094_失地奪還戦
ボロス城の攻防戦を終えたアレクたちは、ボロス城内の大広間に集まった。
「デーゼマン将軍、助かった! 礼を言うぞ!」
ボロス城の守将であるジークフリート・ローゼン中将に両手をとって感謝される。
「ローゼン閣下がご無事で何よりです」
ジークフリート・ローゼンは何度も頷き、アレクに感謝を伝えると集まった貴族たちにも感謝の言葉を伝えて回った。
ジークフリート・ローゼンは九等勲民家の当主である。
軍の中では中将にまで昇進はしているものの、それは過去の栄光。今回の帝国軍との戦いに目途が立ったら軍を退役することになるだろう。
軍を退役すれば息子に家を譲ってただの隠居の下級貴族でしかない。だから貴族たちとの顔つなぎは大事である。
今回、ヘルネス砦と南東部の帝国軍を駆逐したことで、シュテイン州はほぼ奪還できたと言ってもいい。帝国軍が各町や城に多少残っていると思うが、それは大した戦力ではない。
「この先は、私はシュテイン州の各町を開放して回る。デーゼマン将軍はアルガス州で戦っている味方の援軍に向かってほしい」
ジークフリート・ローゼンがアレクにそう提案すると、ロベルト・アーシア・アムントが手を上げて発言を求める。
「我ら貴族軍はシュテイン州の各町の開放に回していただきたい」
アムント家には帝国軍に領地を奪われた多くの貴族たちが身を寄せている。他の貴族家にも縁故を頼って領地を失った貴族が身を寄せている。
領地を奪われた貴族たちは自領を取り戻すためにこの戦いに参戦している。それらの貴族を保護している貴族たちにしても先ずは彼らの領地を取り戻すのが優先事項である。
「承知した。我が軍から1万をデーゼマン将軍に預ける。デーゼマン将軍、頼んだぞ」
「ご期待に添えますよう、努力いたします」
アレクは敬礼してジークフリート・ローゼンに答えた。
翌日、ローゼン軍1万を編入したアレク率いるデーゼマン師団2万5000と機甲化魔術部隊、そしてデーゼマン家の軍はアルガス州へ向かった。
▽▽▽
アルガス州はボリス・フェフナー大将が帝国軍と戦っていて、その戦いは一進一退の攻防を繰り広げていた。
「左翼の動きが悪いようですが、援軍を送りますか?」
王国第三軍団、通称フェフナー軍の参謀長を務めるジャミス・ハイマン少将だ。
ジャミス・ハイマンは62歳のシワの多い顔をしている老将で、長きに渡ってボリス・フェフナーの参謀として彼を補佐している人物である。
妖精種風族であり100歳を超えているにも関わらず若々しい容姿をしているボリス・フェフナーとは真逆の容姿であるジャミス・ハイマンは、この帝国軍との戦いが終わったら勇退することが決まっている。
だから、ボリス・フェフナーはなんとしても帝国との戦いに勝利し、ジャミス・ハイマンの勇退に花を添えてやりたいと考えている。それほど2人の信頼関係は強い。
「いや、今、予備兵を動かせば、帝国が勢いづく」
「それもそうですな」
「左翼には何としても守り切れと、伝令を出すように」
「承知しました」
ボリス・フェフナーが指示を終えて地図上の駒を見る。そこには王国軍だけではなく、帝国軍の駒も細かく置かれていた。
「右翼が敵の左翼を突破できれば……」
中央は今すぐどうこうできる状況ではなく拮抗しているため、右翼が敵の左翼を突破してくれると戦局はかなり楽になる。
だが、右翼の攻撃も決め手を欠いているのが現状であり、すぐに戦局が動くとも思えない。
「本国からの援軍も期待できぬし、しばらくは我慢ですな」
本国が援軍を用意しているのは聞いているが、遠方からの移動になるためどうしても時間がかかる。
しかも、他の州の貴族は帝国との戦いを他人事のように思っていて、貴族たちの動きが悪すぎる。今までぬるま湯に浸かっていた貴族たちに危機意識が足りないのだ。
それでも軍務大臣を始めとした軍幹部たちが前線に戦力を送るように苦心していることを知っているだけボリス・フェフナーとジャミス・ハイマンは希望を持てるのだが。
「報告いたします!」
伝令が本陣に駆けこんできた。
「何事か!?」
ジャミス・ハイマンは伝令に報告を促す。
「後方に土煙が見えます」
「敵か!?」
「分かりません。しかし、かなりの速度で近づいてきています」
ボリス・フェフナーが立ち上がると、ジャミス・ハイマンへ指示を出す。
「足の速い斥候を出せ。予備兵を後方へ向ける準備もだ」
「承知しました」
その指示とほぼ同時にまた伝令が駆け込んできた。
「申し上げます。後方の土煙は機甲科魔術部隊です! デーゼマン将軍の機甲科魔術部隊です!」
「間違いないのか!?」
「間違いありません! 王国軍旗を掲げております!」
「よし! ジャミス、戦局が動くぞ!」
ボリス・フェフナーが膝を叩いて歓喜した。
「はっ!」
ジャミス・ハイマンも机上の地図に配置した駒を見つめ、ニヤリと笑う。
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