086_失地奪還戦
聖騎士の犬と言われた僕はガチャに目覚めて最強を歩む ~最強になりたいわけじゃない。ただ、誰かに引け目を感じたくないだけなんだ~
もよろしくお願いします。
十二章の始まりです。
ここから王国軍の怒涛の反撃が始まる……かも?
神帝歴622年4月初旬。
ヘルネス砦にほど近いエール村を要塞化したアレクは、副師団長であるマイラス・バージス准将に3000の兵を与えて守らせることにした。
さらに、エール村からベルムーイ、アーラスを結ぶ防衛網を構築した。
ベルムーイは騎士ハルバルト・デゼナンが治めている村だが昨年町に昇格しているし、アーラスは騎士ダンテ・ボールニクスの治める町だ。
この3つの村と町を結ぶ防衛網が築かれたことによって、帝国軍はデーゼマン領への侵攻が非常に難しくなったと言えるだろう。
昨年の侵攻時にはヘルネス砦を包囲してからデーゼマン領を攻めたが、圧倒的な戦力差があるにも関わらず非常に強固な防壁に阻まれて攻め切ることができなかった。
それだけでなく、夜になるとどこからかデーゼマンの兵が現れて暴れていき、徐々に体力を奪われた経験が帝国軍にはある。
全体的な戦局には大きな影響はなかったが、それでも局地的に手痛い反撃をデーゼマン領では味わっていて、その記憶がよみがえってくる。
「なんだあれは……?」
トット・エギヌ中佐、ジョナサン・アルバレス少佐、ウォーレン・アマナウ大尉、セリーヌ・マッタンホルン大尉、誰ともなく声が漏れる。
機甲科魔術部隊の首脳陣が目の前で繰り広げられている一方的な戦いに唖然とする。
機甲科魔術部隊は王国軍でも精鋭と言っても過言ではないという自負があったが、その機甲科魔術部隊30騎がたった1騎によって戦闘不能に追いやられたのである。
しかも相手は魔術を一切使用しておらず、武器は1本の槍だけなのだ。
「あり得ないだろ……」
機動力と攻撃力を併せ持つ機甲科魔術部隊がこうも一方的に戦闘不能に追いやられることなど考えたこともなかった。
「フリオ、ご苦労さん」
「いい訓練になったよ。兄さん」
槍1本で30騎の機甲科魔術部隊を戦闘不能にしたのは、デーゼマン家の末っ子でありリーサルウエポンと言われるフリオであった。
今年で17歳になるフリオの体はすでに大人のそれになっており、父フォレストにも負けない偉丈夫である。
そのフリオの愛騎カラミティはバトルホースということもあって、馬よりも二回りも大きな馬体をしていて、偉丈夫のフリオを乗せても空を飛ぶように颯爽と走る。
「エギヌ中佐、アルバレス少佐。今の訓練から得るものはあるはずです。機甲科魔術部隊の戦術に幅を持たせてください」
「……承知しました」
機甲科魔術部隊の副隊長であるトット・エギヌは、あんな化け物相手にどうしたら勝てるのか分からず、弱々しく言葉を返すにとどまる。
「さっそく、研究いたします」
参謀のジョナサン・アルバレスは、最強だと思っていた機甲科魔術部隊が赤子の手を捻るように簡単にあしらわれてしまった現実にショックを受けていたが、トット・エギヌとは逆で新しい戦術を考える楽しみに心が躍った。
「しかし、デーゼマン師団長の弟君は化け物ですな」
魔術士を束ねるウォーレン・アマナウが、呆れたようにアレクに話しかける。
「フリオは僕よりもよっぽど軍人に向いていると思うよ」
「槍の腕もそうですが、あのバトルホースを手足のごとく扱う技術は、見習うべきものです」
騎獣の操者を束ねるセリーヌ・マッタンホルンは、フリオの騎乗術に舌を巻く。
「フリオを基準に兵を鍛えるのは間違っていると思います。一般的な基準で精鋭となるように鍛えてください」
アレクが言うように、フリオを目指して鍛えるのは目標が高すぎる。それよりは、1人1人が精鋭と言われるデーゼマン家の兵士並みに鍛えるほうが現実的だ。
「父に時々訓練を見てもらうように頼んでおきます。これまでの訓練では気づけなかったこともあるでしょうから、いい刺激になると思います」
「よろしくお願いします」
「デーゼマン家の兵に劣らぬ兵に鍛え上げて見せます!」
今のアレクの肩書はデーゼマン師団の師団長、機甲科魔術部隊の大隊長、シュテイン駐屯地の司令官、そしてデーゼマン九等勲民家当主である。
組織として機甲科魔術部隊はデーゼマン師団とは別になっている。デーゼマン師団のほうが規模が大きいため、アレクを除く幹部はデーゼマン師団のほうが階級が高い傾向がある。
6月に入ると、ヘルネス砦を監視していたデーゼマン師団の斥候は、帝国本土方面から大軍がヘルネス砦に入ったのを確認し、直ちにエール村に駐屯しているデーゼマン師団副師団長のマイラス・バージス准将へ報告した。
「何、3万だと?」
「物資も大量に持ち込んだようです」
マイラス・バージスは斥候の数を倍に増やして、その軍がどこへ向かうのか確認させたが、3万の軍はヘルネス砦から移動するそぶりを見せなかった。
時を置かず、ヘリオにあって軍の管理とデーゼマン領の運営を行っているアレクにもその報告が届いた。
「元々ヘルネス砦とツバス砦、フォルド砦に2万から2万5000の兵が駐留していたはずですが、そこに3万が加わり最低でも5万の軍がヘルネス砦とツバス砦、フォルド砦に駐留していることになります」
参謀長のゲムズ・ホッパー大佐はさらに続ける。
「このまま休戦期間が終了した場合、帝国軍の大攻勢に曝されるのは間違いないかと」
「それは困りましたね」
アレクがそう答えると、ゲムズ・ホッパーは困ったで済む話ではないのだがと息を吐く。
「直ちに王都へ報告し、援軍を送ってもらいましょう」
「そうだね。軍務大臣と王国軍統括幕僚に書状をしたためます」
「お願いします」
だが、アレクとゲムズ・ホッパーは援軍はこないと考えている。正直言って、今の王国軍にそれだけの余裕はない。
現在、フェフレン州に第二騎士団、第三騎士団、第四騎士団が展開し、その東のアルガス州に王国軍3万、さらにはシュテイン州の北部にアレクのデーゼマン師団と南東部に1万5000の軍が展開している。
これ以上の軍を展開させるには、貴族の私兵をかき集めることになる。
しかし、今のシュテイン州の貴族をかき集めてもせいぜい1万2000がいいところだ。しかも、この1万2000はシュテイン州の貴族のほぼ全兵力になるが、貴族も自領を守らなければならないのでアレクの要請に応えて兵を出すかは分からない。
他の州から貴族が援軍を出すことも考えられるが、他の州の貴族は帝国の侵攻をまるで外国の話のように考えている者が多い。
テルメール帝国と戦ってきたシュテイン州の貴族、ケルマン渓谷を通じてトルスト教国と接しているサダラード州の貴族は長年戦ってきたことから危機意識を持っている者もいるが、他の州ではそうとはいかない。
「しかし、ヘルネス砦ってそれだけの軍を受け入れることができたのですね」
危機意識のないのほほんとした感じのアレクの言葉にゲムズ・ホッパーは苦笑いをする。
「ヘルネス砦は改修に改修を重ねて王国が拠点にしていた時点で4万以上の軍が駐留できるようになっています。それを帝国軍がさらに改修したのでしょう。それにツバス砦とフォルド砦もありますので、6万くらいは受け入れることができるのではないでしょうか」
「6万ですか。それはまた大軍ですね」
<<お願い>>
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