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アレクサンダー英雄戦記 ~最強の土魔術士~  作者: 大野半兵衛
十二章

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090_失地奪還戦

 


 シュテイン州の南東部の拠点であるボロス城は、明け方から帝国軍の猛攻を受けていた。

 帝国軍の魔術士による苛烈な魔術攻撃によって、防壁の防御魔術が容赦なく削られていく。

 ボロス城には王国軍およそ1万5000が立てこもっているが、それに対して帝国軍は6万近い数だ。


 このボロス城の将兵を率いるジークフリート・ローゼン中将は、デーゼマン師団からヘルネス砦に入った戦力が、地下道を通って移動している可能性があると警告を受けていた。

 そのため、対峙している帝国軍1万5000が一気に増える可能性があると考え、休戦協定が失効する日を野外ではなく城で迎えた。

 そのことが功を奏して、敵の増援4万5000の奇襲を受けることなく済んだのである。


「アレクサンダー・デーゼマンがやってくる! 2日だ、2日持たせればいいんだ! 気合入れろ!」


 ジークフリート・ローゼンは防御を固め、魔術士を防御魔術に専念させる。また、魔術士たちの魔力が尽きないようマナポーションを惜しげもなく使う。

 マナポーションは各王国軍でも準備されているが、アレクがデーゼマン家の備蓄品とデーゼマン師団の備蓄品を回したことで2日くらいであれば、持ちこたえることができるだけの数はある。

 もっとも、帝国軍が2日も魔術を行使し続けることができるかは、別の話であるが。


「簡単な食事とマナポーションを飲んだら、魔術士は防御魔術の展開をしろ!」


 昼を過ぎてもなお帝国軍の魔術と弓による攻撃は止まない。

 ジークフリート・ローゼンは援軍が必ずくると信じて、魔術士たちを鼓舞し続ける。

 視界の先には、地面を埋め尽くす帝国軍がいる。デーゼマン師団から情報がなければ、あの大軍の奇襲を受けていただろう。それを考えると、デーゼマン師団からの情報を信じて城を出なかった自分の判断を褒めてやりたいと口角を上げる。

 だが、自画自賛をしても状況は好転しない。この状況ははっきり言って絶望的なのだ。


「早くきてくれよ、英雄殿」


 デーゼマン師団の兵力は貴族軍を入れても2万ていどだ。それを考えると、本来であればこの戦力差をひっくり返すだけの数ではない。

 ジークフリート・ローゼンは1年前の休戦協定のきっかけとなったサダラード州の戦いを間近で見ていた。

 あの時、帝国軍本隊を落とし穴へ叩き落として、王国軍の勝利を完全に決定づけたアレクの土魔術が脳裏に焼きついているのだ。

 5000人近い帝国軍本隊が全員といっていいほど落とし穴におち、落とし穴の中で右往左往していた光景は1年経った今でも忘れることはできない。


 ジークフリート・ローゼンが守るボロス城が思った以上に抵抗をしているため、帝国軍を指揮するバルタザール・フォン・フォルスター中将は焦っていた。

 本来であれば、休戦協定失効とともに王国軍が攻めてくると思っていた。だが、王国軍はボロス城にこもって出てこなかった。

 攻めてくると思っていただけに、隠してあった援軍を使った奇襲ができなかった。

 思惑が外れたバルタザール・フォン・フォルスターは、こちらから攻めることを決断した。

 王国軍に籠城されても味方の兵数は圧倒的であり、ボロス城を一気に落とせると思ったのだ。


「えーい、何をしているか! あのていどの数をなぜ破れぬ!」


 増援は慎重に隠して、数を悟られないようにしていた。

 なのに、王国軍はボロス城にカメのように引きこもって出てこない。それどころか、大勢の魔術士による魔術攻撃にも耐え抜いている。

 バルタザール・フォン・フォルスターは午前中にも王国軍の魔術士の魔力が尽きて防御魔術が行使できなくなると考えていた。

 昼過ぎには味方の魔術攻撃によって防壁を破壊できるものと考えていただけに、思わぬ苦戦に奥歯を噛みしめてしまう。


「もうすぐ日が暮れるぞ! 魔術士たちは何をしているのか!?」


 連れてきた魔術士はおよそ1400。ボロス城に立てこもる王国軍の魔術士は精々200から300のはず。なのに、なぜ防御魔術を崩せないのか?

 答えは簡単だった。王国軍の魔術士の数はバルタザール・フォン・フォルスターの予想を大幅に上回る600ほどがいたのだ。しかも、王国には魔術筒という武器がある。魔術筒は魔術を発動させる武器だが、当然ながら防御魔術も発動できる。

 王国軍が帝国に奪われた領土を奪い返すための戦いをアレクにだけ頼るわけがないのだ。軍務卿は多くの予算を引き出して魔術筒と魔術弾を大量に生産させていて、その魔術筒と魔術弾はボロス城にも配備されている。

 さらにボロス城には、デーゼマン師団に所属する魔術士だけではなく、デーゼマン家が所有する魔術筒と魔術弾といった武器も大量に運び込まれている。

 つまり、魔術に関しては王国軍の数のほうが圧倒的に手数が多いのである。そのことを知らないバルタザール・フォン・フォルスターが焦りを覚えるは当然の話であった。


 夏ということもあって日は長く、冬であればとうに真っ暗になっている時刻になってもボロス城は落ちなかった。

 魔術士が魔術を発動させると光り輝く魔法陣が現れるため、夜の攻城戦で魔術士を使うと弓矢で狙い撃ちされる危険が伴う。

 弓矢のほうが魔術よりも射程が長く、弓矢は光らないので矢が飛んできても魔術士たちには分からないため、魔術士が矢によって狙撃されてしまう。魔術は強力だが、発動が分かりやすいという欠点があるのだ。

 防御魔術を行使するにも、いつ飛んでくるか分からない矢に合わせて防御魔術を発動させることは難しい。それに、そういった危険が高まる中での魔術の発動は、精神集中を必要とする魔術士にとって負担が大きいのだ。

 バルタザール・フォン・フォルスターは魔術士を後方に下げて、ボロス城を包囲する陣形で帝国軍を配置した。


 日が落ちて魔術攻撃が止んだボロス城の将兵は、大きな被害を出さずに今日1日を乗り切ったことに胸をなでおろした。

 夜は夜襲を警戒する見張り兵を立てて、魔術士と魔術筒部隊を休ませることができるだろう。


「ご苦労であった。明日もこの調子で頼むぞ」

 ジークフリート・ローゼンは魔術士と魔術筒部隊の面々を慰労し、士気を維持させることに努めた。

 これだけの戦力差があるため、士気だけは落とすわけにはいかないのである。


 

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