが根元まで刺さっている。
顔には石で殴った時の傷跡があり、血も少々出ている。
首の方はナイフが刺さったままだからだろう、出血は無い。
そして、怒っている……?というか、滅茶苦茶本気で殺そうという気迫が感じられる。怖い。
キラータイガーは2回覚醒したので、1回しか覚醒(光魔術レベル3)していない俺の障壁を複数枚まとめて一撃で破る。
防御や敏捷もだいぶ強化されているようで、雷槍もほぼノーダメージな上に、避けられる。
だから、今のところ考えられる作戦は1つ。
動きを止めて死ぬまで殴る……は無理でも、金属製のナイフなら、電気を通す。
そこに雷槍が当たれば痺れるくらいはするだろう。
痺れて倒れたら目から指でも突っ込んで脳みそ掻き出してやろうか。
発光と障壁、雷槍以外は効果が無いとみていいだろう。
キラータイガーが数mの距離を一瞬で移動。大きく開かれた口から除く眩い程の赤が目に入ると同時に、発光。
同時に障壁を小さく展開し、右腕で強く押して回避。
「っし!」
さて────ここからだ。
距離を撮った状態からの突進を含む一連の攻撃は受け止めようが無い。
だから避けた。
でも、ここからなら何とかなるかもしれない。
金槌を振るえば壊れる脆い壁も、金槌を全力で押し付けるだけでは崩れにくい。
加速に伴う運動エネルギーの増加なしには大した威力は出ない。
加えて、ほんの一瞬の間に力を加えることで、力積=運動量変化はある為その『一瞬』にかかる力はとてつもなく大きくなる。
だからこそ、先程2段階覚醒状態のキラータイガーを、数秒とは言え抑え込めた。身体の表面、脚の表面に障壁を張ったから。
攻撃の寸前。
顎や腕が動く前。
速度が乗る前のそれを障壁で抑え込む。
直ぐに破られる。魔力消費もキツい。
それでも、たった1秒かそれ以下でも。
キラータイガーの動きは明らかに阻害されていた。
前足を振り上げる。その前に押さえる。
破られる。
振り下ろされる。その前に押さえる。
破られる。
障壁で時間を稼ぎ、確実に回避。
生半可な攻撃は隙を晒すだけだから、目か首のナイフを狙える時以外は攻撃しない。
腕を避けたら顔が目の前にあるので、ナイフを突き出す。
弾こうと動く左前脚に障壁。
が、頭を振るってナイフの軌道を変えられる。
キラータイガーはそのまま噛み付きに移り、それを障壁を使って避ける。
もう一度、今度は両腕の他に頭を障壁で挟んでナイフを突き出す。
「発光!」
キラータイガーは後ろに飛び、ナイフは空を切る。
助走をつけられると面倒なので、すぐさま追い縋る。
避けて避けられて、たまに避けきれなくて傷を負う。
何とか隙を見つけないと、傷を負うのは俺ばかり。
避ける、避ける、避ける、避ける…………
それをひたすら繰り返す。
そして。
10秒かもしれないし10分かもしれない、そんなあやふやな時間が過ぎて。
「障壁……雷槍」
バリバリッという音が響きわたり、紫電が蛇のようにキラータイガーを襲う。
狙い誤たず、首のナイフに雷槍が当たった。
キラータイガーがビクンと身体を震わせて倒れ込む。
「勝った……!」
その瞬間、勝利が確定したと言っても過言ではなかった。
キラータイガーは死にはしなかったようだが、体が麻痺しているようだ。
「障壁」
最後の魔力を振り絞って、左前脚と頭を固定。
後ろ足で地面を搔くキラータイガーの正面に膝まづいて。
「これで終いだ……雷槍」
右眼に突き立てたナイフに雷を放ち、トドメを指した。




