ヤマノリョウタの復讐 その0
僕は、ゴクリと唾を無意識に飲み込んだ。
『これを引けば、君はもう元には戻れない。それでも、引くかい?』
目の前のガチャガチャから、声が聞こえて来た。
中には真っ黒なカプセルがいくつも入っている。
その中にある物。それが、僕を助けてくれる⋯⋯⋯はず。
「⋯⋯⋯当たり前だ。引くに決まってるだろ!!」
怒りを込めて、僕はそう叫んだ。
当たり前だ⋯⋯⋯この機会を逃したら、僕は何処にこの怒りをぶつければいいんだよ!?
『宜しい。ならばガチャガチャを引きたまえ。君の怒りはエネルギーに変わり、そして君にふさわしい力へと変貌を遂げるだろう⋯⋯⋯』
僕は迷わずガチャガチャのレバーに手を掛けた。
そして、力一杯にレバーを引く。
『復讐ガチャ⋯⋯⋯開始』
そんな声が聞こえて来た。
カランカラン、と乾いた音と共にカプセルが目の前に現れる。
僕はそれを手に取った。
『開けたまえ。力は自ずと伝わるだろう』
禍々しい気配を感じるカプセルを、両手でつかむ。
カプセルは相当強くロックされているようで、力入れて引いてもビクともしない。
「開かない⋯⋯⋯」
『愚かなことをするな。君の力の根源は何だ? そのカプセルは、君のどんな力に触発されて現れたのだ?』
僕の胸の中で、底無しの怒りと憎しみが蘇る。
憎い⋯⋯殺したい⋯⋯!! 絶対に!!
『ガチャ、解放!!』
カプセルが割れた。
僕の怒りに呼応するようにカプセルが割れ、中から黒いタールのようなものが現れる。
『それを飲み込むのだ。大丈夫、体に害はない。味は最悪だがな⋯⋯⋯』
僕はそれを軽く口に含む。
この世の不快な物を全て凝縮したような味と風味だ! マズイ!
匂いを嗅いだだけで吐きそうだ!!
『死ぬ気で飲み込め!! 君の憎しみは上等だ、それを飲めば恐ろしい力が必ず手に入る⋯⋯⋯』
アイツらに⋯⋯⋯マユを地獄に落としたアイツらに復讐するために⋯⋯⋯!!!
僕は一思いに黒い液体を飲み込んだ。
「ウッ⋯⋯⋯⋯グウッ⋯⋯⋯!!」
胃袋の胃液が沸騰するような、そんな強烈な熱が腹を走り抜ける。
耐えがたい苦痛、だが不思議と痛みそのものに順応するような感覚がある。
『喜べ、君の体はガチャの能力を受け入れやすい体質だ。これはもしかしたら、『生きて帰れる』かもしれないぞ?』
生きて帰る? 僕にそんなつもりはない。
「冗談はよせよ⋯⋯⋯僕はこのガチャに身を委ねると決めた瞬間から、死を覚悟してるんだよ!!」
『まあいい。それはいずれ分かることだ⋯⋯⋯』
視力が急激に良くなってきた。
掛けていた眼鏡を僕は地面に投げ捨てる。
腕力が増していくのが伝わる。
脚力も、聴力も、嗅覚も、全てが急激に飛躍していく。
『実に使いやすい、かつ強力な能力を引き当てたな。その名も『進化』だ。』
「れ、レボ⋯⋯⋯?」
『君はもう人間とは一線を画する新たな力を手に入れたのだ、それが『一時的な物』になるか、『生涯の財産』になるかは、復讐時間が終わってから分かることだが⋯⋯⋯』
耐えがたい苦痛は消えていた。
後に残されたのは、異常なほどの全能感。
そして⋯⋯⋯憎しみ。
『ヤマノリョウタ、十六歳。復讐ガチャとの契約完了だ。存分に暴れてこい』
言われなくてもやってやる。
幼馴染、天野マユの人生を壊した悪魔達に復讐するために。
僕は復讐ガチャに、魂を売った。