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カグラ財閥

 翌日。


「バリーヒルズ高校は由緒正しい中高一貫教育校でして、開校以来幾人もの著名な学者や科学者、経営者、政治家を輩出している名門校です」


 とりあえず、この近辺の高校について情報を集めようとアルファード社に出向いた所、おりよくナガイさんを捕まえる事が出来た。


「特に25世紀以前の生活習慣についての研究には定評がある高校でして、27世紀から提唱されている死生学という学問をおこしたガイスアクト博士もここの出身です」


 個室に通された後、手際のいいことにプリントアウトされた各種資料を手にナガイさんはすでに三十分近く熱弁をふるっている。


「豊富な人脈を醸成するのに、ここ以上に適した高校は、私の知る限りありません」


 話を聞いた限りでは、随分いいとこらしい。

 他の高校のことも聞いてみたかったが、これだけ熱心に勧めているのだから、ヒドイ所ではないだろう。

 ここでいいかもな。

 俺がそう感じ始めた時、個室のドアが壊れるのではと思う勢いで開かれた。


「アッキー大変だよカグラ財閥から回し者がきたマズロー君をバリーヒルズ高校にどんな手を使っても入学させろって、あ……」

「……部屋の扉に、ロックをかけておかなかったのは、痛恨の極みです」


 オートロックの部屋にお通しすべきでしたか、とナガイさんは頭痛を堪えるようにこめかみを抑えた。

その様子から判断するに、突然乱入してきたアツシの証言は真実なのだろう。


 俺は責める眼差しをナガイさんに向ける。


「とりあえず、正直に、バリーヒルズ高校について話して下さい。悪い点も隠さず」

「……承知致しました」


 観念したかのように、ナガイさんは大きくため息をつく。それとなく、アツシを責めるようにちらりと横目で流し見てから、彼は口を開いた。


「美点は、先程述べた通りです。学ぶ環境としてはこの近辺で最高の設備が整っている、と言っていいでしょう。しかし……」

「しかし?」

「バリーヒルズ高校は私立高校なんだけど学費がめちゃくちゃ安いどうしてかと言うとカグラ財閥が出資しているからさ」


 アツシにしては要約したその理由が、先程述べられたメリットを帳消しにしてしまうものだとは、俺には思えないのだが。


「カグラ財閥って、そもそもどういう組織?」

「一言で言うならば、逆らってはいけない存在ですね。カグラ財閥に逆らって、真っ当に生きていける人間は、私の知る限りでは一人も存在しません」

「そんなにスゴイのか、カグラ財閥って?」

「世界の資金の15%を握っていると言えば、どのくらいの財力、発言力があるかおわかりでしょうか? 世界の通信・電力を牛耳る各社はカグラ財閥の子会社です。自動車、鉄鋼、水産、金融、宇宙産業……数え上げればキリがありませんが、世界の各業界のトップ10には、必ずと言っていいほどカグラ財閥関連の会社の名があります。我が社は世界に誇るべき冷凍技術力がありますが、カグラ財閥と事を構える事は、間違っても出来ません」


 なるほど、カグラ財閥に逆らったら最後、様々な方面から圧力がかかり、職を見つける事すらままならず、ホームレスになる図がまざまざと浮かんでくる。


「ですから、あそこに積極的に入学する人材は、基本的に金銭目的です。カグラの人間の目に留まる事で一山当てたいと考える人間か、様々な理由で資金繰りが苦しい人間か、の違いはありますがね。もっとも前者に関しては、今現在バリーヒルズ高校に籍を置いているカグラがアカリ様だけですので、ほとんどいないのが実情ですが」


 そんな財閥のお膝元と言ってもいい学校に、わざわざ入学するだなんて、火中の栗を拾うようなもの。いや、睨まれる危険を冒して栗を拾えれば救いがあるが、あるのがあのクソ女では……なるほど、納得。

「逆らっちゃいけない相手だってのは、わかった」

「だから言ったじゃないか自殺令嬢にかかわるなって! これで探偵業の仕事が一切入ってこなくなったらどうするんだよ君?!」


 アツシの発言に、虚を突かれたようにナガイさんも俺を見やる。


「アカリ様とは、具体的にどのようにお知り合いになられたのですか?」


 そういえば俺、あのクサレ女を平手で叩いたな。

 今にして思えば、随分ヤバイ相手に、相当ヤバイ事をしていたんだな、俺……

 正直に話してくれ、と言った当人がウソをつく訳にもいかない。事実を掻い摘んで、俺はどこぞのビルの屋上と、ラーメン屋で起こった事の成り行きを説明した。

 視線が……痛い。


「なるほど。我が社と私は、御二方のとばっちりを受けた訳ですか」


 いや、確かにそうかもしれないけど……


「しかしアカリ様が相手だった、というのは不幸中の幸いでした。これが他のカグラ家の人間相手だった場合は、アルファード社の歴史はすでに終わっていたでしょう」

「……? なんであのクソ女だと幸いなんだ?」

「コホン。とにかく……こちらで諸々の入学手続きは済ませておきますので、バリーヒルズ高校に、入学して下さいますね、マズロー様」


 青筋を浮かべたナガイさんの極上の笑みを見せられた俺に、追求なんて出来ない。


 俺は黙ってコクコクと頷かざるを得なかった。

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