083_アレクサンダー・デーゼマンという英雄
聖騎士の犬と言われた僕はガチャに目覚めて最強を歩む ~最強になりたいわけじゃない。ただ、誰かに引け目を感じたくないだけなんだ~
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神帝歴621年12月。
デーゼマン家の家督相続に関係する混乱は、やっと収まったように思えた。
アレクは11月に家督を相続し、そのまま軍にも籍を置くことになったのだ。
家督相続を延期した場合、領内に混乱が広がる可能性が高く簡単に延期することはできない。
逆に国王の意向に反して軍籍を抜ければ、デーゼマン家に友好的であった国王との間に軋轢が生まれてしまう。
帝国との最前線であるデーゼマン領にとって国王との軋轢は致命傷になりかねない。ならば、国王の意向通りに軍籍を残したままデーゼマン家の家督を相続するのがベターな選択だと判断したのだ。
ただし、国王の意向とはいえこれまでにない対応をするのだから、それなりの配慮をしてもらうことが条件になった。
「アレクサンダー・デーゼマン少将に、師団を与えることになった。兵員は1万5000。ただし、機甲科魔術部隊は今までと変わらず増強をしてもらう」
軍務大臣、軍務副大臣、統括参謀長、王国軍統括幕僚、他に王都防衛三軍の総司令官ボリス・ワーレン上級大将も出席する中、アレクに辞令が言い渡されている。
「拠点はデーゼマン領内に築き、その建設費、師団の駐留にかかる全ての経費は国が負担する」
ここまでなら普通の師団の新設と同じ流れである。だが、今回はこれに留まらぬ配慮がなされることになっている。
「また、今回は特例としてデーゼマン少将は自領の運営と共にこの師団の指揮を執ってもらう。そのため、デーゼマン師団はデーゼマン少将の判断によって帝国軍と戦う権限を与える」
アレクは王都からの命令なしで独自に動くことが許されたのだ。それは、今までにないほどの権力である。
これまで帝国の最前線はヘルネス砦であった。そのヘルネス砦の司令官には、帝国軍の侵攻に対する防衛の権限はあったが、独自の判断で戦端を開く権限はなかった。
しかも指揮する兵は少なく、結果としてヘルネス砦に立てこもって援軍を待つという戦術になってしまっていたのだ。
それが常備兵で1万5000の兵力を得て、さらに帝国軍との戦いにおいて自由な裁量を与えられたのは、これまでのヘルネス砦の司令官にない大きなものである。
「戦時下にあっては、周辺貴族を指揮する権限も与える」
国が、いや国王がアレクに用意した権限は非常に大きく、少将が持つ権限の範疇を超えているのは誰の目にも明らかである。
そのことに異論を唱える貴族も多かったが、国王がそれらの貴族に対して最前線のシュテイン州への領地替えを仄めかすと自然と声は聞こえなくなった。
結局のところ、そういった貴族は自分たちに関係がない場所で起こっている戦だと思っているのだ。
だが、それは間違いである。もし、このまま帝国がバレッド州の全域とシュテイン州の多くを領有し続けたら、それは王国の国力が大幅に低下するということだ。
それはすなわち、貴族たちにかかる負担が大きくなるということと、場合によっては遠方の領地であっても帝国軍との戦いに兵を派遣しなければならないということである。
そのことを分かっている貴族は、アレクに多少の権力を与えてでも帝国軍を王国から駆逐するほうを選ぶのであった。
もちろん、アレクが帝国軍を駆逐できなければ、再び反デーゼマンの声は大きくなるだろう。
「失地奪還作戦を来年8月に控えている。デーゼマン少将には、万全の態勢で臨んでもらいたい」
「努力いたします」
失地奪還はデーゼマン家としても望むことである。今のように帝国と領境が接しているのは、領民にとって不安でしかないからだ。
領民の不安は経済にも波及するだろう。それはデーゼマン家としても好ましくない。
そして何より、帝国軍がいつ攻めてくるか分からないのでは、精神衛生上よろしくない。
辞令を受け取ったアレクは、気の引き締まる思いで軍務大臣の執務室を後にした。
そんなアレクは舅である王国軍統括幕僚の執務室の控室で、王国軍統括幕僚であるステイラム・オイゲンスを待っている。
ステイラム・オイゲンスは軍の物資や兵員の補充に関する責任者であり、師団を率いることになったアレクとこれから物資や人員の補充に関する話があるからだ。
しばらくするとステイラム・オイゲンスが控室に入ってきた。
アレクは待合室の椅子から腰を浮かしてステイラム・オイゲンスを敬礼で迎える。
「待たせてしまったね。ささ、奥へ」
ステイラム・オイゲンスは軽く敬礼を返し、待合室から自分の執務室にアレクを招き入れた。
「座って楽にしてくれたまえ」
「はい」
アレクは促されたようにソファーに座ると、ステイラム・オイゲンスもその向かいに座る。
「婿殿には年明け早々にデーゼマン領へ向かってもらう」
「はい」
ステイラム・オイゲンスはいくつかの書類をテーブルの上に並べた。
「現在の機甲科魔術部隊の兵員は2200名だったね」
アースリザードの数よりも兵員がかなり多いが、これはアースリザードを補充した時の操者と射手、そして厩務員などが含まれている。
「はい」
ステイラム・オイゲンスは1枚の書類をすーっとアレクのほうに出す。
「機甲科魔術部隊の増員の件だ。デーゼマン領はアースリザードの産地ということもあって、できるだけ多くの補充をしてほしい」
これからの戦いを考えれば、当然の要望だ。
しかし、アースリザードの補充には問題がある。アースリザードを捕獲できる場所の一部が帝国軍によって占領されているのだ。
「できる限りの努力をします」
ステイラム・オイゲンスは頷き、次の書類を差し出す。
「これは師団の編成について」
アレクは頷き、それを受け取る。
「1月に1万5000の兵を預けることになる。その後、速やかにシュテイン州のデーゼマン領へ赴き、拠点を建設してもらうことになる」
またもすーっと書類を出す。
「婿殿の手を煩わせるが、師団の駐屯地は婿殿の手で築いてもらう。物資は私が責任を持って送るので、安心してほしい」
アレクは「ありがとうございます」と言って書類を受け取る。
ステイラム・オイゲンスは頷き、アレクを見る。
「ラーレもデーゼマン領へ赴くのだな?」
「はい。ラーレも年明けに領地へ向かいます」
「寂しくなる……。ラーレをよろしく頼むぞ、婿殿」
「分かりました」
ステイラム・オイゲンスはアレクの手を取って何度も頷く。
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