やたらハイテンションな男
親父達の墓が見たい。
アルファード社を訪問し、俺を出迎えてくれたスーツ姿のナガイさんにそう切り出したのだが、彼は小首を傾げ、ポケットから掌サイズのパソコンのようなものを取り出した。小声で『ハカ、という単語の意味を検索せよ』と呟き……
「申し訳ありませんが、ハカ、とは何でしょう? 今辞書で調べてみたのですが」
難しい顔でそう尋ねてきたのだ。
「墓とはなんだって、って……」そうか、現代では死人が出ないのだから、墓地の必要性がそもそもないのか? だったら死語になっててもおかしくないかもな。「簡単に言うと、死者の埋葬地だ。親父達の遺体、遺骨を埋めている場所って言えばわかるか?」
それを聞いたナガイさんは得心したように頷く。
「わかりました。ですが、私を含めたアルファード社の者は、今日のスケジュールが埋まっていまして……残念ながら、ご案内することが出来ません」
言いつつ、左手に乗せたパソコンに右手で何やら打ち込んでいく。数秒もしない内に、その小型パソコンから一枚の紙切れが出てきた。
「代わりと言ってはなんですが、こちらをご訪問なさってはいかがでしょうか? 今回、マズロー様のご要望を満たすために様々な調査を行ったのですが、マズロー様の血縁者捜索に活用した探偵社の一つでございます」
手渡された紙切れには、その探偵社の地図が載っていた。名前がやたら長ったらしい。
アツシ・イシイ・ライガン・デオランテ・ケングゲドラ探偵事務所。
「胡散臭そうな名前ですが、腕の方は保証いたします」
トップ企業の、見るからに出世街道まっしぐらであろう男が言うのだ。
なら、大丈夫だろう。
「……ただ、戸板に水を流すように、よく喋る男ではありますが」
*
驚くほどエンジン音がしない、ホバークラフトのようなタクシーに乗って例の探偵事務所を訪れた俺だが……車から降りた俺は、ここが本当にナガイさんが勧めた探偵事務所なのかを疑った。
第一に、みすぼらしい。
周りが最低でも五十m以上はあるビル郡に囲まれているのに、その長ったらしい名前を刻んだ木製の看板が掲げられた木造の建物は丸太小屋……いや、物置小屋にしか見えない。
第二に、ナガイさんの話では、アツシさんはやり手の探偵のように聞こえたのだが、そうは全く思えない。
そう思う理由は……眼前の建造物がボロ小屋だからか、外にいても、小屋の中から雄叫びというか、嬌声が聞こえてくるからだ。
「ーはっはっはっは! いけいけ! ライガンなんてぶっ飛ばせ! はっはっはっは!」
テレビでも見ているのか、足をバタバタさせ、腹を抱えて笑っているのが目に浮かぶような大きな笑い声が、絶え間なく聞こえてくる……大丈夫か?
第三に、周囲の視線だ。
このボロ小屋の前で足を止めていると、視線が痛いのだ。ヒソヒソ声も若干ではあるが聞こえてくる。しかし、内容まで聞き取れないのが非常に悩ましい。
一旦アルファード社に戻って、ナガイさんに再度相談した方がいいのでは?
……俺はポケットから一枚の硬貨を取り出し、宙に向かって指で弾いた。
表が出たらこのまま入る。裏が出たら戻る。
そう決意し、落ちてくるコインをつかみとり、右手を……
「もう来てたんだようこそアツシイシイライガンデオランテケングゲドラ探偵事務所へ!」
ボロ小屋から、よれよれのシャツに、早くクリーニングに出して下さいと声高に主張しているグレーのズボンを履いた小柄な男が、馴れ馴れしく早足で歩み寄ってきて俺の肩を力強く叩いた。
彼が、アツシさん、だろうか?
違うと思いたいが……
「さぁさぁ中ではジパンの特撮映画金字塔ドジーラの上映をしているんだ君も一緒にめくるめくドジーラの世界へ共にダイブしようじゃないかさぁレッツゴー!」
一切のブレス無しで言い切ると、俺の手をつかんでボロ小屋に引きずり込もうとする。
「あぁところで君の名前をまだ聞いていなかったぼくの名前はアツシイシイライガンデオランテケングゲドラってそれはぼくの名前じゃなくて事務所の名前だっていう突込みが欲しいんだよ突込みがそもそもこれドジーラの怪獣の名前羅列しただけじゃん!」
胸元に水平チョップを決められながら、そんなのはどうでもいいと思いつつ、俺は右手の中に握られたコインを見た。
裏……まずったな、これは。
冷凍冬眠から覚めたばかりの俺は、この無駄にパワフルなお喋り男に抵抗できるはずもなく、ズルズルとボロ小屋の中に連れ込まれた。