15 キラータイガー⑤ 覚醒
「いや……マジで、聞いてない!」
キラータイガーは種族特性としての能力を持たない。
つまりは純粋に運が悪かったということだ。
「雷槍……なぜ効かん!」
先程まで少なからずキラータイガーにダメージを与えていた俺の最高火力が、無造作に振るった腕にかき消された。
「肉体強化系の能力か?厄介な!」
「障壁障壁障壁障壁障壁障壁障壁障壁障壁障壁障壁ォオ!……回復!」
魔力消費も魔力回復薬の備蓄も度外視で障壁を張る。
キラータイガーの全面と左右に3枚ずつ、後ろと上には1枚ずつ。
そうして出来たわずかな時間に魔力回復薬を飲み、レベル3の回復魔術をかける。
ついでに回復薬も飲んで、問題なく動ける程度まで回復。
前評判通り腐ったカエルを下水で煮詰めた様な味がした。
もちろん腐ったカエルを下水で煮詰めて食べたことは無い。
若干痺れが残る右腕を振りながら立ち上がると、ちょうどキラータイガーが障壁の拘束から脱した所だった。
「ああもう!」
元から逃げ切れる気は、実際のところあまりしていなかった。
が。
もう、逃げ切れる気は全くしなかった。
アイツが逃げることは無いだろう。
なら、どちらかが死ぬしかない。
俺は死にたくないから、キラータイガーに死んでもらうことにしよう。
「あれだな、最初から戦おうとしたり逃げようとしたり優柔不断だな」
障壁と発光を頑張って使って攻撃を避けて魔法とナイフで攻撃する。
これでいこう。
周りに石以外無さすぎて戦略とか練りようがないし。
キラータイガーが駈けてくる。
俺も走る。
「発光ッ!」
からの。
「障壁!」
障壁は斜めに立てる。
受け流すのが目的だったが、破られた。
それでも突進の威力を打ち消す事には成功した。
勢いを失ったキラータイガーに、念を入れてもう一度。
「発光」
手をキラータイガーの顔面30cmほど手前に掲げて発光を放つ。
「お?……発光、障壁」
なるほど。
手を掲げられた瞬間に目を瞑ったようだ。
学習した、ということなんだろうか。
まあ、それならそれでやりようはある。
パンチを障壁で受けて、再び手を掲げる。
「雷槍」
当然のように命中した。
「グォァ……ッ!」
顔に受ければノーダメージでは居られないらしく、キラータイガーが少しふらつく。
「魔術師だけど体張ってやるぜ!魔術師だけど!」
首にかかったままのバックの紐を掴み、引き寄せる。
障壁を貼ってパンチをいなして、モフモフな背中に飛び乗った。
ここに牙は届かない。
が、前足は届く。
そして当然、前足二本を地面から離してのたうち回られれば、俺は潰れる。
その前に!
ナイフを逆手に持って振り下ろす。
目に突き刺すのは諦めて首に突き立てる。
石を持って釘を打つように何度も何度も振り下ろす。
当然、転がられない様にキラータイガーの周囲を障壁で覆っている。
分厚い毛皮と強靭な筋肉に阻まれていた刃が、少しずつ、少しずつ埋まっていく。
やがて、刃渡り15センチほどのナイフが、その柄を残して見えなくなった。
「雷…………」
追い討ちの魔術を発動させる寸前、全ての障壁が1度に破られた。
「なっ……!」
「ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォァッ!」
ビリビリと空気を震わせるほどの咆哮。
ずぶ濡れの犬が水滴を払う様に身を震わせたのだ、と分かった時。
「ッ!……障壁!!」
俺は空を飛んでいた。
コレ絶対魔術師の戦い方じゃないと思いながら空中で障壁を蹴り、勢いを殺す。
当然、キラータイガーがそれをじっと座って見てくれるはずもなく。
「嘘ぉ……速っ!?」
明らかに"さらに強化された"身体能力で跳躍した。
障壁を生み出してはそれを蹴って移動する。
キラータイガーは1度地面から離れると軌道を容易に変えられない。
それに対して俺は魔力回復薬がある限り、お腹はタプタプになるが空中を走れる。
あっ、もうこのまま逃げちゃおうか?
……いや、階段の入口は高さがない。
それはつまり回避しにくくなるということであり、今のキラータイガーは障壁を何枚1度に破るかわからない以上防御に絶対の自信はない。
それならもっと高くまでいって遠くまで逃げるか助けを求めるかしようとも思ったが1回のジャンプで登れる高さはせいぜい50cmでタイミングも難しそうな上、魔力回復薬の備蓄が心もとないので却下。
……じゃあやっぱり、倒そうか。
俺は障壁を解除し、再び地面に降り立った。




