095_失地奪還戦
中央の戦いは拮抗している。
右翼も一進一退で援軍があれば戦況を動かすだろう。
左翼はやや不利な状態で援軍がほしいところだ。
これらを考えれば、機甲科魔術部隊は左翼の援軍に向かってもらうほうがいいだろう。
「左翼へ向かってもらいますか?」
ジャミス・ハイマンがボリス・フェフナーに確認すると、腕を組んで考えていたボリス・フェフナーが唸った。
「それが上策……か?」
どの戦場に機甲科魔術部隊を投入しても戦況は変わるだろう。だが、どこに投入するのが最も効果的なのか、思案のしどころだ。
ボリス・フェフナーは長年懐刀として働いてくれたジャミス・ハイマンを見た。そして決めた。
「うむ、そうだな。左翼の援軍に回ってもらおう」
「では、そのように伝令をだします」
ボリス・フェフナーは頷いて自分の判断を肯定する。
アレクが率いる機甲科魔術部隊とフリオのバトルホース隊は、山岳地帯を迂回してアルガス州へ急行した。
歩兵の多いデーゼマン師団は、山岳地帯を越えるように指示し、足のある機甲科魔術部隊は大回りになっても平地を通って進軍したのだ。
山岳地帯を通るほうがかなり近道なのだが、アースリザードの速度を考えたら平地を休まず進んだほうが速いとアレクたちは考えたのだ。
それに、今回は味方軍に合流するため、補給の心配は不要なことから荷物もかなり少なく抑えることができ、アースリザードたちにかかる負担も少なくなっている。
アレクの元に第三軍団からの伝令が合流する。
「機甲科魔術部隊にはこのまま進み、味方左翼の援軍をとのことです」
「了解したとフェフナー閣下に伝えてください」
「はっ!」
伝令が騎馬を飛ばして第三軍の本陣へと向かう。
「機甲科魔術部隊はこのまま左翼の援軍に向かう。魔術筒へ弾込めーっ」
アレクの命令で魔術弾が魔術筒に込められる。
「フリオ」
「はい!」
「魔術筒の一斉掃射の後、バトルホース隊は一気に敵の指揮官を狙ってほしい」
「了解!」
フリオが槍をひと振りして気合を入れる。
アレクたちは左翼の援軍に向かうが、ここでその左翼が陣を崩されるという思ってもいない事態が発生する。
アレクたちは瓦解寸前の左翼に向かって機甲科魔術部隊を進める。
その頃、山岳地帯を越えているデーゼマン師団は、意外な敵と遭遇してしまった。
「あはははは! こんなとこで出遭うとは、嬉しいねぇ! バージス准将、あれはうちらが受け持つから、あんたは先に進みな」
「さ、されど」
「構やぁしないよ。あんたにはやるべきことがあるんだ、お行き」
「承知しました。デーゼマン夫人、ご武運を」
現在、デーゼマン家の軍を率いているのはリーリアである。副官に定番のダンテ・ボールニクスを従えて、傭兵仲間と獣人兵で組織した軍を指揮している。
そのリーリアはデーゼマン師団を指揮しているマイラス・バージス准将に先へ進めと背中を押すが、マイラス・バージスが躊躇したのは出遭ってしまった敵が強力だからである。
そのマイラス・バージスはアレクから任されたデーゼマン師団を迂回させる。
デーゼマン師団が迂回路を進むのを見て、リーリアは槍を担いで仲間たちに振り返った。
「あんたたち。ここであれを殺っておかないと、後ろを突かれるよ。気合を入れてぶちのめしな」
「おおおおおおおおっ!」
あれというのはドラゴンである。この山岳地帯にはドラゴンはいないと思われていたが、なぜか4体もドラゴンがいてその巨体で行く手を阻んでいるのだ。
ここで迂回することも考えたが、行軍はすぐには終わらないのでその間に襲われても敵わない。
マイラス・バージスはどうするか悩んだが、そこで手を上げたのがリーリアである。悩むくらいなら攻めろというリーリアが、4体のドラゴンを受け持つからデーゼマン師団は先に進めと言ってマイラス・バージスを無理やり丸め込んだのだ。
リーリアとしては行き掛けの駄賃ていどにしか考えていないのである。
「弓隊、前へ!」
リーリアの命令で獣人たちがきびきびと動いて弓を構える。
「よーっく、狙いなっ。撃てーっ!」
200人ほどの弓隊から矢が放たれる。
「次だよ、魔術筒部隊、前に!」
50人ほどの魔術筒部隊が前に出る。
「撃てーーっ!」
魔法陣が展開されて、魔術が放たれる。
「ダンテ、弓隊と魔術筒部隊を任せたよ」
「承知しました」
遠距離攻撃をする兵士はダンテ・ボールニクスに任せ、リーリアはニヤリと笑って仲間たちを見た。
「野郎ども、いくよっ!」
「おうよ!」
獣人種虎族のガンズがその巨体に似つかわしい金棒を地面に打ちつける。
「やりますぜ!」
傭兵仲間で小柄だが双剣の腕はかなりのものがあるボルが剣を抜く。
「姐さん、いつでもいけますぜ!」
同じく傭兵仲間で巨体のスキンヘッドのゼグドが巨大な斧を握り絞める。
矢と魔術が着弾し、ドラゴンたちが咆哮をあげる。
「野郎ども、突撃だ!」
リーリアが槍を掲げて真っ先に飛び出す。
それにつられて、仲間たちも走り出す。
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