093_失地奪還戦
アレクはボロス城の東門を攻めていた軍の本隊を落とし穴に落とした。
ヘルネス砦は、そこにあると兵を配置しなければならなかったため、兵力の分散を避けるために思い切って更地にした。その時に発動させた魔術に比べれば、今回は落とし穴だけなのでかなり魔力消費を抑えることができた。
アレクの視界の端では、フリオに率いられたデーゼマン家最強のバトルホース隊が帝国軍の最前線へ猛進していく。その後ろには、デーゼマン領へやってきてからフリオやフォレストに鍛えられた機甲科魔術部隊も続く。
東門を攻めていた部隊のおよそ半数を落とし穴に落としているので残った敵は決して多くないし、帝国軍はかなり混乱している。
「准将、残敵の掃討を」
デーゼマン師団の副師団長であるマイラス・バージスが、アレクの命令を受けて馬を前に進める。
「これより帝国軍を掃討する! 我に続け!」
マイラス・バージスが1万2000の兵を率いて帝国軍へ向かっていく。
それと同時にロベルト・アーシア・アムント率いる貴族軍も帝国軍へ向けて進軍した。
アレクの元に残ったのは、デーゼマン師団の兵3000と、デーゼマン家の兵が500ほどである。
デーゼマン家が抱えるアースリザード隊は、機甲科魔術部隊に編入させたため、デーゼマン家の兵はそれほど多くない。
そのデーゼマン家の兵を率いるのは、家臣筆頭のダンテ・ボールニクスである。フォレストは領地に残って防衛の指揮を担っているためいない。そして、リーリアは200ほどの傭兵仲間を率いて貴族軍に参加している。今頃は帝国兵相手に死を振りまいていることだろう。
しばらくすると、帝国軍の援軍がきたと報告があったが、援軍とたまたま鉢合わせになったフリオが帝国軍の将軍の首を取ったことで、援軍は崩壊した。
「ホッパー大佐、ダンテ。本隊を進める」
アレクは幼い頃から知っているダンテ・ボールニクスのことをダンテさんと呼んでいた。しかし、今やデーゼマン家の当主となったアレクにダンテは呼び捨てにするようにと言った。他の家臣たちも同様に呼び捨てにというので、アレクも慣れないが呼び捨てにすることになった。
「了解しました」
「承知」
アレクはアースリザードに乗り、そのアレクが乗るアースリザードの操者は当然ラクリスである。ラクリスならどんな状況でもアレクを守ってくれるという信頼がある。
アレクのアースリザードの横には、ロアとマリアが乗るアースリザードもいる。マリアはいつも眠たそうにしているが、戦場でも変わりなく不謹慎に見える。
だが、マリアのその態度に文句を言うデーゼマンの兵はいない。マリアの態度と裏腹に切れ者だと知っているからだ。
しかし、デーゼマン師団の中には、マリアをよく思っていない兵士もいる。とは言っても、マリアはまったくそういうことを気にしない。
そんなマリアはデーゼマン家の頭脳であり、対帝国戦においてはいつでもアレクのそばにいる。
ボロス城の東門を攻めていた帝国軍を掃討したマイラス・バージス率いるデーゼマン師団とロベルト・アーシア・アムント率いる貴族軍は、アレクの命令を受けてボロス城の南に布陣する帝国軍を攻めるために軍を進めた。
その頃、アレクと連絡を取ったボロス城にこもるジークフリート・ローゼンは、部隊の再編を終えて西門の敵に戦力を集中させていた。
「東門の帝国軍はすでに駆逐した。アレクサンダー・デーゼマン率いるデーゼマン師団は南に布陣する帝国軍を討つために軍を進めている。我らは西門を攻める帝国軍を駆逐するぞ!」
兵たちから歓声があがる。兵士たちの士気はこれ以上ないほどに高い。
ジークフリート・ローゼンは西門を攻めていた敵兵を、東門から連れてきた魔術士と魔術筒部隊による一斉掃射によって大打撃を与えた。
西門を攻めていた帝国軍には魔術士がほとんどいないため、防御魔術が展開されてもわずかで圧倒的な攻撃魔術を防ぐことなどできなかった。
「敵がひるんだぞ! 打って出るぞ!」
西門が開門されると、ジークフリート・ローゼンが先頭に立って出陣していく。
その間もジークフリート・ローゼンたちを援護するように攻撃魔術が雨のように帝国軍に降り注ぐ。
一気に形勢が逆転した西門は、ジークフリート・ローゼン率いる部隊によって帝国軍は駆逐されることになる。
その少し前の話だが、フリオが率いるバトルホース小隊と機甲科魔術部隊は、帝国軍の本陣に突撃していた。
たかが数百で1万の帝国軍本陣に突撃するのは、本来であれば自殺行為だろう。しかし、フリオに率いられたバトルホース小隊と機甲科魔術部隊は圧倒的な破壊力をもって本陣の最奥に陣取っているバルタザール・フォン・フォルスターに迫った。
「進め、止まるな、前だけを向け!」
フリオの槍はアレクが造ったマーロ合金製の槍である。その槍で帝国兵を数十数百と屠ってきたが、その鋭さに一片の曇りもない。
だが、フリオの槍はバルタザール・フォン・フォルスターに届くことはなかった。
なんと、バルタザール・フォン・フォルスターはフリオよりも先に、リーリアの槍によってその心の臓を貫かれてしまったのだ。
「母さんっ!?」
まさか自分の母親であるリーリアに先を越されるとは思ってもいなかったフリオは戦場にも関わらず立ち止まってしまった。
「フリオ、気を抜くんじゃないよ!」
リーリアがフリオを窘めなければ、駆け寄ってきた帝国兵に攻撃されて怪我をしていたかもしれない。
「なんで母さんがここにいるのさ!?」
リーリアが率いるのは元傭兵の昔馴染みばかりで、全員歩兵である。それなのに、バトルホース小隊と機甲科魔術部隊を追い越して敵本陣の最奥にいる。フリオには理解できなかった。
「戦ってのはね、手柄を立てた者勝ちなのさ。あんたのようにがむしゃらに突っ込めばいいってわけじゃないんだよ」
ごもっともな話ではあるが、フリオの問の答えにはなっていない。
「フリオは強いが、要領が悪い。もっと戦場全体の空気を読め」
リーリアは槍を振って帝国兵を薙ぎ払うと、フリオにご高説をのたまう。
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