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奴がおかしいのか、俺がおかしいのか、他の何かがおかしいのか、あるいは何もおかしくないのか

「ラーメンはまだなの? 手が動いていないんだけど」


 相変わらず何を考えているのかわからない無表情で、機械音声のような味気ない声でラーメンを催促する自殺令嬢。


 オマエ、この状況わかってんのか?!


「さて……じゃあさっきの続きや」


 ……! 空気が、変わった。

 頬杖を突き、俺を間に挟んで自殺令嬢を見るガネーシャの眼が、昏く輝いている。


「そこの冷凍冬眠の先駆者さんみたくたまたま来た、って訳やないんやろう。用件は何や?」


 自殺令嬢は出されたお冷に口をつけ、訝しげな面持ちでガネーシャを見据えた。


「ラーメンが食べたかったから。それ以外にラーメン屋に来る目的があるの?」


 …………

 ……俺も、ガネーシャも、固まってしまった。その口調と面持ちから、一切ウソを言っていない、というのがありありとわかったから。


「……そんなにおいしいのか、ここのラーメン?」


 辛うじて、場を繋ぐように紡がれた言葉は自分で言っておいて何だが、疑問に満ちている。


「格別優れている、とは思わない。普通だと思う」

「ナハハハハハハハハッ!」


 ガネーシャは出っ張った腹を抱えて大笑い。

 店主は気分を害したような渋い面持ちで『ラーメンです』とお椀を差し出す。


「じゃあなんでわざわざここ来るんだよ?! もっと……オマエ好みの店もあるんだろう?」


 もっと美味い、だなんて言ったらマフィアの店主に何されるかわかったもんじゃない。


「うるさいのは嫌。ここはうるさくはないもの」


 うるさいって……ああそうか、自殺令嬢って街中どころか、財閥の娘でもあるから、国単位で有名人なのか?


「そんなにうるさいのが嫌なら、自殺しなけりゃええやん。あんさんを有名にしとる原因の一つは、間違いなく自殺やで」


 確かに。ただ単に財閥の娘って言うだけなら、それほど知れ渡る事もないだろうに。

 自殺令嬢は不思議そうに首を傾げて、呟いた。


「でも、あたしが自殺しても、誰も騒いだりはしないわよ」


 …………


「あぁもう、せやからな、ステータスの誇示のために大金かけて何度も自殺しとりゃ、皆『あの人スゴイわねぇ』って騒ぐわ」


 …………


「けどあんさんの場合、寝ても覚めても自殺自殺自殺、自殺のオンパレードや。飛び降りは一瞬で済むからええ。手首切るのも、人によってはええって言うわな。けどな、わざわざ苦しい方法で自殺ってどうよ? 溺死、焼死、服毒死……あんさん、手段選んでへんやん。前の飛び降りかて、アレ、衝撃吸収用の衣類着込んでたんやろ? 普通なら即死できるものをなんでわざわざ」

「おい」


 さっきからガネーシャが何やら言い募っていたようだが、生憎俺の耳には入っていない。

 俺はこのクソ女を真正面から睨み付けた。


「オマエ、騒がれたいためだけに自殺してんのか?」

「だとしたら、何?」


 意識が白くなった。

 気付いた時には、振り上げた平手で目前の女の頬を叩いていた。


「……ふざけるのも、いい加減にしろよ」


 もう、知るか。コイツが目をまん丸にしてようが、店主が息を呑んでいようが、マフィアのボスが興味深そうに俺を眺めていようが知った事か。


 クソ女はぶたれた頬を手で擦りつつ、少し考え込むように間を置き、口を開いた。


「あたし、何かふざけた事、した?」


 コイツは、俺に問いかけても会話として成立しないとでも思っているのか、店主とガネーシャに視線を向けていた。

 その態度に、俺は椅子を蹴り倒し、テーブルに拳を叩き付けた。

 どんぶりに盛られたスープが、俺の怒り同様、限界を越えてテーブルにこぼれ落ちる。

 もう、罵倒の言葉すら出てこない。

 クソ女は何かを考え込むように一度目を閉じ、そして俺を見て、一言。


「……わけわかんない」


 顔色一つ変える事無くラーメンを啜りはじめやがった。

 予想だにしないその反応に対し呆気に取られた俺を、クソ女は怪訝そうな面持ちで眺めた後、俺の手元に箸の先端を向けた。


「ラーメン、食べないの?」


 ……なんなんだ?


 そもそも、俺がこの上なく激怒していた、ということをこのクソ女は理解していないように見える。

 これだけ激怒していたら、普通は謝るか、謝らなくても申し訳なさそうにするか、反論するか、逆ギレするか、嘲笑するか……とにかく、何らかの俺の怒りに対するリアクションがあって然るべきだ。


 なのに、この女は、俺がキレた事などどうでもよいらしい。『ラーメン食べないの?』なんだから。

わけわかんない、というその言葉をそっくりそのまま返したところで、このクソ女のある種の超人的、いや、悪魔的に癇に触るリアクションが、俺の怒りの臨界点を再度超えさせるのは目に見えている。


 故に俺は黙ってラーメンを掻き込みはじめた。

 ガネーシャは、そんな俺達をメタボリックな腹を抱えて笑いを噛み殺していやがる。


「ナハハハッ、カグラのお嬢に平手かます男、か。中々エキセントリックや」


 ガネーシャは腹筋を痛めてしまうほどに笑ったのだろうか、涙目で席を立つ。


「オモロイもん見せてもらった礼として、一つアドバイスや。あんさん、解凍されて間もないから、今の世情に疎いんやろ。なら、どこぞの学校に入学してみたらどや? 人を知るには人の群れん中に混じるのが一番やで」


 人をくった笑みを浮かべ、ガネーシャは席を立つ。


「そこいけば、カグラのお嬢がおかしいのか、あんさんがおかしいのか、はたまた他の何かがおかしいのか、あるいはな~んもおかしくはないのか、わかるかもしれへんで。もっとも、わからんかもしれへんが」


 それを無視して、俺はひたすら味のしないラーメンを掻き込んだ。

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