14 キラータイガー④ 光魔術レベル3
走馬灯のように高速で流れ零れる記憶とは裏腹に、驚く程にゆっくりと流れる視界の真ん中で。
キラータイガーが、牙を剥く。
「ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール」
どんだけ吹き飛ばされたんだか。
キラータイガーは、15mは先にいる。
俺の状態を見てか、先程の慎重さをかなぐり捨てて走ってくる。
実際、もう突進を避けられる状態じゃない。
「フラッシュ!」
それでも、最後にもう1度だけと。
倒れ込むようにして、否、避けようと踏み出した足の力が抜けて崩れ落ちる。
その上を、毛が触れるほどの距離でキラータイガーの前脚が通り過ぎる。
ああ。
間に合ったッ!!
仰向けの視界のなか、素早く切り返したキラータイガーが呆れるほど素早く接近し。
「障壁!!」
光の壁に、阻まれた。
「ハハハハっ!間に合ったッ!」
魔術師が虎とタイマンで殴り合う必要があるか?
いいや、ないね。
そう。
ここから先は、魔術師らしく戦おう。
▽
「障壁!障壁!障壁!」
キラータイガーの突進を光輝く盾が阻む。
苛立ったように2、3度振るわれた腕に1枚目の障壁が破られるが、その頃には既に2枚目のバリアが張られている。
「ははははは、これが魔術師の戦いだ!障壁!」
俺は未だ体に力が入らず寝転がったまま。
なのにキラータイガーの攻撃を完璧に抑えているじゃないか。
漫画やゲームのいわゆる魔法使いや魔術師と同じ様に、魔法系スキル一点特化の探索者は基本前衛に守られながら高火力の一撃を叩き込む後衛職となる。
魔法系スキルは基本、身体能力強化はしてくれないからな。
「雷槍んんんッ!」
レベル1と2は言わばお試し期間。
光魔術の基礎の基礎。
消費魔力も少なく、効果も至って微妙だ。
だが!
レベル3からは威力、効果、消費魔力エトセトラ、 全てが──レベル2と比べると──跳ね上がるっ!
「雷槍!雷槍!、あっやべ、障壁!、発光!光弾、光弾、障壁ォオ!はっはっはっ馬鹿め、何も出来まい」
魔術師とはちょっと脆い移動砲台だ。
車輪が壊れても台座が壊れても、ちゃんと撃てれば問題ない。
「んく、ぷはー。悪いがこのまま逃げさせてもらうぜ」
ストックはまだまだあるので躊躇せずに魔力回復薬を飲む。
全く、三日分ほど多めに持ってきた過去の自分を褒めちぎりたいぜ。
回復薬も飲みたいところだが、一緒に飲むと激マズくなるらしいので飲まない。
「グォォァァッ!」
「フッ、いくら吠えてももう怖くないし」
バーカバーカと煽っているが魔力回復薬が尽きたら本気でっているがさっさと逃げよう。
体痛すぎワロエナイので脚の力だけで尺取虫の様に移動する。
「あ、痛い。ちょっと待って地面痛い。障壁」
喋ってる間にヒールかければいいじゃん、と思うかもしれないが、魔術は案外集中力が要る。
初級をすっ飛ばして"障壁を自分から離れた場所に発現する"というプチ高等技をしながらは無理。
キラータイガーの動作に合わせて、というのも地味にしんどいんだよな。
負けてたまるかァァ、と今日一の気合を入れて足を動かし続けていると。
「え?」
今しがた張ったばかりの障壁が、今度は一撃で破られた。




