085_アレクサンダー・デーゼマンという英雄
聖騎士の犬と言われた僕はガチャに目覚めて最強を歩む ~最強になりたいわけじゃない。ただ、誰かに引け目を感じたくないだけなんだ~
もよろしくお願いします。
久しぶりに家族揃っての夕食。
今までと違っているのはアレクがフォレストが座っていた当主の席に座っていることだ。
アレクのすぐ右にラーレ、その横にカーシャ、クリス、クリスの夫であるザクル・ゼンバー、ロア、ロアの夫であるガブリオ・ボールニクス。
左にフォレスト、リーリア、マリア、フリオ、エリー、エリーの夫であるカズン・アーデン。
楽しく夕食が進みメインディッシュにさしかかった時、フォレストがロベルト・アーシア・アムントからの提案をアレクに伝えた。
「アムント様がそのようなことを……」
アレクはデーゼマン領に到着する前にアムンゼンのアムント屋敷に寄ったが、フリオとセーラのことは聞かなかった。
「俺に話を預けた以上、それ以上の必要を感じなかったのだろう」
フォレストはアレクの空になったグラスに酒を注ぐ。
「して、どうする?」
「どうするとは……?」
「今はアレクが当主だ。お前が判断を下せ」
「……フリオはどう思っているんだ?」
フォレストから判断を任されたアレクはフリオを見つめる。
「僕は……よく分からない。セーラさんにも会ったのは一回だし、ちゃんと話したこともないんだよ」
フリオが戸惑っている。アレクにとっても降って湧いたような話なので、すぐに決断を下すのは難しい。
有力貴族であるアムント家と縁が結べるのは、デーゼマン家としてはメリットがあるだろう。
フリオの相手として名前が挙がっているセーラも、感じのよい女性だったのをアレクは覚えている。
アレクはカーシャの顔を見た。カーシャは肉をフォークで口に運ぶところだった。アレクの視線に気づいていないわけがないが、カーシャはアレクの視線を無視して肉をほおばる。
カーシャは娘についてはデーゼマン家の関係者へ嫁に出すか、他所から婿を取らせて外に出さないが、アレクやフリオの嫁については何も言わない。その意思表示だろう。
「フリオがどうしたいか決めるといい。セーラ嬢に会いにいってもいい」
フリオは困った顔をする。
「もし、結婚したいと思わなかったら?」
「その時は話をなかったことにしてもらう。僕がアムント様に断りを入れるよ。それでいいですね、父さん」
「アレクの判断に従おう」
夕食後、真剣に悩むフリオはマリアに結婚のことを相談した。
「フリオの好きにすればいい」
マリアはアレクと同じことを口にした。
「そんな簡単なことじゃないと思うんだ。もし、この話を断ったらアムント家との間にわだかまりが残るよね」
「そうね。断ればだけど」
マリアはいつものように無表情でぶっきらぼうに答える。だけど、その言葉の中にマリアの思いが詰まっていると、双子のフリオには分かる。
「断らないと思っているの?」
「うん」
「なんでそう思うのさ」
「フリオだから」
「………」
マリアにはフリオが断らないという確信があった。しかし、その確信の根拠になるものは、なにもない。いや、双子として特別なシンパシーのようなものがあるのだ。
フリオがマリアの顔をじっと見ている。
「そうだね、僕は断らない」
例えアレク兄さんの代わりだとしてもと続けようとしたが、フリオは飲み込んだ。
アムント家としては、英雄としての階段を駆け上っているアレクとよしみを通じたい。本来であれば、セーラをアレクに嫁がせたいところだが、ラーレに先を越されてしまった。
側室と考えたこともあるが、ロベルト・アーシア・アムントも娘は可愛く側室ではなく正室にしてやりたいと思ってしまった。
政治家として有能なロベルト・アーシア・アムントだが、親としての情が勝ったのだ。
だが、フリオを選んだロベルト・アーシア・アムントの判断は後に評価されることになるだろう。フリオには、それだけの力があるからだ。
翌日、フリオは結婚の話を受けるとアレクに報告した。
「いいのかい? 会ってから決めてもいいんだよ」
「いいんだ。もう決めたから」
セーラが好きかと聞かれれば、分からないと答えるだろう。だけど、貴族の子弟だという自覚はある。
「そうか。分かった、アムント様にはそのように返事をするよ」
「うん。よろしく、兄さん」
アレクは師団の指揮官として軍の仕事もしなければならないが、デーゼマン家の家長として貴族との折衝もする。もちろんのことだが、デーゼマンという貴族家の当主として家臣たちをまとめ、民を率いていかねばならない。
アレクの肩にはズシリと重い責任が圧し掛かっている。
▽▽▽
帝国の占領地付近に王国が軍を展開しているのは、帝国南部方面軍でも掴んでいた。
それが防衛のためか、それとも反攻作戦のためなのか情報を集めているところだが、大方の見方は帝国に奪われた領土を奪い返すために軍を配置しているというものだ。
「ヘルネス砦近くのデーゼマン領にアレクサンダー・デーゼマンが入ったとのことです」
帝国南部方面軍の参謀長を務めるロベルト・フォン・バルゼンが、同軍の司令官であるサンダー・カルコスへ報告書を提出する。
「レーベ将軍を捕虜にした者であったな」
フェフレン州へ攻め入ったベルガルト・フォン・レーベ率いる2万5000の軍が、アレクの機甲科魔術部隊とアレク自身の魔術によって大敗したのは記憶に新しい。
その大敗があったために休戦協定を結ぶ羽目になった。
ベルガルト・フォン・レーベは今現在本国へ送還され、休養という名目の謹慎処分を受けている。
「はい、王国では英雄と言われているとの由」
サンダー・カルコスは報告書からロベルト・フォン・バルゼンに視線を移す。その視線は鋭く、ロベルト・フォン・バルゼンは剣を喉元に向けられている錯覚を覚えた。
「まだ十代の若者だと聞く」
「今年で18歳になる若者です。しかし、このアレクサンダー・デーゼマンという人物、侮ることはできませぬ」
サンダー・カルコスは617年に帝国南部方面軍が侵攻し敗れた報告書に、アレクサンダー・デーゼマンの名があったのを思い出した。
「アレクサンダー・デーゼマンは617年の侵攻時に軍を率いていた将軍を捕虜にしました。それによって、我らは2年間の休戦を余儀なくされました。619年にはトルスト教国との戦いで戦功を挙げ、数十の兵で1万以上の兵を破ったとも聞きます。多少の誇張はあるでしょうが、素晴らしい戦功でしょう。直近ではレーベ将軍が捕虜にされております」
「現在が18歳ということは、13歳の頃には戦場で多大なる戦果を挙げていることになる。そのような若者がと思わないではないが、敵を過小評価するのは……命取りとなるである」
「左様でございますな」
サンダー・カルコスは椅子から立ち上がり、窓の外を見る。
「休戦協定が失効したら、ヘルネス砦を狙ってくるか?」
「十中八九は」
ロベルト・フォン・バルゼンの返答にサンダー・カルコスが頷く。
「海上輸送を滞らせぬように」
「閣下はヘルネス砦が落ちると?」
「さて……。私はそのアレクサンダー・デーゼマンという人物と戦ったことがないからな。だが、激しい戦いになれば、ヘルネス砦経由の補給はあてにはできぬ」
「そうですな」
「そのアレクサンダー・デーゼマンという人物の情報をもっと集めるのだ。どんな些細なことでもいい」
「承知しました」
ロベルト・フォン・バルゼンが敬礼し部屋を出ていくとサンダー・カルコスは、窓の外に広がる雪雲によって薄暗い空を見つめる。
「アレクサンダー・デーゼマン。英雄は虚像か……それとも実像か」
サンダー・カルコスは目を細め笑う。強い敵と戦えるかもしれないと、喜びを感じるのだ。
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総合評価が5万ポイントを越えました。
嬉しいので、今日は2話更新しますね。




